◆江川監督らしさを押し出し、もっと過激なゲームを(10点)
中世のヨーロッパが起源だそうだが、合コンの風物詩こと王様ゲームはどこか日本人にぴったりな余興である。
引っ込み思案でひとり突出した事がしにくい国民性ながら、王様の命令という錦の御旗のおかげでちょぴり過激でエッチなコミュニケーションも可能になる。しかも王様自身、誰が何番なのか知らないというギャンブル性。すなわちうまい具合に、誰も責任を取らずにすむ。まるで官僚制のようなシステムになっている。これを日本的といわずなんというか。
さらにいえば、過激になりすぎて場のムードを壊さぬためには、全員が空気を読み抑制を利かせる必要がある。たいして盛り上がらぬ序盤などは、必死に周りが鼓舞することも必要だ。
素人さんが、よくもノーギャラでそんなバラエティ番組出演みたいな気疲れすることをやるもんだと感心するが、その協調精神こそが日本の美点なのかもしれない。
奇妙な構造の部屋に、男女10人が集められた。それぞれ誘拐まがいの方法で集められた、何の関係も無い10人である。彼らはこの密室の中で、10日間に渡って王様ゲームを続けることを強要される。それぞれには個室と食事が用意され、夜はゆっくり眠れるが、いったいこの主催者は誰なのか。何を目的としてるのだろうか……。
漫画家・江川達也が「東京大学物語」(06年)に続き監督した個性派ムービー。原作があった前作より、さらに実験的で挑発的な設定の、ワンシチュエーションスリラーだ。
彼の漫画家としての腕はすでに定評があり、こうした異業種の才能が映画界に新風を吹き込んでくれることを私は常に期待している。この作品にしても、あらすじを読むだけでも面白そうだと感じられる。そういう当たり前の企画が、ありそうでないのが日本映画界の悲しさである。
ともあれ、冒頭で説明したとおり日本らしさの塊である王様ゲームを、シュールなスリラーと組み合わせる。じつに見事な着眼点だなと私は感じたわけだ。だから、相当な期待を胸に試写室に出かけていった。
だが残念ながら、それは裏切られてしまう。序盤は期待通りで、理不尽な監禁王様ゲームに参加した男女たちの、真の人間関係が明らかになるくだりは十分スリリングだった。ある男女のキスを、ある人物に実況させるシーンは、まさに江川イズム全開といった感じでその後の展開を楽しみにさせた。
ただ、そこを頂点に中盤以降は物語がガタガタになり、人間描写も深まることなく終わってしまう。途中で面白そうなキャラが何の脈絡も無く脱落してストーリーから消え去るなど、どうみても監督が描写を放棄したとしか思えず、余裕の無さを感じざるを得ない。
また、本作はどうみても低予算なのだから、無理に部屋の外にでることなく密室劇を極めたほうがよかったと思う。漫画なら予算の制限などなく世界のどこにでもいけるが、実写映画はそうはいかない。江川監督には、両者の溝を埋めるブレーンが必要かもしれない。
「東京大学物語」を描ける人物が作る映画なのだからと、もっと過激な描写を期待してしまったのもまずかった。だが嫉妬と独占欲、愛の三つ巴を江川監督が描くのならば、やはりその期待は過剰だったとはいえまい。いくらなんでも「江川達也」でこのソフトさはないと思う。
王様ゲームのリアリティも伝わりにくく、そもそも出演者、監督ともやったことがあるのだろうかと思ってしまうほど。設定は非現実的でもいいが、肝心のゲーム風景はリアルであってほしいものだ。木村佳乃のような芸達者がいるのにもったいない。
結果的に、着想はよかったが脚本化の途中で力尽きてしまったような印象。あまりにも製作陣が力不足、いや、それだけでなくさまざまなものが不足した映画で、せっかくのアイデアがもったいない……と思わざるを得なかった。
(前田有一)