◆心を読む能力を持った男が、魔法の鏡の中で人々の願望をリアルな幻覚として再現する。しかし、人間の想像力が産みだすビジュアルなど所詮はその人の知識や経験の延長上にあり、そこには歩んできた人生が深く投影されるのだ。(50点)
人の心を読む能力を持った男が、魔法の鏡の中で人々の願望をリアルな幻覚として再現する。ある者は放蕩の果てに悔悛の情を抱き己に罰を下し、ある者は永遠の若さと美貌を取り戻して恋のヒロインになろうとする。イマジネーションの世界では思い通りになることもあれば、意に反して苦悩と苦痛を生む結果にもなる。鏡に入って幸せになる者、反対に一刻も早く逃げ出したくなる者、結局想像力は無限といわれているが、人間の想像力が産みだすビジュアルなど所詮はその人の知識や経験の延長上にあるに過ぎず、そのビジョンには歩んできた人生が深く投影されるのだ。
パルナサス博士が座長を務めるイマジナリウムは、鏡の中に入った客の願いをかなえるという出し物。パルナサスは二ックという悪魔に不死の命を与えられ、その代償として娘のヴァレンティナを差し出す約束をしていた。そんな時、ヴァレンティナが橋の上からつるされていたトニーを救う。
二階建てバスほどもある巨大な馬車が石畳をゆっくりと進む導入部分から、いきなり現代のシーンなのに濃厚な過去の空気に引き込まれる。19世紀の見世物小屋風の時代がかったステージと衣装は、そこだけタイムスリップしたような錯覚を覚える。さらに記憶喪失だったトニーが仮面をかぶることで饒舌となるのは日常からの逃避。21世紀のロンドンを舞台にしているのに、芝居がかった彼らの振る舞いは100年以上時が止まっている。それは、夢を売る商売をしている者ほど現実に追われ、非現実の中に逃げ込むことでバランスを保とうとしているかのようだ。
パルナサスがいざなう空間は、目を見張るような色彩やめくるめくようなスリルを味わせる映像とは程遠く、絵本に描かれているような控え目な描写。CGを効果的に使えばもっと幻想的になったにもかかわらず、あえて登場人物の脳裏に浮かんだ光景という制限を設けている。そのあたり、撮影途中で亡くなったヒース・レジャーの役をジョニーデップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルといったスターが演じることで、CGに回す予算がなくなったのかと変な勘ぐりをしてしまうのだが。。。
(福本次郎)