COACH コーチ 40歳のフィギュアスケーター - 山口拓朗

◆西田美和の演技ができていないため、作品自体が冗談のようになってしまっている(20点)

 独身の40歳、倉田美和(西田美和)は、アイスショーなどで活躍するかたわら後進の指導にもあたっているプロフィギュアスケーター。ある日、元恋人の子供をあずかったことから、人生が動き始める。彼女は20年前に一度捨てた「オリンピックに出場する!」という夢を叶えるべく、再びフィギュアスケートの競技に取り組み始めた……。

 谷亮子やクルム伊達公子、岡崎朋美など、30代後半で活躍するアスリートが珍しくないなか、40歳のフィギュアスケーターが夢に再挑戦するというテーマは悪くない。しかし、主演に本物のプロフィギュアスケーター・西田美和(現役最年長)を起用しての作品作りは、ものの見事に失敗している。

 第一に西田美和の演技ができていないため、作品自体が冗談のようになってしまっている。スポコン映画でこれほど魅力に乏しい主人公も珍しい。いや、きっと西田美和自体は魅力的な人なのだろう。本人に罪はない。悪いのは、演技ができない人間を「プロフィギュアスケーターだから」というだけの理由で起用した作り手のほうだ。

 人物描写にも首をひねりたくなる。あまりに覇気のない主人公が致命傷なのはもちろん、コーチに対して敬意を払わない子供(教え子)たち、身元不明の子供に冷たい態度で接する大人たち、食堂の従業員にありえないクレームの付け方をするオヤジなど、よくもまあ、これだけ妙ちくりんな人ばかりを登場させられたものだ。しかも終盤にきて、主人公のライバルに実は「ある秘密があった」という、お涙ちょうだいなサプライズまで飛び出す始末。この安直さにはさすがに呆れた。

 筋立ては王道のスポコンドラマなのに、カメラはなぜかドキュメンタリー風に手ぶれするし、コントラストを利かせすぎた映像は、時折目障りなハレーションを起こす(本気で目が痛くなった)。ユーモアのない演出は思わせぶり感だけは一人前。フィギュアスケートの裏舞台に迫ろうとした室希監督の熱意は買うが、その熱意がどうも空回りしている。この状況のなか、安藤美姫や荒川静香、伊藤みどり、佐野稔らフィギュア界の知った顔がチョロっと登場したところで"焼け石に水"もいいところだ。

 少なくともこの映画を見て、アラフォー世代が「私も頑張ろう!」とやる気を奮い立たせることにはならないだろうし、同様に、フィギュアスケートに興味・関心を持つ子供が増えるとも思えない。観客に夢や元気を与えてくれるかと思いきや、逆に、観客から元気を吸い取るきらいさえある本作「COACH コーチ 40歳のフィギュアスケーター」。バンクーバーオリンピックに合わせてのタイムリーな公開にもかかわらず、積極的にオススメできないのがなんとも残念だ。

 と、お小言を並べてしまったが、高度なテクニックを誇るフィギュアスケーターの演技が、通常のテレビ放映ではあり得ないアングルから見られる点などは、この映画の見どころといえるだろう。熱心なフィギュアスケートファンがこの映画にどのような評価を下すのか、注目である。

山口拓朗

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