GREENBERG - 岡本太陽

◆シリアスかつコミカル、本作でも映画監督ノア・バームバックの才能が光る(85点)

 『イカとクジラ』や『マーゴット・ウェディング』で知られる映画監督ノア・バームバックの新作『GREENBERG』の主人公は無職の40歳、ロジャー・グリーンバーグ(ベン・スティラー)。ニューヨークの生活の中で精神的に疲れ果て病院に入院していた彼は、15年の後に出身地ロサンゼルスに戻り、とりあえずは職は探さず、しばらく休暇で家族とベトナムに行く弟フィリップ(クリス・メッシーナ)の豪邸の留守番役を受け持つ事にする。家の玄関のドアを修理したり、マメに苦情の手紙を書いたり、犬の世話をしたりしながら、旧友アイヴァン(リス・エヴァンス)やフィリップのパーソナル・アシスタントであるフローレンス(グレタ・ガーウィグ)らに会い、一度は去った土地に再び繋がりが芽生える。

 以前はニューヨークでミュージシャンとして活躍していただけに、かなりナルシスト気味のロジャー。旧友の集うパーティでは「現在求職中」と言う代わりに、「今は何もしない事にしているんだ」と言う。そんな彼に「その年で勇敢ね」と、昔の恋人ベス(ジェニファー・ジェイソン・リー)は返答しにくいロジャーの発言にそう言葉を返す。地元に留まり、結婚し子供を持ち、すっかり落ち着いてしまったベスとアイヴァン。大抵の人は彼らの様に年相応に振る舞おうとするだろうが、ロジャーはそんな流れにはどうしても逆らいたい。

 フローレンスは最近恋人と別れたばかりで心に傷を負った25歳。街のギャラリーで友人と遊んだり、バーでパフォーマンスをしたりしながら人や物事に流される日々を送る中、彼女はふと出会った雇い主の兄で、普通の大人とは違い、どことなく傷つきやすそうなロジャーに好意を抱き始める。ロジャーもまた彼自身が頑固で繊細ゆえに、外見は特に彼のタイプではないが、彼をジャッジせずあるがままを受け入れてくれるフローレンスに心地良さを感じる。なんとなく互いが彼らにとっての居場所の様に見える2人。

 現代に生きる人々に見られ、特に大都会で生きる人が抱える傾向にあるアイデンティティ・クライシス。フローレンスは多くの若者が漠然と生きている様に根無し草状態でふわふわ漂い、ロジャーはそれとは少し違い、青年期への執着から、周りに取り残されてしまっている印象を与える。何かを求めて現代を彷徨う孤独なロジャーとフローレンスは、共に繋がりを持つ事で、彼らを置き去りにしている世界と結び付こうとする。

 年齢を重ねるごとに積もりゆく不安。それに押しつぶされそうになっている人々を監督・脚本のノア・バームバックは、『GREENBERG』の中で優しく描き出す。また、ダークな素材を取り入れながらも『彼女と僕のいた場所』から始まったバームバックの作品同様、彼独特のユーモアが本作全体に満ち溢れている。それから本作では、LCDサウンドシステムのジェームズ・マーフィが主にサウンドトラックを手掛けているのだが、彼の紡ぎ出す音楽が登場人物の心情と重なり合い、人物描写に長けた監督ならではの才能も伺い知る事が出来る。

 近年ハリウッド大作コメディ映画への出演が著しく目立つベン・スティラー。ところが今回のインディペンデント系映画でのこのロジャーは意外にもハマり役。演技面で評価される事の少ないスティラーのコミカルかつシリアスな演技は、役者としての大きな飛躍であり新鮮にすら映る。

 またアメリカではマンブルコア映画の女王として知られる共演のグレタ・ガーウィグ扮するフローレンスが本作では非常に魅力的で、物語が進むにつれて彼女の存在がまるでもう1人の主人公の様に大きくなってゆく。今まではかなり小規模な作品への出演が多かったガーウィグだが、演技らしい演技ではなく、自然体でモゴモゴ喋る彼女のスタイルが本作ではより多くの観客に認知される事となるはず。

 ロジャーはロサンゼルスの街を走る車から、何気ない日常の風景の中に空中で踊る空気人形を見つける。頭の中を空っぽにして伸び伸びと生きたい、それを見つめるロジャーの眼差しはそう語る。考えれば考える程膨らんでしまう頭の中のモヤモヤ。そのモヤモヤを抱える主人公ロジャーとフローレンスの2人。キャラクター設定は非常に細かいものの、ケース・スタディ風の物語のため、本作はまるで本物の人生の様に展開が全く読む事が出来ない。バームバックが彼らを愛情を持って描いた様に、わたしたちは彼らがどう人生のページをめくっていくのか温かく見守もろう。

岡本太陽

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