K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝 - 前田有一

怪人二十面相の秘話を描くアクションドラマ(70点)

© 2008「K-20」製作委員会

 江戸川乱歩の子供向け推理シリーズに登場するダークヒーロー、怪人二十面相を主題にしたこのアクション映画は、お正月にぴったりな気楽な娯楽作となった。

 日本が戦争に巻き込まれずに更なる発展を遂げた架空の1949年、帝都。サーカス団のスター曲芸師、遠藤平吉(金城武)は、見知らぬ編集者からその運動能力を見込まれ、名探偵・明智小五郎(仲村トオル)と羽柴華子(松たか子)の結納式の盗撮を高額で依頼される。だが、その結納式には巷を騒がす大泥棒、怪人二十面相も陰謀を仕掛けていた。

 推理小説好きには、すぐに話の展開が読めてしまう内容だが、それでもラストにはちょっとした驚きが隠されている。怪人二十面相の新解釈で話題になった北村想の原作を、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの制作プロ、ROBOTが映画化した。よって、VFXを駆使した華々しい見せ場も用意される。

 とはいえ邦画は、まだまだCGの使い方にスマートさがない。とくにこうした大作だとその傾向が顕著。本作でも、一番大事なクライマックスのジャイロ救出場面などは、ギャグとしか思えぬ状況になっている。総合的な映画的完成度の高さは望むべくもない。

 ただし、架空の帝都を再現した風景CGはいい味を出している。戦争に巻き込まれず1949年を迎えていたら……と、ある種の歴史ロマンを感じさせる。そこに出てくるお姫様役の松たか子がまた、年甲斐もなくかわいらしく、真っ白なドレスがご本人にも、昭和ノスタルジーを思わせる街並みにもよく似合っている。ニコラ・テスラを引き合いに出すなど、物語全体に漂うオカルト風味、スケール感の大きさもいい感じだ。

 何より私が気に入ったのは、サーカス団員を演じる金城武が二十面相を追跡するスタントシーンである。

 ヤマカシよろしく体ひとつでビルも壁ものりこえ、地図上をひたすら一直線に走りぬける。そのスピードと躍動感あふれる肉弾戦はいかにも映画的で、痛快極まりない。先ほど書いたようにこの映画は背景となる街並み自体に魅力があるので、過去の類似品とはまた違った良さがあるのである。

 それを演じる金城武が非の打ち所のないイケメンで、見ているだけで美を感じさせるのも大きい。むろん、彼のしゃべる日本語セリフを聞けば「天は二物を与えず」を激しく実感できるものの、そのあたりはとっくに織り込み済みなので今更マイナスには感じないというわけだ。

 あまり細かいことは気にせず、それこそ大掛かりなサーカスでも楽しむつもりで鑑賞することをすすめたい。

前田有一

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