◆ニュージーランド、エジプト、日本の自然と世界遺産を、地球観測衛星からの映像と、4K3Dデジタルカメラによる映像で描いた立体映画。38分の短編だが、3D本来の魅力が存分に味わえる(71点)
日本における「3D元年」といわれた昨年から今年にかけて、デジタル3D作品が次々と公開されている。アニメーションやモーション・キャプチャーについては、立体効果に満足した作品が多かったが、実写となるとどうか。モーション・キャプチャーと実写が融合した「アバター」は別として、「アリス・イン・ワンダーランド」は妙に画面が暗く、「タイタンの戦い」は殆ど飛び出す感じがなかった。実写の3Dは果たして成功しているといえるだろうか。
すでに閉館してしまったが、かつて、新宿タカシマヤタイムズスクエアに「東京アイマックス・シアター」があって、3Dの実写映画をよく見た。ほとんどが1時間ほどの中篇で、深海や砂漠、森、滝など自然の絶景、恐竜のいた太古の時代を描くCGなどを、3Dの大画面で見ることが出来た。ストーリーはあってないようなもので、3Dの見世物的な面白さを伝えるのが主眼とされていた。それだけに、飛び出し感、奥行き感は抜群だったと思う。
本作を見て、あのころの3D作品を思い出した。世界最大級の地球観測衛星「だいち」が捉えた地上700メートルからの映像と、ハイビジョンの約4倍の解像度という4K3Dデジタルカメラによる実写映像で、ニュージーランド、エジプト、日本の自然と文化遺産が、圧倒的な迫力で描き出される。38分の短編だが、画面がとても明るく、構図も3Dの効果が最大限に引き出せるように計算されていて、立体映像本来の魅力を存分に味わえる。
映し出されるのは、ニュージーランドでは、テカポの世界一美しいといわれる星空、テ・ワヒポウナムのフィヨルド、カヒカポアの森、サザーランドの滝。エジプトではピラミッドとハトホル神殿。日本では広島の厳島神社と原爆ドーム。「おくりびと」の脚本家、小山薫堂が構成を手がけ、本木雅弘の長女・内田伽羅が出演している。監督は映像ディレクターとして活躍している日下宏美だ。
教育映画的な内容ではあるが、次々と繰り広げられる驚異的な映像には圧倒された。特に、落差580メートルというサザーランドの滝を上から見た場面は、滝壺に吸い込まれそうに思えるほどリアルだった。高い所から下を見て怖くなることがあるが、あの感覚だ。地球観測衛星から見た地上の映像は、写真や映像でしか見ることが出来ない地表の様子だが、3Dでは自分が実際に空から見ているような気分を味わえる。また、3Dステディ・カムで建物の内部に入っていく映像の臨場感が凄い。ピラミッド、原爆ドーム、厳島神社の内部にカメラが入っていくが、まさに自分が歩いて進んで行くような感覚が味わえた。その奥行き感は他の実写3Dにはない見事さだった。
デジタル3Dの場合、立体上映のシステムや画面の大きさ、劇場での調整が重要だ。今回私が見たのは、キューテック赤坂本社Grading-1の試写室で、リアルDだった。画面は試写室としては大きい方かも知れないが、一般の劇場ほどではないだろう。すでに(2010年4月24日から)日本科学未来館ドームシアターガイアで3D上映されているが、今後(6月19日)、ワーナー・マイカル・シネマズで上映されるという。かつてはこの種の3D作品は、「東京アイマックス・シアター」のような特定の場所に行かなければ見ることが出来なかった。今はシネコンで気軽に見ることが出来るのが、嬉しい。
(小梶勝男)