春よこい - 渡まち子

物語は古臭く、彼らを助ける周囲の人間の描写も中途半端(50点)

春よこい

 国際派女優の工藤夕貴主演の小品は佐賀の漁村が舞台。指名手配のポスターに写る父の写真を見つめる少年の姿を、新聞記者が “感動記事”にしたことから激変する一家の物語だ。田舎町ゆえの人情と偏見が親子を追いつめるが、同時に突破口にもなる。懸命に生きる親子の愛は心温まるものの、物語は古臭く、彼らを助ける周囲の人間の描写も中途半端。ただ、報道による暴力というマスコミ批判を含むなど、意外な鋭さがあった。

1978年、冬。 - 渡まち子

まるで冬枯れの風景画のような映画(65点)

 まるで冬枯れの風景画のような映画である。だがそこににじむ悲しみこそが中国現代史の記憶だ。文革が終わりを告げた 1978年、中国の田舎町で出会った、都会から来た少女と地元の青年の淡い恋を、青年の幼い弟の目を通して描く物語。クローズアップをいっさい使わず、セリフも最小限。登場人物は皆、深い孤独を抱えているが、それがそのまま負のテイストにならないところがこの映画の個性だ。控えめに使われた音楽が効いている。

REC/レック - 渡まち子

音楽を排除したことや、スター俳優がいないこともリアルに作用した(65点)

 流行のボイント・オブ・ビュー(主観撮影)の作品だが、プロのTVクルーを役柄に設定したせいかむやみに画像がブレないのがありがたい。アパートで起こる謎の惨劇を描くパニック映画だ。密室の恐怖、スプラッタ描写、恐怖の伝染病の意外な正体と、低予算映画ならではの創意工夫に満ちている。音楽を排除したことや、スター俳優がいないこともリアルに作用した。噛み付いたり、食いちぎったりとエグい残酷描写が多いので苦手な人は要注意だ。

DIVE!! ダイブ - 渡まち子

3人を同等に描くため、やや散漫になってしまったのが惜しい。(55点)

© 2008 「DIVE!!」製作委員会

 飛び込み競技を描いた青春映画だが、腹筋が割れるほど練習したという若手俳優たちの頑張りに注目したい。3人の飛び込み選手がクラブ存続のために五輪代表を目指す物語だ。池松壮亮がクールな少年を演じ、林遣都が明朗な天才を演じる意外性が見所。物語は3人を同等に描くため、やや散漫になってしまったのが惜しい。ダイビングを称して「個人競技は勝つたびに1人になる」と孤独感を表したのが、逆に友情の大切さを感じさせる。

イースタン・プロミス - 渡まち子

暴力的なフィルム・ノワールだが、クローネンバーグにしては抜群に判りやすい(75点)

© 2007 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

 暴力的なフィルム・ノワールだが、クローネンバーグにしては抜群に判りやすい。ロンドンのロシアン・マフィアの闇の世界を描いた犯罪映画だ。謎の運転手ニコライ役のビゴ・モーテンセンの体当たりの演技が新鮮。全裸での壮絶な格闘シーンや全身に施された凝った刺青など、異様な迫力に圧倒される。ある謎を秘めたニコライと、小さな命を守ろうとする看護婦のアンナが惹かれあう展開は、この危険な香りの映画の中の灯火のようでほっとする。

JUNO/ジュノ - 渡まち子

10代の少女の望まない妊娠を、微塵の暗さもなく描く快作。里親制度も含め、日本との違いが面白い。(85点)

© 2007 TWENTIETH CENTURY FOX

 興味本位のセックスで妊娠してしまった16歳のジュノ。中絶は思いとどまり、親友の力を借りて、養子を希望しているヴァネッサとマークという夫婦を見つけて里親の話をつける。それからジュノと周囲の人々の珍騒動が始まった…。

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ブルー・ブルー・ブルー - 渡まち子

まるで自分が海中にいるような気分(55点)

© 2007 Film Finance Corporation Australia Limited, 3DAP Japan LLC, Shadowfire Entertainment Pty Limited, Jour de Fete LLC and Newcastle Pictures Pty Limited

 オーストラリア発の青春物語は、みずみずしいサーフィン映画。厳しい現実に中でも、サーフィンへの情熱、恋、友情と、懸命に生きる主人公を描く。物語は青春映画のセオリーの範疇を出ず、展開もありきたり。だがそれがかえってサーフィン場面の美しさを際立たせた。特に水中撮影でとらえた波の様子は大迫力で、まるで自分が海中にいるような気分。ラストは意外な瞬間で終るが、勝敗よりもサーフィンそのものを楽しもうという思いが伝わってくる。

神様のパズル - 渡まち子

ごった煮的なテイストが楽しい(60点)

© 2008「神様のパズル」製作委員会

 鬼才三池崇史監督までもが、遂に理科系の物語か!と驚くがノリはむしろ体育会系。落ちこぼれ大学生の基一と飛び級天才少女サラカが“宇宙の作り方”という難題に挑む。サイエンス・アクション・コメディというごった煮的なテイストが楽しい。双子という設定はあまり活きてないが、回想場面の見せ方が面白く笑わせる。関係ないが、サラカの強調された胸元に煩悩丸出しの基一が全く反応しないのが不思議。単なるファン・サービスだったのか?

リボルバー - 渡まち子

珍しく長髪のステイサムが異彩を放つ迷宮系犯罪映画だ。(50点)

© 2005 EUROPACORP – REVOLVER PICTURES LIMITED

 珍しく長髪のステイサムが異彩を放つ迷宮系犯罪映画だ。凄腕ギャンブラーの復讐劇は、ほとんどが主人公のモノローグで構成されている。物語は、辻褄が合わない部分もあり、デビッド・リンチ風に内にこもる展開。混乱必須だが、すべては、獄中の主人公の妄想だと解釈すれば納得がいく。伝説のボスやチェスなど思わせぶりな設定は消化不良だが、心理描写も兼ねる色彩の映像がスタイリッシュ。情緒不安定なブチキレ演技のリオッタが良い。

築地魚河岸三代目 - 渡まち子

脇役までキャラが非常に立っている。(60点)

© 2008「築地魚河岸三代目」製作委員会

 シリーズ化が決定しているだけあって、脇役までキャラが非常に立っている。恋人の窮地を救うため魚河岸に飛び込んだ主人公が、悪戦苦闘しながらもたくましく成長する姿を描く。会社組織を悪、魚河岸を善として対比するのは少々安直だが、人間同士の嘘のないつきあいは、現代人なら誰もがあこがれるはずだ。大沢たかおと田中麗奈は共にさわやかな好演。主人公の特別な舌の活躍や、魚のうんちくがもっと知りたかったが、次回に期待だ。

美しすぎる母 - 渡まち子

母と息子のいびつな愛を軸に語る物語だ。(60点)

© Lace Curtain, Monfort Producciones and Celluloid Dreams Production

 美貌の演技派女優ジュリアン・ムーアのいい所は、作品選びがいつも挑戦的なこと。イメージを損なうかもしれない危険な役でも積極的に出演する。上流階級の一家で実際に起こった、息子による母親殺害事件を、母と息子のいびつな愛を軸に語る物語だ。貧しい出自で美しく上昇志向の強い女性が、夫と別れた後に別の男性ではなく、ほぼ息子一筋になるのが理解できないのだが、不安定でもろい息子と二人でひとつのような魂が哀しい。

ザ・マジックアワー - 渡まち子

爆笑必須のコメディのフリをして、なかなか深い。(75点)

© 2008 フジテレビ 東宝

 三谷映画には、虚実の境界にこだわるものが多い。今回のドタバタ劇も、偽者がやがて本物になるいきさつを笑いたっぷりに活写するもの。暗黒街のボスから伝説の殺し屋を探せと命じられた男が、とっさに思いついたのが、三流俳優に演じさせること。ウソが感動を呼ぶというテーマは思えば映画そのもので、爆笑必須のコメディのフリをして、なかなか深い。わざとヘタに演じる佐藤浩市が笑わせるが、数々の名作映画へのオマージュが嬉しかった。

ぐるりのこと。 - 渡まち子

個人と社会の両方が壊れていく時代の中、決して離れない一組の夫婦。丁寧な人間描写が光る。(90点)

© 2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ

 画家のカナオは定職さえないがのんびりした性格。一方、妻で出版社勤めの翔子は几帳面なしっかり者だ。対照的な二人は、それでも幸せに暮らしていたが、初めての子供を亡くしたことから翔子の精神はバランスを失っていく…。

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ヤーチャイカ - 渡まち子

不思議な美しさだ。(65点)

© 「ヤーチャイカ」製作委員会

 映画の9割を静止画が占める“写真映画”は不思議な美しさだ。恋人を亡くした女性と人生に絶望した男が出会い、共に再生していく物語である。題名は露語で「私はカモメ」の意味。ピンボケ写真も意図的に取り入れた構成は、静止しているからこそ想像力をかきたてる。作詞家の覚和歌子と詩人の谷川俊太郎の共同監督による美しい映像詩は、詩人ならではの“行間”が魅力だが、香川、尾野の両俳優の実力あってこその作品と言えよう。

フールズ・ゴールド/カリブに沈んだ恋の宝石 - 渡まち子

スケール感はいまひとつ。(55点)

© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 宝探しよりロマ・コメの比重が高いので、スケール感はいまひとつ。陽気だが無責任なトレジャー・ハンターが、ギャングや大 富豪、元妻まで巻き込んで、カリブ海に沈んだスペイン王朝の財宝探しに挑む。物語は、勢い勝負でかなりいい加減だが、かつて共演したハドソンとマコノヒー の息のあった掛け合いが楽しい。大富豪令嬢のおトボケ・キャラを活かしきれてないのは惜しいが、ハドソンのひまわりのような笑顔こそ魅力だった。

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