Dear Heart -震えて眠れ- - 福本次郎

◆細胞の記憶は持ち主の死後も生き続けるのか。心臓はドナーの本能をそのまま保持し、移植された作家の精神を狂わせていく。しかし、血やナイフのイメージばかり先行して悪意の源泉が中途半端にしか描かれておらず中途半端だ。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 細胞の記憶は持ち主の死後も生き続けるのか。特に臓器の中でもいちばん重要な心臓ならば、そこに宿った思いは強烈。心臓はドナーの本能をそのまま保持し、移植された作家の精神を狂わせていく。しかし、血やナイフのイメージばかり先行して肝心の悪意の源泉が中途半端にしか描かれておらず、作品のテンションは盛り上がらない。もっと、心が浸食されていく男の感情を主観的に表現して、人格を乗っ取られる恐怖を具体的に見せるべきだろう。

 心臓移植手術を受けた信二は妻の美輪子、介護士の聡子と共に山深い別荘に向かう。やがて信二は血まみれの女やナイフを持った少年の幻覚を見る。その後も人が変わったように目つきが悪くなり、食べ物の好みも変わっていく。

 その変化は心臓と共に信二の体に移ったドナーの思念の仕業なのだが、信二は陰険な表情になっていくだけであまり怖くなくい。しかも信二の「意思」はドナーの「心」と戦おうとせずすんなりと自分の人格として受け入れる。このあたり、信二の良心とドナーの狂気の葛藤があってもよかったのではないか。「シャイニング」を何の工夫もなく換骨奪胎するだけでは、目の肥えた観客は満足しないだろう。せっかく作家を主人公にしているのだから、あらゆる女性を「売女」と憎むドナーの少年時代のトラウマを何らかのエピソードとして昇華し、その苦悩から解放してやるくらいのアイデアはほしい。

 ドナーは事故死した連続女性殺人事件の容疑者と判明、信二の体は完全に殺人鬼の心に支配されていく。聡子を捕まえて嬲るシーンでは、緊縛して殺したかつての犠牲者のイメージを再現させるが、そのシーンでもエロさや残酷さも控えめで、「火曜サスペンス劇場」のような2時間ドラマを見ている気分。また、移植手術を行った医師の教え子が「細胞の記憶」を研究しているのだから、そのあたりを深く掘り下げるなどの工夫が必要だ。物語は凡庸、高島礼子の演技も控えめ、せめて観客を楽しませる弾けた要素があればよかったのだが。。。

福本次郎

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