ダルフールを救う為に活動する6人のドキュメンタリー(採点なし)
今年『THE DEVIL CAME ON HORSEBACK』というダルフールで起きた民族浄化の大虐殺についてのドキュメンタリー映画が公開された。この映画は、アフリカ連合ダルフール軍事監督官として活動していたブライアン・ステイドル氏が、目撃した光景を基に製作されたドキュメンタリー作品だった。惨殺された人々、破壊された集落等を写真に納めたステイドル氏は軍事監督官としての任期を終えた後は、ダルフールの状況を世界に発信しようと試みている。
このダルフールの大虐殺についてもう1つのドキュメンタリー映画が公開された。そのタイトルは『DARFUR NOW』という。『THE DEVIL CAME ON HORSEBACK』はブライアン・ステイドル氏の軍事監督任期時とその後の活動を中心に作られていたが、今回の『DARFUR NOW』では、「NOW」という通り、ダルフールの現状や、その対策等、6人の国籍も立場も違う人々を通して描く作品である。
その6人とは、UCLAの学生でダルフールの人々を救う為に立ち上がったアダム・スターリング、ダルフールで農作業を営んでいたが、現在は難民キャンプの建設者アーメド・モハメド・アバカル、国際刑事裁判所検察官ルイ・モレノ=オカンポ、ハリウッドスターのドン・チードル、世界食料計画のリーダーのパブロ・リカルド、そしてジャンジャウィードにより村を破壊、そして幼い息子を殴り殺されたのを機に、レジスタンスに加担する女性へジャワ・アダムだ。
国籍も立場も違う彼らの目指すものはただ1つ。それはダルフールを救うということ。わたしたちはこの様な映画を観た際に、わたしたちも何か行動を起こさなくてはという思いに駆られるだろう。しかしながら、どうやって行動を起こせばいいのかわからないのが現状で、歯痒い気持ちにさせられてしまう。
しかし6人のメインの登場人物のうち、24歳のアダム・スターリングに焦点を当てるストーリーはわたしたちの現状とそんなに違いはないのだ。彼がやったことはスーダン政府への投資引き上げ。大学生でウエイターとしてアルバイトをしていた彼にとってはもちろん大きなコネクションはなかった。彼は大学のキャンパスでのチラシ配りから始めた。そんな小さなことから始めた彼だったが、その小さなことはやがて彼の夢へと変貌を遂げる。
この映画にはドン・チードルをはじめジョージ・クルーニーやアーノルド・シュワルツェネッガー等が出演しており目を引くが、アダム・スターリングの様にわたしたちと何ら変わらない状況の人をメインキャラクターに含めたことで、わたしたちにも何かできるのではないか、と思わせる作りになっている。ただこの映画自体はあまりその他のドキュメンタリー映画と変わりは感じられない。例えるなら『DARFUR NOW』はテレビ番組の「情熱大陸」でも観ている様な感じに近いかもしれない。インパクトはその前に公開された『THE DEVIL CAME ON HORSEBACK』の方が強いだろう。
アルゼンチンで起きた軍事独裁下の大虐殺裁判に立ち会ったことのある、現国際刑事裁判所検察官ルイ・モレノ=オカンポはこう唱える、『力を信じる者は、その力を失う』。彼のこの言葉は虐殺のみならず、戦争の首謀者、それからわたしたちの日常にも完全に当てはまる。とても印象深い言葉だった。
(岡本太陽)