ヒトラーの贋札 - 渡まち子

生きるために様々な思惑が飛び交う人間模様も見事だ。(75点)

 異色のナチスものであるこの作品は、非常に興味深い。敵国の経済崩壊を目的にしたナチスの贋札(にせさつ)作りを描いた実話だ。孤高の犯罪者の秘めた正義感と、特殊な収容所、周辺の地獄絵図が鮮烈。生きるために様々な思惑が飛び交う人間模様も見事だ。同時に生と死の究極の選択を問う。ベルンハイト作戦は国家による史上最大規模の偽札事件だが、この映画で真実味を帯びるのが、噂に高い北朝鮮の偽札作り。怖すぎる。

人のセックスを笑うな - 渡まち子

驚くような題名だが、中身は普通の恋愛映画。(40点)

 驚くような題名だが、中身は普通の恋愛映画。19歳の大学生みるめが39歳の女性講師ユリに振り回される様子を、周辺の男女の複雑な思いをからめて描く。ぎこちない恋という設定はいいが、登場人物に魅力がなく、特にユリの魅力が乏しいのは致命的だ。いくら純な男の子でも、黒のストッキングの上からグレーのデカパンをはいてるようなセンスの女によろめくという設定が有り得ない話。松ケン初の恋愛映画なのでファンは要チェックだ。

28週後… - 渡まち子

恐怖感を煽るドキュメンタリータッチの映像が印象的だ。(60点)

 異彩を放ったホラー映画「28日後…」の続編は、欧州発の小品らしいテイストに仕上がった。近未来、人間を凶暴化するウィルスで壊滅した英国に復興のきざしが見えた頃、再び恐ろしい事態が発生する。ゾンビ化した感染者は殲滅がこのテの話の基本だが、米国軍の無差別攻撃は現実の米国テロ対策を見るようで怖すぎる。姑息な雰囲気を漂わすロバート・カーライルが上手い。恐怖感を煽るドキュメンタリータッチの映像が印象的だ。

シルク - 渡まち子

映像は美しく、堂々と演技する日本人俳優は頼もしいが、現実感に乏しい物語だ。(55点)

 映像は美しく、堂々と演技する日本人俳優は頼もしいが、現実感に乏しい物語だ。綺麗な絵葉書のような印象だけでは作品として弱い。19世紀の仏を舞台に、美しい妻を愛しながら、蚕卵を求めて訪れた遠い日本で魅惑的な日本女性に恋した青年の半生を描く。世界規模の合作で大作感があるが、物語は小さな詩のような掌編。無名俳優でアートに徹して作る方がふさわしかった。何より日本を美と幻想の象徴にしたことに、とまどいを覚える。

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 - 渡まち子

バートン印のグラン・ギニョール劇は哀しい復讐の物語。ミュージカル初挑戦のデップの歌声が見事だ。(75点)

 19世紀のロンドン。天才理髪師スウィーニー・トッドはフリート街に店を構える。彼は、15年前に自分を無実の罪で投獄した上、妻子まで奪ったターピン判事への復讐の機会を狙っていた。パイ屋のラベット夫人はそんな彼にある提案を持ちかける…。

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グミ・チョコレート・パイン - 渡まち子

80年代のサブ・カルがたっぷりの、味わい深くも気恥ずかしい青春映画だ。(65点)

 80年代のサブ・カルがたっぷりの、味わい深くも気恥ずかしい青春映画だ。リストラされた中年男の賢三が、当時好きだった美甘子からの不可解な手紙を受取り、過去をたどる。映画愛がふんだんに描かれるのは嬉しいが、前半に多用されるジャンプ・カットは少々うるさい。チョキ百連発の人生なんてないと教えつつ、自分を否定せずに情けなさを愛おしむラストがいい。変人の高校生役の柄本佑が印象的だ。テーマ曲は電気グルーヴ。

はじらい - 渡まち子

会話重視で決着には愛がからむのがいかにも仏映画。(55点)

 扇情的な場面が話題先行したが、内容は心理サスペンスと言えようか。新作映画のオーディションで監督が女性に性の喜びを演じさせるが意外な波紋を生む物語だ。会話重視で決着には愛がからむのがいかにも仏映画。ただ、前作「ひめごと」の女優たちから性的虐待で訴えられ、有罪になったブリソー監督の言い訳に見えなくもない。クールな堕天使の存在が因果な監督業を代弁して印象的だ。妻の存在意義が曖昧なのが惜しい。

ゼロ時間の謎 - 渡まち子

キャストの豪華さと過去に遡る人間ドラマの妙が味わえる。(65点)

 アガサ・クリスティ原作のミステリーは、いつも優雅だ。海辺の別荘に集まった、愛憎入り乱れる家族の中で起こった殺人事件の謎を解く物語である。ハッタリや残酷描写に重きを置く近年の映画とは対極なので地味な印象だが、その分キャストの豪華さと過去に遡る人間ドラマの妙が味わえる。美しい者が殺人者というクリスティの好みが反映されて、犯人の目星が途中でついてしまうが、クラッシックな謎解きミステリーとして楽しめ作品だ。

ペレを買った男 - 渡まち子

インタビューはどれも貴重なものだが、ペレ本人は出演拒否。(60点)

 70年代に米国に実在したプロサッカーチーム“ニューヨーク・コスモス”の栄光と没落を追った記録映画は、メディア王のスティーブ・ロスがサッカー不毛の地で追った夢だ。ペレやベッケンバウワーがプレーしたチームは狂い咲いたあだ花のよう。巨大サッカービジネス、有名選手を利用した宣伝戦略など、現在の流れの源を見るようで複雑な気分になる。インタビューはどれも貴重なものだが、ペレ本人は出演拒否。この作品の弱点だ。

ピューと吹く!ジャガー THE MOVIE - 渡まち子

原作ファン以外には厳しいだろう。(40点)

 製作側のキャッチコピーは“がっかりムービー”、映画冒頭で“しょうもない映画です”と居直られては、文句を言う気が喪失。原作は大人気ギャグマンガで、劇中に少しだけ静止画で登場する。ふえ科に入学させられた普通の青年ピヨ彦を中心に、謎の縦笛講師ジャガーをはじめユニークな面々のキャラがバツグンに立っているところがいい。だが、この笑いと小ネタは原作ファン以外には厳しいだろう。暴力場面に不快感が残るのが残念だ。

君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 - 渡まち子

ハンガリー革命の痛みを描く描く力作ドラマ。(70点)

 ハンガリー革命の痛みを描く描く力作ドラマ。民衆が自らの命を賭して自由を勝ち取るのはどこの国にも必ずある話だが、この闘いでは自由は私たちが考える数倍も尊く得がたいものだ。大国ソ連と対等に立ち向かえるのは五輪のスポーツのみ。実在の水球チームの活躍と、フィクションの悲恋物語をからめて上手く構成している。なじみの薄い俳優たちだが、演技は見事だ。

銀色のシーズン - 渡まち子

根性や恋愛、笑いに至るまで、何もかもが中途半端だ。(30点)

 雪山版「海猿」というふれこみは見当違いで、根性や恋愛、笑いに至るまで、何もかもが中途半端だ。まるでTVの2時間ドラマのようで情けない。いったい何がしたいのやら。高品質と評判の映像もさしたる効果はない。小さな驚きは、3日後に結婚式をひかえる花嫁に仕込まれた意外な秘密だ。冬に封切ることだけが目標のこんな季節映画が、邦画の質を落とすことになる。せめてスキーの達人を主役に据えるわきまえがほしかった。

いのちの食べかた - 渡まち子

相当な難易度のドキュメンタリーだが、間違いなく見る価値がある。(70点)

 相当な難易度のドキュメンタリーだが、間違いなく見る価値がある。ナレーションもインタビューもテロップも、いっさい無し。流れるのは食べ物の生産現場の驚くべき映像のみだ。人間性が感じられない徹底的した機械化作業で行われる動物や魚の解体を見ていると唖然。ふと「モダン・タイムス」を思い出した。映像は目をそむけたくなる光景もあるが、時にアートのような美しさも見せる。食べ物の実態を見て命の意味を考えたい。

アース - 渡まち子

(70点)

 地球が主役のネイチャー・ドキュメンタリーは、とにかく映像が美しい。地球の地軸が傾いていることが、多様な地形や四季のうつろいを生み出す不思議。ホッキョクグマやザトウクジラなどの動物たちの子育てと壮大な旅を最高性能ハイビジョン・カメラで見せてくれる。映像のほとんどがダイナミックな空撮なので、時にめまいさえ感じるほどだ。温暖化が進めば、何十年か後にはこの世に存在しないかもしれない記録映像としても貴重。

ジェシー・ジェームズの暗殺 - 渡まち子

西部開拓時代の伝説の無法者と彼を殺した男の心理劇。ゆったりとした時間の中で叙情的な映像が流れてゆく。(65点)

 南北戦争終結後の米国。強盗ジェシー・ジェームズは、犯罪者ながら、世間からは義賊と崇められていた。カリスマ性を漂わせるジェシーに憧れる手下のロバートは、ジェシーの活躍をつづった大衆誌を宝物にするほど彼を崇拝していたのだが…。

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