ライアン・ゴズリング主演の奇妙なコメディ映画（65点）
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わたしの友人が以前話していたのだが、関西ローカルだった『探偵ナイトスクープ』という番組で、あるマネキンに恋をした女の人がいて、そのマネキンと結婚式を挙げるというエピソードがあったそうだ。わたしの友人はそのエピソードにショックを受けていたが、なんと、それを連想させる様な映画が公開された。『ラースと、その彼女』という不思議なコメディである。
監督を務めたクレイグ・ギレスピーは、今年の9月にビリー・ボブ・ソーントン主演の『MR. WOODCOCK』という鬼教師が出る学園もの（？）のコメディ映画で監督デビューを果たしたばかり。わたしはビリー・ボブ・ソーントンがあまり好きではないので、その映画は未見であるが、同監督により製作されたラースと、その彼女』は初監督作品公開より、1ヶ月も待たない公開となった。『MR. WOODCOCK』と『ラースと、その彼女』は興行的には悪くはなく、健闘していると言っていいだろう。
『ラースと、その彼女』の中で主役のラーズを演じるのは今年のアカデミー賞にノミネートされたライアン・ゴズリング。『きみに読む物語』で一躍スターとなった彼だが、最近は脱力系俳優の印象が強く、昨年の主演作『ハーフ・ネルソン』でそれが実力ともに開花した。その他の代表作には『16歳の合衆国』『FRACTURE』等がある。一度観ると演技が強く印象に残る俳優である。その他『ラースと、その彼女』には、エミリー・モーティマー、パトリシア・クラークソン、ポール・シュナイダー、ケリ・ガーナー等が出演。
物語の主人公ラーズはシャイで人とのコミュニケーションがうまくできないが、町のみんなに愛されている。そして彼は兄夫妻の住む家のガレージに1人で隔離された様に暮らしている。何年もの間、人の温もりや、感情等から遠ざかっていたラーズだったが、ある日兄夫妻の家にガールフレンドを連れて来る。ラーズがやっと人との繋がりができたと喜んでいた兄夫妻だったが、彼が連れてきたのはなんとビアンカと名付けられたセックスドールだった。ラーズは兄達にビアンカはブラジル出身で英語があまり得意ではないと説明する。そのセックスドールがまるで生きているかの様に接するラーズに兄夫妻は戸惑い、彼が狂ってしまったと心配し、医師に相談する。するとその医師が言うにはラーズは妄想を抱く病気だという。しばらく様子を見る為、兄夫妻はラーズを傷つけまいと彼に合わせて行動する事にする。そしてラーズとビアンカの事は町の皆の知ることとなるのであった…。
この映画の一番の魅力は何と言ってもライアン・ゴズリング。孤独の中で育って、人の温もりに不慣れという、センシティブでピュアな役どころだが、それが彼にぴったりマッチしているのだ。ライアン・ゴズリングには人を引きつける魅力がある。それから彼は物語の中で歌声を披露するのだが、これがまたうまいのである。自ら作曲もする彼だけに歌唱の才能もある。これだから子役スター上がりは侮れない。
人形に恋をするなんて、なんだかオタク映画の様だが、これはオタクの様な執着が基にある映画ではない。表情のないセックスドールが日常の風景の中にいることで、奇妙でおかしくてしょうがないのだが、そのセックスドール抜きだと、非常にシリアスな映画なのである。もしただのオタク映画ならば、明るい映画になるだろうが、主人公が精神的な病気ということから基本的に暗めの内容にならざるを得ない。ラーズの葛藤の映画と言っていいだろう。一応コメディ映画だが、暗め。しかし暗いだけに終わらなかったのは、ビアンカとライアン・ゴズリングのお陰だろう。
この映画のポスターは背景がピンクだし、わたしはてっきりブラックユーモアたっぷりの明るいコメディかと思っていたが、それとは裏腹に結構シリアスで映画を観終わった後は、少々落ちてしまった。セックスドールを使用する時点でリアリティからかけ離れているはずなのに、妙にリアリティに固執してしまい観客を魅了するには欠けるものがある。真面目過ぎるところが玉に傷だ。『ラースと、その彼女』はミシェル・ゴンドリーの映画の様にキュートな映画に成りかねなかったはずだが、今ひとつ物足りなさを感じた。しかし、アイデアはわたしの大好物である。セックスドールに恋してしまう？そんな変な映画は見逃さない。
（岡本太陽）
