◆昔懐かしいオールド・スクール・ホラーに捧げるスプラッター・コメディー。残酷描写が派手で、ホラーへの愛に満ちている(80点)
この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。
オールド・スクールとは「保守的」という意味だが、普通は70~80年代前半の「古き良き」ヒップホップのことをいう。本作は「オールド・スクール・ホラー」を謳っている。70年代後半から80年代前半の古き良きスプラッター映画を指しているのだろう。それは、「ハロウィン」(1978)、「13日の金曜日」(1980)、「バーニング」(1981)など、当時大量に作られた殺人鬼ホラーのことだ。
ニューオリンズでの謝肉祭最終日の祭り「マルディグラ」に訪れたベン(ジョエル・デヴィッド・ムーア)は、友人とともにブードゥー・ショップの「深夜の怪奇沼ツアー」に参加する。沼には奇形の少年ヴィクターが子供たちの悪戯で焼け死んだという伝説があった。一行は船で沼を行くが、座礁してしまう。未知の土地を歩く一行を、ヴィクターと思われる奇形の男が襲う。
本作はスプラッター・コメディーと言っていい。作り手たちはオールド・スクール・ホラーに敬意を表しながら、もはや2000年代には「恐怖」として通用しないことも十分に分かっているのだろう。体を斧で粉々にしたり、首をねじって殺したり、とにかくスプラッター描写が派手でいい。血が大量にドバッと噴出して、怖さよりもバカバカしさに拍車をかける。
殺人鬼ヴィクターの過去は「バーニング」のバンボロ(クロプシー)とほぼ同じ。「沼」が舞台なのは「13日の金曜日」のクリスタル・レイクを意識しているのだろう。ヴィクターの造形は「ファンハウス/惨劇の館」の怪物を思わせる。「エルム街の悪夢」シリーズのフレディ役で有名なロバート・イングランドも冒頭に出演している。さらに、ヴィクター役は「13日の金曜日」シリーズでジェイソンを演じたケイン・ホッダーである。様々な過去の作品を連想させるのは、最近のホラーに共通する特徴で、もはやいちいち数え上げるのが面倒くさいほどである。しかし、ファンとしてはやっぱり、「ああ、ここはアレだよなあ」と考えるのが、相変わらず楽しみではある。
それよりも、本作の面白さは、怪奇沼ツアーに参加した一行のキャラクターにあるのだろう。すぐに胸を見せる自称女優たち。彼女たちを撮影する自称映画監督。自称地元の怪奇ツアー主宰者。自称観光客。すべてが「自称」の世界なのである。一番胡散臭いはずの怪奇伝説が本当で、ツアーに参加した面々のほとんどはウソをついていた、という設定が実にシニカルだ。マルディグラというニューオリンズの有名な祭りの雰囲気もよく出ているし、ブードゥー・ショップの様子が分かるのも楽しい。
安っぽいスプラッターに安っぽいエロ、突然終わってしまうラスト。女優たちもなかなか美人。それで十分ではないか。オールド・スクール・ホラーへの愛を強烈に感じる本作は、実に見応えがあった。このぐらいのレベルならば日本で劇場公開されてもいいと思う。ホラー不遇の時代なのだろうか。シアターN渋谷でのトラッシュ・ムービー・フェスティバルでの上映だけで終わってしまったのが、非常に残念だ。続編も作られているそうで、今から楽しみ。ホラー・ファンには必見のB級映画である。
(小梶勝男)