夫婦愛の形を借りた芸術残酷物語 (70点)
© 2008『アキレスと亀』製作委員会
夫婦愛の形を借りた芸術残酷物語だ。画家の真知寿(まちす)は妻の支えで絵を描き続けるが、まるで評価されない。やがて夫婦は奇行に走るようになる。絵のことしか頭にない真知寿と彼がとり憑かれている芸術は、いわば怪物。献身的な妻でさえ、夫がアーティストでなかったらここまで彼につきあったかどうか。主人公の周囲の人が次々に死ぬのが象徴的で、芸術は麻薬のように中毒になる。それは映画も同じで、流行に翻弄される風潮を北野流ギャグで批判するスタイルが素晴らしい。取って付けたようなハッピーエンドは芸術へのリバウンド。薄気味悪くも鋭い作品で、油断禁物だ。
脳髄を刺激するダイナミックな映像が快感。ハリウッドに進出した暴走系ロシア人監督に大注目だ。(75点)
© 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
仕事も恋も生活もストレスだらけの気弱な青年ウェスリーは、突如現れた謎の美女フォックスから、自分は凄腕暗殺者の血を引く人間だと知らされ驚愕する。世界の秩序を守る暗殺組織フラタニティにスカウトされた彼だったが…。
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映画を見たというよりゲームを終えた感覚に近い(40点)
このサバイバルホラーは、ジョージ・A・ロメロの「死霊のえじき」を再構築したものだ。米国の田舎町で未知のウィルスが発生。軍に所属するサラは町を脱出するため、ゾンビと化した住民との戦いに挑む。物語に目新しさはないが、ゾンビの構築が新鮮だ。ノロノロ歩く従来のゾンビと違い、走る、飛ぶなどやたらと早業でアクティブ。人間だった頃の習性や性格がゾンビ化しても残る設定も新しい。人を襲わないゾンビはベジタリアン。スジは通っているが何だかトボけていて可笑しかった。あっけらかんとしたラストは、映画を見たというよりゲームを終えた感覚に近い。
全体的にギャグにキレがない(45点)
ハジケた笑いに欠ける中途半端なスポーツ系コメディ。70年代に実在したプロのバスケ・リーグABA。パフォーマンス重視のチームが、NBAに吸収され解散直前のリーグで、最後の意地を見せる物語だ。摩訶不思議な技は登場するものの、ダンクや技術はさして重要じゃない。全体的にギャグにキレがないのは、パンチのある悪役の不在と、実話の感動が笑いの温度を下げたためだろう。フェレルのコメディは、おバカに徹っしてこそ評価されるのに。邦題の“俺たち”は同じでもフィギュアスケーターの爆笑にはほど遠い。全編に流れる70年代サウンドと、子グマ対決が貴重な笑い所だ。
このミスキャストは可哀想(35点)
© 2008「フライング☆ラビッツ」製作委員会
仕事にバスケに恋愛と、常に一生懸命なヒロインは頑張りやさんだが「スチュワーデスは嘘をつかないわ」などと根拠のないことを言うので困ってしまう。憧れのCAになったゆかりは、手違いで会社のバスケットボール・チーム“JALラビッツ”に入ることに。バスケ場面の迫力不足は我慢できても、理解できないのは、この物語最大の個性である“企業が行うスポーツ”という特徴が見えてこないこと。広告塔としての役目や企業ならではのチーム作りなど、面白い素材があったはずだ。石原さとみは愛嬌があってかわいいが、バスケ選手役には背が低すぎ。このミスキャストは可哀想だ。
妻夫木聡が突出して素晴らしい(65点)
© 2008 「パコと魔法の絵本」製作委員会
舞台そのもののような極端な登場人物がひしめく和製ファンタジー。入院中の大富豪・大貫は嫌われ者の偏屈ジジイ。そんな彼が、記憶が1日しか持たない少女パコのために彼女が愛読する絵本をお芝居にすることを思いつく。映像は一場面に原色が多すぎてちっとも美しくない。セリフも大仰すぎてさっぱりノレない。だが、唯一、それら全てが効果的に昇華していくのが3Dで描かれる劇中劇「ガマ王子対ザリガニ魔人」だ。ここだけが極彩色で他は白黒でもいいと思うほど。変人キャラが暴走し続ける、騒々しい物語の中で、元・有名子役の青年を怪演した妻夫木聡が突出して素晴らしい。
納棺師になった青年の成長を通して生と死の意味を問う秀作。納棺の所作と山形の自然が美しい。(75点)
© 2008 映画「おくりびと」製作委員会
失業したチェロ奏者の大悟は、ひょんなことから故郷の山形で納棺師という職につく。特異な職業にとまどいながらも、次第に仕事になじんでいくが、妻の美香だけには、仕事の実情を告げられずにいた…。
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末っ子で甘えん坊のセオドアが一番印象に残る(65点)
Alvin and the Chipmunks Characters TM & © 2007 Bagdasarian Productions, LLC. All rights reserved. © 2007 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
アルビン、サイモン、セオドアの3匹のシマリス兄弟が可愛いファミリー・ムービー。間違って都会にやってきた、人間の言葉が話せるシマリスたちは、作曲家デイブの家で暮らすことに。歌って踊れる3匹は今まで売れなかったデイブの曲を大ヒットさせる。全米で愛される「チップマンクス」シリーズの誕生50年記念の映画化では、題名になったアルビンより末っ子で甘えん坊のセオドアが一番印象に残る作りになった。ラスト、賢いシマリスならではの脱出劇がスッポリと抜け落ちたのが残念だが、シンプルな物語は大人も子供も楽しめる。3匹の絶妙なハーモニーに聴き惚れよう。
奥菜恵はなかなかの迫力(55点)
© 2008 Twentieth Century Fox
タイ映画「心霊写真」を、日本の監督が、アメリカ映画としてリメイクするという、ボーダーレスなホラー映画。新婚旅行で訪れた日本で、カメラマンのベンと妻は、深夜の山道で、女性を車でひいてしまう。それ以来、夫妻の周辺では不気味な出来事が起こり始める。別に日本が舞台じゃなくても成立する話だが、黒髪に大きな瞳と、典型的なホラーのキャラめぐみを演じた奥菜恵はなかなかの迫力だ。ただ霊能者やめぐみの母などは物語のテンポを削ぐだけで不必要。もとはと言えば自分が悪いくせに、霊に怒鳴り散らして逆ギレするなど、米国人らしい覇気が、やはりハリウッドである。
自転車という素材が新鮮(70点)
風を感じる青春スポーツ映画だ。ライバル、仲間、勝負とオーソドックスな展開だが、自転車という素材が新鮮で、面白く見ることができる。チームプレーのスポーツの中でも犠牲的精神という部分で群を抜くのが自転車ロードレース。単純に坂道を昇る達成感と、誰よりも速く走ることだけが目標だった主人公テルが、チームの勝利のために個を捨てることや、長いレースでの駆け引きを覚え、本当に大切なことを学んでいく。全体に汗まみれなのに映画がベタつかないのは、テルが恋愛より自転車に夢中だから。山岳賞を狙うクライマックスのレースは思わず手に汗を握る。
ジョディ・フォスターのコミカルな演技が新鮮(60点)
知的女優ジョディ・フォスターのコミカルな演技が新鮮なファミリー・ムービー。引きこもりの人気作家アレクサンドラは、孤島で暮らす海洋生物学者の娘で9歳のニムとネットで知り合うが、ある日彼女からSOSメールが届く。ヒロインが生み出した小説の主人公が彼女を外の世界に連れ出す展開や、トドやペリカンなど賢い動物たちの活躍が楽しい。だが作家と少女がようやく出会った後に、心を通わせる場面が少なすぎる。ニムは活発な少女だが島に閉じこもっている点ではアレクサンドラと同じ人種。引きこもりという負のパワーも、二人揃えばプラスに変わりそうな気がしてきた。
華麗な美に彩られた映画(75点)
© 2006 Googly Films, LLC. ALL Rights Reserved.
例えるなら万華鏡のような、華麗な美に彩られた映画だ。1915年、大怪我を負って入院中のスタントマンのロイは、失恋で絶望。自殺用の薬を入手するために少女に5人の勇者が登場する壮大な叙事詩を語り始める。CM出身のターセム監督の美意識が炸裂する映像が見事。特にゾウが海を泳ぐ姿と、巨大な白い布が鮮血に染まる場面はゾクゾクする。復讐と冒険の物語も、多くの世界遺産でロケした壮麗な背景に負けないスケールだ。ロイの心が希望へと再生していくのは、少女に語るほら話のおかげ。そして、ほとんどの映画もまた、虚実が混じった美しい作り話なのである。
◆一歩間違えば甘ったれた青年のドジな物語(75点)
若者が欲するピュアな孤独を描いた秀作。大学卒業と同時に家族や金銭、車を捨てて、真の自由を求めてアラスカの荒野を目指す青年クリスが、彷徨の果てに悲劇的な最期を迎えるまでを静かにつづる。一歩間違えば甘ったれた青年のドジな物語なのだが、若さとはいつも必要以上に純粋なもの。主人公は自然そのものに精神の自由を見た。ただ、文明を否定する彼が、日記や写真という記録を残す行為で文明化されたのは皮肉に思える。ストイックな視点と苦味が強く超低温な演出が監督ショーン・ペンの持ち味だ。これは彼の理想で、今も追い求めているスピリッツなのだろう。
毎日を大切に生きる主人公(75点)
犬童一心は悲しみを含んだ幸福を描くのが本当に上手い。繊細で内向的な天才漫画家の麻子は愛猫のサバが息をひきとったことがショックで漫画が書けなくなるが、ペットショップで出会った子猫グーグーとの触れ合いで元気を取り戻していく。猫の死や、予想外の自分の病に悩みながらも、周囲の思いやりによって毎日を大切に生きる主人公の姿が、浮遊感漂う演出で語られるのが心地良い。サバとグーグーの2匹の猫の愛らしさは最高で、思わず猫と同じ目線で物語を追うと、幸せはその高さにこそあると思えた。この映画を見た後は、何気ない日常がきっといとおしくなる。
ヒトラーの演説を指導するのがユダヤ人という強烈な皮肉。虚実を取り混ぜた知的な悲喜劇だ。(80点)
敗戦濃厚の1944年のドイツ。うつ病を患い、自信を喪失したヒトラーを鼓舞するため、宣伝大臣ゲッペルスは、ユダヤ人のグリュンバウム教授を強制収用所から呼び寄せる。総統の演説指導を命じられ戸惑う教授だったが…。
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