◆世の中にファックユーと言いたい大人の男達の為の応援歌(70点)
40代の迷える3人の男達を主人公としたスティーヴ・ピンク長編初監督映画『HOT TUB TIME MACHINE』。まだマイケル・ジャクソンの顔の色が黒かった時、彼らは人生最高の日々を送っていたが、その時想い描いた未来予想図とはまるで違う現実に打ちのめされ現在人生座礁中。モトリー・クルーの「ホーム・スイート・ホーム」を始めとする、全編80年代のヒットソングで飾られる本作はとことん馬鹿で楽しく、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』を彷彿とさせる、男たちが日常を忘れハメを外そうとするコメディ。しかし、本作がタダのお馬鹿映画ではないのは、悲しい悲しい要素が底辺に広がっているから。
アダム(ジョン・キューザック)は彼女に捨てられ、ニック(クレイグ・ロビンソン)は妻への信用を失い、仕事にも不満を抱え、ルー(ロブ・コードリー)は良い年して遊んでばかり。長い事顔を合わせていなかったが、それぞれ人生の危機を迎えた親友3人は、ルーの起こした事故を機に再会し、アダムの甥でゲームオタクの20歳のジェイコブ(クラーク・デューク)を連れて4人でスキーリゾートへ向かう。そこは彼らにとって忘れられない思い出の詰まった特別な場所。早速以前滞在したホテルのジャクジー風呂で馬鹿騒ぎする男達だが、次の日彼らは周りの異変に気付く。なんと彼らは1986年にタイムスリップしてしまったのだ。
お風呂がタイムマシーンになってしまうという発想はかなり滑稽だが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で車がタイムマシーンになるのも言ってしまえば似た様なアイデア。そんな80年代ならではの悪趣味で可愛らしいスタイルがタイトルからも読み取る事が出来る。また本編には、テレビに映るレーガン大統領、『ベスト・キッド』に影響された男子、レッグウォーマー、カセットプレーヤー等典型的な懐かしの光景が登場し、タイムスリップというよりは登場人物達が奇妙な80年代のテーマパークに迷い込んでしまったかのよう。
タイムスリップものの映画でよく思い出されるのが、時間を超えた先で本人に会ってしまうという経験。ところが本作ではタイムスリップする当事者の時間が巻き戻り、肉体だけがその当時と同じ状態になってしまう。そこで面白いのがタイムスリップした本人同士は時間が戻る前の状態に見えるという点。もちろん、彼ら目線で語られるこの映画の観客にも彼らは40代の男達として映る。
精神は40代のままで昔に戻ってしまうアダム、ニックそしてルーの男3 人組。「バタフライエフェクト」を意識し、元いた世界に異変を起こさないよう、過去にやった事と同じ事を繰り返そうとする彼ら。しかし、彼らに降り掛かった状況は実は誰もが一度は願い事が叶った事。 これは人生をやり直すチャンス。正直なところ、現在の世界では共に人生の袋小路に陥っている彼らだけに実は元の世界に戻る必要はないという事実がこの物語の悲しい所以。
ある者にとっては80年代は最高の時で、ある者にはそれは戻りたくない場所。人生やり直す事は出来ないはずだが、もう一度その思い出の詰まった時に戻り、男達のそれぞれの想いが交錯するのが本作の見所の1つ。また、リアリティに欠ける点が目立つため、物語自体の説得力はやはり『ハングオーバー』に比べると弱いが、やるせない気持ちを抱える登場人物達が、タイムスリップを通してそれぞれに答えを見つける様は、内容が後ろ向きながらもどこかポジティブなものを感じさせる。80年代にブレイクしたジョン・キューザックが主人公に扮し、プロデューサーも兼ねているのも非常に意味深だ。
(岡本太陽)