COACH コーチ 40歳のフィギュアスケーター - 福本次郎

◆高級車を乗り回す独身生活をエンジョイし、現状にあきらめに近い満足を覚えている一方で、心には埋めがたい空白と将来への漠然とした不安を抱えている。そんなヒロインの感情と、彼女を取り巻くスケート界の日常がリアルだ。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 才能のない子供や初心者のオッサンにレッスンをしながら心は冷めている。華やかなショーで身にまとう女子高生の制服姿の不自然さも自覚している。かつてフィギュアスケートの五輪候補だった女・40歳の現在が丹念に描かれる。高級車を乗り回す独身生活をエンジョイし、現状にあきらめに近い満足を覚えている一方で、胸には埋めがたい空白と将来への漠然とした不安を抱えている。そんな微妙な気持ちと彼女を取り巻くスケート界の日常が非常にリアルだ。もう若くないけれどまだ若者と張り合うオバサン、十代のスケーターがヒロインを見るイタいまなざしが残酷だ。

 アイスショーのスケーターをしながらジュニア選手のコーチも務める美和の元に、昔の恋人の娘・飛鳥が現れる。直後に元恋人は交通事故で死んでしまい、美和は飛鳥を引き取る。登校拒否気味の飛鳥の言葉に奮発した美和は、オリンピック挑戦を宣言する。

 一度引退して20年近く経ったロートルが現役復帰して再び頂上を目指すのは、G・フォアマンや伊達公子の例のごとく、決して「豚が空を飛ぶ」ことではない。今では「青いバラ」同様、困難ではあるが不可能ではなくなっている。それゆえに美和の復帰トレーニングにもっと具体的かつ革新的なディテールを盛り込んでほしかったが、彼女がトライするのは自転車漕ぎと空手だけ。若い選手のようにジャンプや回転で勝負できないのだから、人生で多くの経験を積んだ大人だけが持つ感情を表現する特訓すべきだろう。

 美和と飛鳥の関係やカトシューという謎のコーチの存在、さらにカレーおやじの無意味なおしゃべりといったドラマ部分は安っぽい深夜ドラマを見ているようなのに、五輪予選シーンになるとカメラは突如饒舌となる。演技するスケーターとともに氷上を滑り、さまざまな角度から彼女たちの表情を肌理細やかにとらえ、その魅力を最大限にまで引き出すのだ。美和のスケーターとしての映像とひとりの女としてのエピソードの出来栄えに、大きな落差があるのが残念だった。

福本次郎

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