10メートルの飛び込み台に立つダイバーたちをとらえたカメラワークがすばらしい。眼下に広がる目くるめくような空間の広がりが非常に感覚的に再現され、演技に入る寸前の一瞬の緊張感と息遣いが手に取るように実感できる。(60点)
10メートルの飛び込み台に立つダイバーたちを斜め下方から上昇したり、上空からなめるかのような動きでとらえたカメラワークがすばらしい。眼下に広がる目くるめくような空間の広がりが非常に感覚的に表現され、演技に入る寸前のダイバーたちの一瞬の緊張感と息使いが手に取るように実感できる。さらに飛び込み選手を演じるにあたり、若い俳優たちの肉体的なトレーニングの成果が水着一枚になったときに明らかになる。しなやかなに伸びた手足と割れた腹筋、贅肉が一切そぎ落とされたボディラインがこの作品にきらめきを与えている。
ダイビングクラブに通う知季は新任コーチの麻木に素質を見出され特訓を受ける。やがて同じクラブのエリートダイバー・要一、ダイナミックな飛沫らとともに、北京五輪に向けての選考会に臨む。
物語は3人の少年たちが抱えるそれぞれの私生活上の問題を絡め、つまずいたりくじけたりしながらも最後には飛び込み台に戻ってくるという青春ものの常道で、むしろそういったエピソードを描きこみすぎたために中だるみしている感は否めない。普通の中学生だった知季が自分の運命を自覚し、他のものを犠牲にして飛び込みに打ち込む姿に絞って描いていれば、もっとスピーディな展開になったはず。さらに原作の設定どおりとはいえ、いくら才能があってもほとんど実績のなかった中学生が半年程度のトレーニングで日本のトップクラスになれるほど甘いものなのだろうか。このあたり映画化するにあたってもう少しリアリティを持たせて欲しかった。
飛び込みというマイナー競技のルールを試合の中継という形を取って解説してくれるので、詳しく知らなくても分りやすい。それ以前に、選手たちが実際にジャンプ台から飛び、ひねりや回転を加えながら落下していく様子を丁寧に撮影しているので、高度に洗練された技がいかに美しく難易度が高いかが理解できる。ただ、せっかく導入した撮影技術をダイバー目線で使って、彼らが体感する落下スピードを再現して欲しかったのだが、その唯一のシーン、選考会のラストダイブに余計な知季の知覚を入れてしまったのは残念だった。
(福本次郎)