NINE - 渡まち子

◆「8 1/2」が創作に思い悩むフェリーニ自身を自虐的に投影したアート系ムービーの最高峰なら、「NINE」はその山に登るための優れたガイドブック(75点)

 超豪華キャストのミュージカルは、全盛期のイタリア映画への敬意に満ちている。1964年のイタリア。世界的な映画監督のグイドは、新作映画のクランクインを前に、深刻なスランプ状態だ。脚本が1行も書けずにパニックになり愛妻のルイザに助けを求めるが、グイドには妻以外にも沢山の愛する女性が。全てを忘れさせてくれる愛人、魅惑的な主演女優、長年の親友の衣装係、若くて美人の記者、最愛の母親に果ては初めて男として目覚めさせてくれた娼婦まで。プレッシャーの中で苦悶するグイドは、多くの女たちの幻想に溺れていく…。

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スイートリトルライズ - 福本次郎

◆ゲームに熱中する夫と現実感が希薄な妻。お互いの領域に深く踏み込まないことでバランスを保っている。快適さの中のぎこちなさと物足りなさの中の安心感。夫婦を維持していくには、情熱や真実よりも、小さな嘘が必要なのだ。(40点)

 同じベッドで寝ているのに性行為はなく、ひとつ屋根の下に暮らしているのにケータイで連絡を取り合う。自室にこもってゲームに熱中する夫、家事は得意だが現実感が希薄な妻。お互いの領域に深く踏み込まないことでバランスを保っている。快適さの中にあるぎこちなさと、物足りなさの中の安心感。この奇妙なふたりが同時に浮気相手を作り、あらためて自分たちの関係を見直していく。愛しているのに別れなければならない、愛していないのに壊したくない。夫婦という役割を維持していくためには、情熱や真実よりも、相手を傷つけない小さな嘘が必要なのだ。

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フィリップ、きみを愛してる! - 福本次郎

◆嘘だらけの人生の中でたった一つの真実、それは愛。しかし、物語は要領のよい主人公のイージーな人生観を投影しているのみで、切実な感情が描かれているわけではない。せめてコメディの味付けがあれば退屈せずに済んだはずだ。(40点)

 嘘だらけの人生の中でたった一つの真実、それは愛。ゲイ恋人と一緒にいるために他人をだましてカネを盗むだけでなく、恋人本人に対しても虚構を貫き通す。豪勢な暮らし、刑務所での生活、その間に膨大な労力を費やした上に、命がけの偽装までする男の奇妙奇天烈な半生を追う。しかし、「実話」と強調しているあたりそもそもフィクションと宣言しているようなもの。物語はただ要領よく世渡りするイージーな彼の人生観を投影しているのみで、そこに主人公の切実な感情が描かれているわけではない。せめてコメディの味付けがあれば、この荒唐無稽な展開も退屈せずに済んだはずだ。

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ダレン・シャン - 福本次郎

◆人の血をすする悪の権化でもなく、本能に苦悩する理性でもなく、人間と折り合いを付けて共存しているバンパイア。人間の敵ではなく、見世物の舞台に活躍の場を求めるあたりが、善悪の価値観が一元的でなくなった21世紀的だ。(60点)

 人の血をすする悪の権化でもなく、体内に潜む本能に苦悩する理性でもなく、きちんと人間と折り合いを付けて共存しているバンパイア。超人的な力が必要な時だけ少しだけ人間の血を盗み、むやみに仲間を増やそうとはしない。そんな、永遠の生を運命と受け入れ、人目につかないようにひっそりと暮らしている姿が健気。もはや人間の敵ではなく、フリークスとして見世物の舞台に活躍の場を求めるあたりが、善悪の価値観が一元的でなくなった21世紀的だ。人間対バンパイアの対立ではなく、バンパイア界でのタカ派とハト派の主導権争いという視点も斬新だ。

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スイートリトルライズ - 渡まち子

◆穏やかさの中にただならぬ気配がある作品だが、どこか空虚で共感できない話だ(45点)

 穏やかさの中にただならぬ気配がある作品だが、どこか空虚で共感できない話だ。IT会社勤務の聡と人気テディベア作家の瑠璃子は結婚3年目の夫婦。今も恋人同士のような二人はハタから見れば理想的だが、互いに心の距離を感じている。寂しさを抱えた瑠璃子は、ある日、非売品のベアを欲しがる青年・春男と出会い、急速に惹かれていく。一方、聡も大学の後輩であるしほと深い関係に。聡と瑠璃子は互いの相手と逢瀬を重ねるのだが…。

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時をかける少女 - 渡まち子

◆70年代の過去を特別に良い時代とも悪い時代ともとらえていないのがいい(65点)

 「時かけ」が何度も映画化されるのは、物語の骨格が魅力的な上に何通りものバリエーションが可能なためだ。高校3年生の芳山あかりは、薬学者の母・和子が交通事故に遭ったと聞いて病院に駆けつける。母は「1972年4月の土曜日の実験室、深町一夫に会いにいく」とうわ言のようにつぶやいた。和子は初恋の人・深町にメッセージを伝えるため、時間を越える方法の研究をしていたのだ。母に代わって過去へ行く決心をしたあかりは、和子が開発した薬を飲んでタイムリープに成功するが、間違って1974年に着いてしまう。あかりは偶然出会った大学生で映画監督志望の涼太を強引に巻き込んで、深町一夫を探しはじめるが…。

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NINE - 町田敦夫

◆スクリーン上のセクシーな“国連会議”に酔え!(80点)

 スランプに陥った映画監督の産みの苦しみを、周囲を取り巻く多彩な美女との関係を絡めて描いたミュージカル。同名のブロードウェー・ミュージカルの映画化作品だが、そのまた原点には名匠フェデリコ・フェリーニの代表作『8 1/2』(63)がある。

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アイガー北壁 - 町田敦夫

◆久々の傑作山岳映画がお目見え(80点)

 ジャーナリストとしては有能だが(あるいは、ジャーナリストとして有能であるがゆえに)人間性にいささか欠陥のあるベテラン記者が、劇中でいみじくもこう語る。「記事になるのは栄光か悲劇だ。『登頂を断念して無事に下山』では誰も読まない」と。この言葉はそのまま「映画になるのは栄光か悲劇だ」と言い換えられるだろう。1930年代、スイスの名峰アイガーの北壁は、「ヨーロッパ最後の難所」と呼ばれていた。本作はその初登攀を目指した若者たちの友情と苦闘を、実話を元に描いたドイツ映画。結末が「栄光」なのか「悲劇」なのかは、あえて予備知識なしで観にいくことをお勧めしたいので書かない。

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シャーロック・ホームズ - 福本次郎

◆鍛え上げられた肉体と洗練された格闘術、抜群の記憶力と洞察力。科学の力が神秘や魔法にとってかわった時代、論理的な思考とタフな肉体を武器に難事件を解決する主人公は、さまざまな顔を持つある種のスーパーヒーローだ。(40点)

 クールでスタイリッシュかと思えば少し間の抜けたところがあり、鍛え上げられた筋肉と洗練された格闘術を身につけているが女の扱いには疎い。さらに抜群の記憶力と観察力で過去を見通してしまう洞察力がある割には他人の心を読めない。科学の力が神秘や魔法にとってかわった時代、論理的な思考とタフな肉体を武器に難事件を解決する主人公。ガイ・リッチーによって新たに創作されたシャーロック・ホームズ像は、さまざまな顔を持つある種のスーパーヒーロー、しかし、映画はそんなキャラクターよりも圧倒的な見せ場の波状攻撃で見る者の興味をつなぎとめる。

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噂のモーガン夫妻 - 福本次郎

◆離婚が当たり前のNYから、家族だけでなく地域全体が一つのコミュニティの田舎町にやってきた別居中の夫婦が、日常からの遮断の中でパートナーの良さを再発見する。きれいな水や空気、新鮮な食べ物は人間性まで浄化するのだ。(50点)

 夫の浮気が許せない妻、過ちを認め妻に許しを請う夫。決して嫌いになったわけではないけれど、結婚生活から少し距離を置きたい男女が命の危機にさらされたとき、再び夫婦の絆を取り戻せるのか。離婚や別居が当たり前のNYから、家族だけでなく地域全体が一つのコミュニティの田舎町にやってきたカップルが、日常からの完全な遮断の中でパートナーの良さを再発見する。そして、生き延びるという共通の目標の中で双方ともに相手を必要としていた事実に気づく。映画は、ニューヨーカーが遭遇するカルチャーショックをユーモラスにとらえつつ、きれいな水や空気、新鮮な食べ物が人間性まで浄化していくことを教えてくれる。

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花のあと - 渡まち子

◆年老いた以登が孫に聞かせる昔語りの回想というスタイルがいい(70点)

 凛々しい女剣士の一途な思いが美しい珠玉の映画だ。江戸時代、東北の小藩・海坂藩。組頭の家の一人娘・以登は、男顔負けの腕を持つ剣術の使い手。藩でも有数の剣士で、一度だけ竹刀を交えた下級武士・江口孫四郎に恋心を抱くが、以登には決められた許婚・平助がいた。数ヵ月後、孫四郎が自ら命を絶ったと聞いた以登は、その裏の陰謀を感じ取り、平助に頼んで事の真相を探ろうとする…。

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バッド・ルーテナント - 山口拓朗

◆見どころは、薬に手を染めるテレンスの悪徳刑事&ジャンキーぶり。これに尽きる(70点)

 鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督がニコラス・ケイジを主演に迎えて撮影した本作「バッド・ルーテナント」は、その暴力性と宗教描写で公開当時物議を醸した「バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト」(1992年)のリメイク作品。場外では新旧作品の監督同士が互いをなじる舌戦をくり広げたそうだが、そんなきな臭さももこの作品にはお似合いか。

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孤高のメス - 小梶勝男

孤高のメス

© 2010「孤高のメス」製作委員会

◆地方の市民病院を一人の医師が変えていく医療ヒューマンドラマ。手術場面のリアルさと、堤真一の演技が素晴らしい(78点)

 現職医師である大鐘稔彦の小説を「ミッドナイトイーグル」(2007)「ラブ・ファイト」(2008)の成島出が監督した、医療ヒューマンドラマ。地域医療の問題を真っ向から捉えて、実に見応えがあった。

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キャタピラー - 小梶勝男

◆江戸川乱歩の「芋虫」をモチーフにした、若松孝二監督らしいエロティックで幻想的、かつ政治的な反戦映画。戦場で四肢を失って帰ってきた男の妻を演じる寺島しのぶが、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した(80点)

 主演の寺島しのぶが、ベルリン国際映画祭で日本人として35年ぶりに最優秀女優賞を受賞した話題作だ。監督はかつて、ピンク映画の巨匠と呼ばれ、その後も政治的な作品を発表し続ける若松孝二。本作も若松監督らしい、エロスと権力への怒り、反戦思想が結びついた奇怪で刺激的な作品だ。

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時をかける少女 - 小梶勝男

◆大林宣彦監督の名作の続編。大林版へのリスペクトが随所に感じられ、世界観の踏襲に成功している(68点)

 大林宣彦監督、原田知世主演の「時をかける少女」(1983)には、今も多くの熱狂的なファンがいる。名作と言っていいだろう。本作は、そのリメークではなく、続編である。かつて原田知世が演じた芳山和子(今回は安田成美)の子供、あかり(仲里依紗)が、母親の代わりに1974年にタイム・リープし、深町一夫(石丸幹二)を探す物語だ。

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