すべて彼女のために - 小梶勝男

◆無実の罪で投獄された妻のため、夫は全てを投げ打って行動に出る。夫婦愛というより、運命に立ち向かう男をリアルに描いたサスペンスの秀作だ(81点)

 暗闇の中、人が争う音だけが聞こえてくる。そして、血で濡れた手で車を運転する男。その表情は、もう後戻りできない不安と、突き進んでいくしかないという意思を、見事に物語っている。冒頭から、ただならぬ緊迫感。この場面だけで十分に、「いい映画」の予感がする。それは裏切られなかった。

この映画の批評を読む »

コトバのない冬 - 小梶勝男

◆俳優・渡部篤郎の長編初監督作。ワンテイク、NGなしで撮影した、ドキュメンタリーでも、劇映画でもない物語(83点)

 俳優たちは普段から、映画にはワンテイクしか必要ないと思っているのかも知れない。俳優が監督すると、ワンテイクで撮りたがるように思う。俳優ヤン・イクチュンが製作・監督・脚本・編集・主演を務めた韓国映画「息もできない」(2008)は、打ち合わせ、リハーサルなしのワンテイク。クリント・イーストウッドもほとんどワンテイクで撮ると聞く。そして本作も、俳優・渡部篤郎が原案・監督・出演を務め、ワンテイク、NGなしで撮影された。

この映画の批評を読む »

恋するベーカリー - 小梶勝男

◆ナンシー・マイヤーズ脚本・監督・プロデュースのコメディー。下ネタ満載で下品だが楽しい(66点)

 かつてイタリアに「艶笑喜劇」というジャンルがあった。本作はアメリカ映画だがその系列だろう。一見、感動作のように見えるが、かなり下品な下ネタのコメディーだ。名優メリル・ストリープがこういう役をやるのは、ロビン・ウィリアムスが変態の悪役をやるようなものなのだろうか。

この映画の批評を読む »

人間失格 - 小梶勝男

◆太宰治の著名な原作を、「赤目四十八瀧心中未遂」(2003)の荒戸源次郎が監督、ジャニーズJr.の生田斗真が主演した話題作。鈴木清順風の映像は悪くないが、原作の表面をなぞって、その奥まで届かなかった印象だ(66点)

 「人間失格」を映画化するのは、大変難しいと思う。個人的には、太宰治の本質は文体にあると思っている。「何が書かれているか」よりも、「どう書かれているか」の方に魅力があるのではないか。その文体をどのように「映画」として視覚化するのか。私には想像がつかない。もちろん、映画はいつも、私の貧弱な想像など軽々と超えてゆく。今回もそれを期待したのだが、残念ながら、そうはならなかった。

この映画の批評を読む »

隣の家の少女 - 小梶勝男

◆実話に基づく米国版「女子高生コンクリート詰め殺人事件」。ひたすら不快な作品で、見るには覚悟が必要だ(54点)

 1960年代、米インディアナ州で起きた少女監禁陵辱事件をモチーフに、ジャック・ケッチャムが執筆した同名のベストセラー小説の映画化だ。

この映画の批評を読む »

シェラデコブレの幽霊 - 小梶勝男

◆Jホラーの原点ともいえる伝説の作品がついにベールを脱いだ。多くのホラー・ファンにとってトラウマとなった怖さは、今見ても十分に納得できる(88点)

 現在、「Jホラー」と呼ばれるジャンルを作った黒沢清、高橋洋、小中千昭、鶴田法男、中田秀夫、清水崇らの著作や講演、対談などを追うと、Jホラーに直接的に影響したと思われるいくつかの作品が出てくる。それはジョルジョ・フェローニの「生血を吸う女」(1961)であり、ジャック・クレイトンの「回転」(1961)であり、ハーク・ハーヴェイの「恐怖の足跡」(1961)であり、ロバート・ワイズの「たたり」(1963)であり、ジョン・ハフの「ヘルハウス」(1973)であり、ダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェスの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999)であり・・・・・そして、「シェラデコブレの幽霊」なのだ。

この映画の批評を読む »

インビクタス/負けざる者たち - 小梶勝男

◆クリント・イーストウッド監督、モーガン・フリーマン主演で南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラを描いたドラマ。イーストウッドやフリーマンのメッセージは伝わってくるが、ドラマとしての面白みには欠ける(73点)

 冒頭、マンデラ大統領(モーガン・フリーマン)がボディガードとともに朝の散歩に出る。まだ暗い中、官邸の近くを歩くが、いつ狙われるか分からない。ただならぬ緊張感が漂い、自動車の走る音が近づいてくると、それは頂点に達する。

この映画の批評を読む »

金瓶梅 - 小梶勝男

◆中国四大奇書の一つ「金瓶梅」の映画化。香港映画だが、日本のグラビアアイドルやAV女優ら4人が出演している。ワイヤー・ワークを使い、セックスとカンフーを組み合わせた「カンフー・セックス」が珍妙な見もの。人気力士・高見盛の恋人と言われているタレント松坂南が森川由衣の名前で出ているのではないか? といわれているのも話題だ(55点)

 現実的な意味合いでは、アダルトビデオが普及して以来、ポルノ映画の役割は非常に小さくなったと言わざるを得ない。性的興奮のみを求めるのであれば、ビデオやDVD、オンラインで鑑賞出来るAVで十分であり、わざわざ映画館にポルノを見に行く意味はないからである。しかし、本作は気になって仕方ない。前代未聞のカンフー・セックスが描かれているというからだ。クンフー映画好きとしては、これも見ておかなければ、と思ってしまった。

この映画の批評を読む »

抱擁のかけら - 小梶勝男

◆スペインのペドロ・アルモドバル監督が「ボルベール<帰郷>」に続きペネロペ・クルスと組んだ秀作。映画を再編集することによって、人生を取り戻す男の物語(89点)

 スペインには仕事で2度行ったことがある。最初は2003年。カルモナ、セビリアなどアンダルシア地方を巡り、2度目は2004年、マドリッドとクエンカを旅した。太陽の光が違うとこうまで違って見えるのだろうか。影が余りにも濃くて、「漆黒」と呼んでいいほどの黒さなのに驚き、白はどこまでも白く、赤はどこまでも赤いという、見るもの全ての色の鮮やかさに驚いた。人々は朝から酒を飲んでいたりして余り働かず、一見、暢気で楽天主義のように見えたが、夜中まで飲み、歌い、踊る、度外れてエネルギッシュな姿には、陽気を通り越して、そうでもしなければ一日を、さらには人生を終えることが出来ないという、深い絶望も感じられた。

この映画の批評を読む »

霜花店 - 小梶勝男

◆R-18のレイティング、つまり成人映画にもかかわらず、韓国で累計400万人の観客を動員したという大作時代劇。男と女、そして男同士のベッドシーンの描写は相当に激しい。特に男同士の場面は、慣れていないせいか、ちょっと見ていられないほど生々しく感じられた。だが、それが単なる扇情的な見世物としてではなく、主人公たちの運命や、微妙な感情の表現になっているのが見事だった(72点)

 舞台は1350年代後半、高麗31代目の王の時代。王(チュ・ジンモ)は王妃(ソン・ジヒョ)と政略結婚したものの、女に興味がなく、幼い頃から一緒だった近衛隊長ホンニム(チョ・インソン)を寝所の相手としていた。世継ぎを必要とした王は、寵愛するホンニムに王妃を妊娠させようとする。ホンニムと王妃は王の命令で体を重ねるうち、本気で愛し合うようになり、王は激しい嫉妬を覚える。

この映画の批評を読む »

サベイランス - 小梶勝男

◆カルトの巨匠、デヴィッド・リンチが製作総指揮、その娘ジェニファー・リンチが「ボクシング・ヘレナ」(1993)に続いて監督したサスペンス・ミステリー。全編を漂う異様なムードはまさに父親譲りだ(81点)

 あらゆるジャンルの映画のオールタイム・ベスト10を選ぶとしたら、デヴィット・リンチの「マルホランド・ドライブ」(2001)は必ずその中に入れることになるだろう。その娘の作品として期待は大きかったが、裏切られなかったのがうれしい。デヴィッドほどではないにしても、映像に圧倒的な力があるのだ。

この映画の批評を読む »

ゴールデンスランバー - 小梶勝男

◆首相暗殺の濡れ衣を着せられた男の逃亡劇だが、同時に青春映画でもある。ストーリーはとても面白いが、映画ならではのダイナミズムに欠けるのが惜しい(80点)

 タイトルはビートルズの同名曲で、作品のテーマにもなっている。2時間20分近い上映時間は、あっという間に過ぎた。間違いなく、面白かったのである。しかし一方で、「見応えのある映画を見た」という満足感が今ひとつ感じられなかったのは何故だろうか。

この映画の批評を読む »

パラノーマル・アクティビティ - 小梶勝男

◆超低予算で作られたにもかかわらず、驚異的な成功を収めた奇跡のホラー。Jホラーの方法論を上手く取り入れていて、確かに怖いが、それ以上のものはない(70点)

 イスラエル出身のオーレン・ペリという無名の新人監督が、無名の俳優を使い、自宅を舞台に撮った超低予算のホラー。制作費はWHDジャパンのJトラッシュも真っ青の15,000ドル(約135万円)。撮影期間はわずか7日間に過ぎない。しかし、インターネットや口コミでうわさが広がり、公開5週目で全米1位、翌週には全米興行収入で1億ドル(約90億円)を突破した。現在、全世界での興行収入(2010年1月)は150億円を超えているという。まさに奇跡の作品だ。

この映画の批評を読む »

ハンナ・モンタナ ザ・ムービー - 小梶勝男

◆米国のテレビシリーズ「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」の映画版。普通の女の子「マイリー・スチュワート」と、超人気アイドル「ハンナ・モンタナ」という、二つの顔を使い分けるティーン・エイジャーの話が、ミュージカルのように歌とダンスたっぷりで描かれる(66点)

 マイリー・スチュワート(マイリー・サイラス)は、アイドルと普通の女の子との二重生活を送っていたが、次第にハンナ・モンタナとしての比重が大きくなってくる。心配した父親(ビリー・レイ・サイラス)は、ニューヨークへ向かうはずの彼女のプライベート・ジェットを、自身の故郷であるテネシー州の田舎町へ向かわせる。

この映画の批評を読む »

作戦-THE SCAM- - 小梶勝男

◆韓国で初めての「株」をテーマにした作品という。仕手株を巡って、騙し騙される頭脳戦がテンポよく描かれている。韓流スターのパク・ヨンハが冴えない男を演じているのも見所だ(69点)

 韓流スター、パク・ヨンハの7年ぶりの映画出演作。日本では歌手としてのイメージが強いが、元々は演技派なのだろう。「負け組」から勝ち上がろうとあがく、冴えないデイトレーダーの青年を好演して、実力を見せてくれた。

この映画の批評を読む »