◆家族向け? いやいや、これは実はパニック・ホラー映画だ(65点)
『Disney’s クリスマス・キャロル(原題:DISNEY’S A CHRISTMAS CAROL)』は言わずと知れたイギリスの文豪チャールズ・ディケンズの名作を映画化したもの。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』で知られるロバート・ゼメキス監督が贈る本作は、『ポーラー・エクスプレス』以降ゼメキス監督が制作し続けているモーション・キャプチャーCGアニメーション映画第3弾だ。また『ベオウルフ/呪われし勇者』でも好評だった3Dプロジェクションで、クリスマス・シーズンに驚きと感動を届ける。
本作は、金に貪欲で町のみんなに嫌われている老人スクルージを主人公に、彼が3人の精霊に出会い自分を省みる特別な体験をし、新しい人生を出発させるという物語展開は原作と変わらない。誰でも知っている物語をわざわざ映画館で? と感じてしまうかもしれないが、本作は最新技術で見せる。登場人物や町の景色が芸術的レベルで美しく、モーション・キャプチャーによる登場人物の動きもリアル。またこれだけ効果的に3Dを使った作品は今年一番と言っても過言ではなく(視覚的には『カールじいさんの空飛ぶ家』を軽く上回っている)、映画そのものがアニメーションを超えた遊園地のアトラクションの様で、まさに映像と音の洪水だ。
声の出演者も魅力的で、ジム・キャリーが主人公スクルージ、過去のクリスマスの霊、現在のクリスマスの霊、未来のクリスマスの霊を含む1人7役をこなしており、『マスク』『バットマン・フォーエバー』『グリンチ』等、特異なキャラクターを作り上げる才能のある彼だけに、ほぼジム・キャリーのワンマンショーになっているのが面白い。その他にもゲイリー・オールドマンがジェイコブ・マーレイ、ボブ・クラチットとその息子ティムの3役に挑戦し、コリン・ファースがスクルージの甥フレッドに、ロビン・ライト・ペンがスクルージの初恋の相手ベルに、ボブ・ホプキンスが実業家のフェジウィッグに扮し、物語を豪華に彩る。
スクルージの事業パートナーだったマーレイの亡霊、スクルージが孤独の中で夢を抱いていた少年期と青年期へ連れて行く過去のクリスマスの霊、現在何が起こっているかをスクルージに見せる現在のクリスマスの霊、そして真っ黒な姿をした不気味な未来のクリスマスの霊は時に笑いを誘う事はあるものの、人間の深層心理をするどく抉るキャラクター達。そんな彼らにスクルージはいたぶられ、精神的に追いつめられてしまうため、本作は恐ろしい映像の連続。侮って観ると、こんなに暗くて怖い映画とは予想外という結果に。子供向けではないのは確実だ。予告編を観ると家族向けの映画の様だが、これは実はパニック・ホラー映画なのだ。
しかし、なぜ今『クリスマス・キャロル』なのだろうか。そもそもディケンズはこの物語を不況に苦しむロンドンで書き上げ、1843年に出版した。それから多くの人々に読まれ、今もなお人々に希望を与え続けている。そして150年以上経った現在、人々は世界恐慌に苦しんでいる。また、金銭欲で腐敗した者、自分本位にしか考えられない者、愛とは無縁の者が今も世の中には必ずおり、物語の普遍性と現在の社会状況が見事に重なり合い、結果的に非常にタイムリーな作品となった。暗い闇の中で生きる今のわたしたちに何が出来るだろうか。スクルージの様に自身を省み、今までの生き方を変える。そうする事と、信じる事で、きっとわたしたちはちょっとでも明るい未来を手にする事が出来るのかもしれない。本作にはそんなメッセージが込められている。
(岡本太陽)