HACHI 約束の犬 - 福本次郎

雨の日も雪の日も飼い主を待ち続けた伝説の犬が現代アメリカに復活する。運命的な出会い、愛情とじゃれあった日々、突然の別れ。さらに、飼い主の死後も変わらぬ忠誠心。映画は犬と人間の関わりを通じて、信頼の大切さを描く。(50点)

HACHI 約束の犬

© Hachiko,LLC

 激しい雨の日も、凍てつく雪の日も、太陽が照りつける夏の日も、毎日欠かさず飼い主が電車から降りてくるのを待ち続けた伝説の犬が現代アメリカに復活する。運命的な出会い、家族同様に注がれる愛情とじゃれあった日々、そして突然の別れ。さらに、飼い主の死後も変わらぬ忠誠心。犬にとって、命を救ってくれた上に育ててもらった人間はこれほどまでに信じられるものなのだろうか。映画は犬と人間の関わりを通じて、信頼の大切さを描く。そこにあるのは打算でも駆け引きでもなく、ただ相手を思う純粋な気持ち。人間同士ならば決してありえないような忠実な友情が犬との間には成立するのだ。

 駅で迷子になっている秋田犬の子犬を拾ったパーカーは、家につれて帰りハチと名づけて飼い始める。成長したハチは毎朝パーカーを駅まで見送り、夕方には駅に迎えに行く。ある日、パーカーは職場で発作に襲われ帰らぬ人となる。

 視覚があまり発達していない犬にとって、地面すれすれのアングルから見上げるモノクロの世界が目に入るすべて。その代わり足元しか見えない人間をにおいで判別する。音にも敏感で、パーカーが乗った電車が近づくと駅に向かって走り出す。パーカー一家とハチのふれあいを客観的に見つめながらも時に犬目線のショットを入れることで、犬の感覚を観客に少し分ったような気にさせる。それは尻尾を振って飼い主に媚びたりはしないが、自分で決めたルールは守り抜くという頑固さ。ハチの体に流れる秋田犬の誇り高き血統が、凛とした表情から香りたっていた。

 パーカーの死後ハチは娘夫婦に引き取られるが、勝手に家を出て駅でパーカーの姿を探す。その後10年、すっかり年老いたハチはそれでも毎夕5時に駅前に座り続ける。やがて、鮮明な色彩を持つ飼い主との楽しい記憶が脳裏によみがえったときハチも息を引き取る。人間の視点だけでなく、ハチの心情を過剰に擬人化せずに描き、後味のよい終わり方となった。

福本次郎

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