ぼくのエリ 200歳の少女 - 岡本太陽

◆人間の少年とヴァンパイアの少女の美しい恋物語(80点)

 こんなに美しいヴァンパイア映画が今まであっただろうか。スウェーデンから生まれた『ぼくのエリ 200歳の少女(原題:LET THE RIGHT ONE IN)』という映画はヴァンパイア映画の常識を覆す。ヴァンパイア映画というと近年では『ブレイド』や『アンダーワールド』が挙げられるだろうか。いずれにしてもヴァンパイア映画=アクション映画という印象があるが、スウェーデン人映画監督トーマス・アルフレッドソンのヴァンパイア映画は1味も2味も違う、人間の少年とヴァンパイアの少女の優しいラブストーリーだ。

 この映画には脚本を手掛けたヨン・アイヴィデ・リンドクビストの同名小説の原作がある。彼はイギリスのミュージシャン、モリッシーの大ファンで、彼の曲「Let The Right One In」に影響を受けて物語を書き上げた。そしてこれまたモリッシーファンのアルフレッド監督がそれを映画化したのだ。

 主人公はストックホルム近郊にある町ブラックバーグに母と住む12歳の少年オスカー(カーレ・ヘーデブラント)。彼はいつも学校でクラスメイトによるイジメにあっている。抵抗もせず、母親にさえイジメの事を告げないオスカーは、夜に1人で復讐の妄想に耽る。彼がナイフを手にし、刺す練習をしている時に、窓からオスカーの住む同じ建物に新しく引越して来た父とオスカーと同じ年頃の娘の親子を見る。

 オスカーはある晩雪の中でその引越して来た青ざめた顔の少女エリ(リーナ・レアンデション)と言葉を交わす。以来、彼は彼女の事を気にかける様になるのだが、その頃町では若い男性が木に逆さに吊るされ首を切られるという殺人事件が起こる。それ意外にも町では次々と奇妙な出来事が起こり、オスカーはエリがヴァンパイアだと知ってしまう。オスカーが光なら、エリは闇、またエリは強くオスカーは弱い。オスカーとエリは互いに互いを必要とする運命的な関係を築く。この映画が普通のヴァンパイア映画と違うのは、主軸にラブストーリーがある事。それにホラーの要素を含めた物語なのだ。

 エリは少女の姿をしているが、実は200歳のヴァンパイア。彼女は生き血を吸う事で飢えをしのぐしかなく、12歳の少女の体に閉じ込められた自分自身の宿命に疲れ果てている。彼女の保護者的存在のハカン(ペール・ラグナル)という男はエリの血の供給を手助けする役割を担っている。エリが直接人を襲わない代わりにハカンが夜にコンテナやナイフ等の入った黒いケースを持って血を求めるのだ。

 血を求めるという事は死者も出るという事。またヴァンパイアが血を吸えば、吸われた人もまたヴァンパイアになる。そんな事が小さな町で突然起これば、当然そこに新しく越して来た人が疑われる。エリは町から町へ常に移動して生きてきた。だから彼女はオスカーにこう言う「わたしと仲良くしないで」と。しかし、ある時エリはハカンを失う。そして、彼女にはオスカーしかいなくなるのだ。悲しいハカン、彼も実はエリに惹かれた男、おそらく彼もオスカーと同じ年頃の時にエリに出会ったのだろうか、彼女は歳をとらないが、ハカンは徐々に老いてゆく。オスカーに少し嫉妬するものの、エリには誰かが必要な事が分かっているため、彼は彼で自分の宿命を受け入れる。

 この物語では「運命」という言葉を感じずにはいられない。仏教を重んじる国では輪廻転生が信じられている。それは人々には前世が存在する事を意味する。例えば、初めて会ったはずなのに、何故か見覚えのある人は前世で会っており、繋がりも強いと言われる。オスカーとエリは出会った時に互いに何か強い絆の様なものを感じた。もし彼らが前世で強い繋がりがあったとしたら? 彼らが出会ったのはやはり運命であり、避けられぬ事だったのだろう。彼らは来世でもまたどんなかたちであれ出会ってしまうのかもしれない。

岡本太陽

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