◆1920年代のイギリス貴族階級の甘ったらしさを暴くコメディ映画（60点）
結婚して相手方の家に入るというのはいつの時代でも難しいもの。映画『EASY VIRTUE』ではジェシカ・ビール扮する妻が結婚相手（ベン・バーンズ）の家へ嫁ぎ、姑（クリスティン・スコット・トーマス）の洗礼を受けてしまい、家の中で緊張感が高まっていく。そんな普遍的な題材を含む本作は、ありきたりな物語の中で偽善や欺瞞、そして1920年代のイギリス貴族階級の甘ったらしさを暴いてゆく。
美貌に満ち溢れるアメリカ人女性のラリータ（ビール）は夫を亡くしたデトロイト出身の車のレーサー。そんな彼女はジョン・ウィッテカー（バーンズ）という年下のイギリス人男性にモナコで出会い意気投合し電撃結婚する。ジョンに連れられて田舎にある彼の実家の屋敷に行くラリータだが、そこはにはヴェロニカ（トーマス）という彼の母と、コーネル（コリン・ファース）といういつも悲しげな表情を浮かべている父がいた。ヴェロニカは直ぐさま息子の嫁を敵視し冷たい態度を取り始め、それ対しにラリータは表面的には冷静に繕うが…。
本作の監督を務めるのは『プリシラ』『氷の接吻』のオーストラリア人映画監督ステファン・エリオットで、シェリダン・ジョビンズと共に本作の脚本も手掛けた。本作は元々1924年に書かれたイギリスのノエル・カワードの同名戯曲であり、1928年にはアルフレッド・ヒッチコックがそのカワードの戯曲を基に無声映画『ふしだらな女』として制作した。カワードは喜劇を好んで書いており、彼のウィットに富んだ世界観をエリオットは見事映画で表現している。
本作ではラリータの2度目の結婚という冒険の中で、イギリスの貴族階級に冷たい眼差しを向ける。またジャズ・エイジの風潮も物語に多く反映されており、その背景に使用されるジャズのサウンドトラックが非常に印象的だ。
ウィッテカー家にはヴェロニカ、コーネル、ジョンの他に2人の娘ヒルダ（キンバリー・ニクソン）とマリオン（キャスリーン・パーキンソン）がいる。この娘達もヴェロニカと共にラリータとジョンの結婚を邪魔しようと試みる。コーネルと家の召使い達がラリータに好意的なこともあり、彼女はヴェロニカと仲良くしようと試みるが姑はそれを断固拒否。嫁の腸は徐々に煮えくり返ってゆく。
物語の後半ではコメディ調の物語の中でラリータ、ウィッテカー家双方の秘密が明らかになり、少々メロドラマ的展開をしてゆく。ヴェロニカにはアメリカ人であるラリータの事が気に入らない以外にも、息子と彼女を別れさせる理由があったのだ。なぜなら実は家は経済的危機に陥っており、ヴェロニカは容姿端麗、性格も素敵なジョンは良家の娘と結婚し家を守って欲しいのだ。またラリータの前夫は彼女よりも随分年上で癌で亡くなったのだが、その死にラリータが関与しているというスキャンダルが発覚する。
ラリータはレーサーで、当時は男の世界に足を踏み入れた自由な精神を持った女性。そんな彼女だからこそ、ヴィクトリア朝にこだわり続けるウィッテカー家では行きが詰まるのも当然で、彼女はウィッテカー家との暮らしの中で自分の本質に気付いてゆく。本作が書かれたのは1924年であり、物語の舞台も同じ頃で、どうして今頃これを映画化しなければならなかったのかと感じる人もいるかもしれない。しかし、この100年に1度の不景気の中だからこそ、甘ったれた人の中に飛び込む女性の物語から何か学ぶものがあるのではないだろうか。それと同時に本作は才能溢れる俳優達が集結した誰が観ても楽しめるコメディ映画である。
（岡本太陽）
