『ファイト・クラブ』のチャック・パラニューク原作小説の映画化!(70点)
デヴィッド・フィンチャー監督作『ファイト・クラブ』。カルト的な人気を誇るこの映画の原作者はアメリカ人小説家、エッセイストのチャック・パラニューク。彼の書く物語は人が実際に話す様な短い文章で綴られ、皮肉的なブラックユーモアを散りばめている事で有名で、その彼が2001年に発表した「チョーク!」はニューヨーク・タイムズのベストセラーに選ばれる快挙を果たした。そして今秋、そのパラニュークの2001年のベストセラーの映画化作品が公開。本作は『CHOKE』は2008年のサンダンス映画祭でプレミア上映を迎えた。
医学部を中退し、植民地時代のテーマパークで働いているセックス中毒のヴィクター・マンシーニには私立病院に入院している痴呆症の母アイダがいる。しかし母の入院費は高く、レストランでわざと喉を詰まらせ、助けてくれた人からお金を恵んでもらい、ヴィクターはその入院費を支払っている。ほんとうの父の事を知らずに生きてヴィクターだが、ある日突然母の口から父親についての驚くべき事実があると告げられる…。
本作の監督を務めるのは、この映画にも出演している俳優のクラーク・グレッグ。『CHOKE』はグレッグの劇場版初監督映画になるのだが、彼は脚本も担当し、それを原作に忠実なものにしようとパラニュークの本の研究に5年の歳月を費やした。そしてグレッグは原作を基に脚色し、パラニュークも気に入ってしまうブラック・ロマンティック・コメディを完成させた。
ヴィクター・マンシーニを演じるのはサム・ロックウェル。ヴィクターの行う喉を詰まらせる儀式は、金持ちのパトロンを探すためのもの。彼らに可哀想な男性を「救った」と思わせるのが狙いで、救った者と救われた者の関係性が金に繋がるのだ。人の善意を利用して生活する心の捻曲がった男として主人公が描かれており、ヴィクターは未だ知らない父親像を探し求め人生に迷う。ロックウェルは可笑しくもありドラマチックでもある主人公には相応しいキャスティングだ。
セックスもこの物語では重要な役割を果たしており、ヴィクターは意味のないセックスを繰り返す。彼はセックス中毒者のミーティングにもブラッド・ウィリアム・ヘンケ扮する友達のデニーと出席するが、同じくセックス中毒者の女性とミーティングにも関わらず、そこを抜け出しセックスをする。その彼はアンジェリカ・ヒューストン扮する母アイダが入院する病院で、ケリー・マクドナルド扮する女性医師ペイジ・マーシャルに出会う。ヴィクターとペイジは病院内にある教会でセックスを始めるが、キリストを前にしているからか、彼女に恋をしてしまったからかセックスが出来ない。ヴィクターは実はピュアでセンシティブな男なのだ。
母の告白と、美人の医師との出会いが退屈なヴィクターの生活を掻き乱し、彼は今までに味わった事のない痛みを体験する。そしてその痛みが切なく爽やかなエンディングをもたらす。本作は絶妙なユーモアで彩られるコメディ映画だが、意外にも複雑でシリアスな部分もあり、その馬鹿馬鹿しさとドラマチックさの行き交いがたまらない。そしてこのエンディングをRADIOHEADの「RECKONER」が更に感動的に盛り上げてくれる。
(岡本太陽)