自然現象は非常に美しく思わず見惚れた(65点)
© Disney Enterprises, Inc.
ストップモーション・アニメの金字塔が3D映像で再登場した。ハロウィン・タウンのジャックは、ある日クリスマス・タウンに迷い込み、すっかり夢中に。彼は、つぎはぎ人形のサリーの心配をよそに、自らサンタになってクリスマスを演出しようとする。立体化はされているが、驚くような効果はなく、むしろさりげない感じの演出だ。ただ、霧や雪などの自然現象は非常に美しく思わず見惚れた。また、シースルーの幽霊犬ゼロは、3Dによって動きの魅力が倍増しているのがうれしい。映画界は3Dの動きが加速しているが、過去作品に関しては3Dにふさわしい作品を選ぶ選択眼が必要となろう。
時代そのものを描く物語(70点)
何やら某TVドラマのような邦題だが、天才画家ゴヤの目を通して、人間を喜劇にも悲劇にも振り分ける時代そのものを描く物語だ。異常な異端審問がまかり通る18世紀のスペイン。天使のような少女イネスと、巧みに時の権力に取り入るロレンソ神父は、共にゴヤのモデルだが、時代の荒波に飲み込まれ、2人の運命は激しく狂っていく。宗教の狂気とフォアマンが経験した共産主義の暴挙に、異なる時代の共通性が見える。哀しく歪んだ愛を体現するバルデムとポートマンは共に名演。ラストに振り向くイネスの複雑な笑顔でラブ・ストーリーの香りを残す演出が見事だ。
長渕文音の素直な演技は好感度大(60点)
真面目で実直な作風が佐々部清監督らしい。青森県の農業高校を舞台に、かつての名馬で盲目の馬コスモと、世話をする少女・香苗の絆を描く物語だ。長渕文音の素直な演技は好感度大。だが、クライマックスの馬術大会の場面はさっぱり盛り上がらない。大会に出場するモチベーションにもう一工夫ほしかった。一方、コスモの出産や、子別れの場面は、非常に感動的。何よりも、ずっと心を閉ざしていたコスモが香苗の声に初めて反応するシーンが素晴らしい。コスモにとって大会より香苗との信頼関係の方が重要なのだという証だ。北国特有の四季折々の美しい風景が印象的。
謎解きのカタルシスは薄い(60点)
© 2008 フジテレビジョン
大人気TVドラマの劇場版は、TVを未見の人にも分かり易い作りだ。謎の惨殺死体遺棄事件に、女性刑事・内海とガリレオこと物理学者・湯川が挑むが、容疑者は湯川の友人で数学教師の石神だった。湯川が唯一天才と認める人物の行動を後追いする形なので、謎解きのカタルシスは薄いが、本作は人間ドラマとして見る作品。献身の意味は最後に分かる仕組みで、ストーリーに仕込まれた、事件の動機の愛と感動を、堤真一の演技がさらに高める。ただ冒頭の大爆発の実験などは不必要。無駄に派手な場面は省き、石神が人生に絶望したエピソードのひとつも挿入すべきだった。
平凡な家族の崩壊と再生を描いたホームドラマの秀作。「月の光」のピアノ演奏に思わず涙した。(75点)
佐々木家は東京に住むごく普通の4人家族。だが夫の竜平はリストラされたことを妻の恵に言い出せず、長男は米国の軍隊に入ると宣言する。次男はこっそりピアノを習っている。恵は、バラバラの家族をぼんやりと見つめるが…。
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大人向けの洒落たミステリー(65点)
大人向けの洒落たミステリーは40年代の米国が舞台。相手は自分無しでは生きられないと信じる夫婦と周囲の思惑を描く。浮気、妻の毒殺計画、親友への裏切りと身勝手な行動ばかりだが、微妙な思いやりが悲喜劇のもと。語り部を務めるブロスナンの狡猾な行動が苦笑ものだ。映画は、知らないふりで笑顔を見せるのが夫婦円満の秘訣と指南する。心理ミステリー、コメディ、恋愛と欲張りすぎなのが気になるがサラリとしたあと味は悪くない。ウッディ・アレンとコーエン兄弟を足し、ヒッチコックをふりかけたようなテイストだ。ク?パーにクラークソンと、実力派俳優の演技合戦が見所。
命の意味をとことん考えてと呼びかけ(60点)
© 2008『コドモのコドモ』製作委員会
のどかな地方都市、ほんわか顔の子役たちとムードはソフトだが、描くのは小学生の妊娠・出産とハードなものだ。賛否両論は覚悟で、命の意味をとことん考えてと呼びかけている。春菜とヒロユキは興味本位で“くっつけっこ”という遊びをする。春菜は妊娠するが、大人には相談できず小学生だけで子供を産むことに。妊娠・出産をこうまで軽く扱われても…という思いは禁じえない。だが同時に、ひたむきな“命を殺さない”決心は、まぶしいほど。もっとも、イマドキの小学生がこれほど純真とも、性についてこんなに無知とも思えないので、本作はファンタジーとして見るに限る。
熟年ラブ・ストーリー(55点)
ギアとレインという安全パイ的な組み合わせの熟年ラブ・ストーリー。驚きはないが、過剰な演出がないのはありがたい。小さな宿を手伝うエイドリアンと、唯一の客のポールは共に家庭や仕事など、心に傷を抱えている。そんな二人がやがて惹かれあう物語だ。風情たっぷりの海辺のプチ・ホテルに二人きりならこんな恋も生まれるというもの。大人の恋は勢いだけでは成立しない。だが、情熱を持って慎重に受け入れた愛に後悔はないとの思いは一本スジが通っていて、それは、海岸を駆ける野生馬の美しい姿に象徴される。互いの子供が親を理解し成長する姿は好ましかった。
生きる輝きを描いた秀作(80点)
© 2008間瀬元朗/映画「イキガミ」製作委員会
不気味な管理社会を舞台に、生きる輝きを描いた秀作だ。近未来の日本で、国家公務員の藤本は、3人の若者に政府発行の死亡予告証・逝紙(イキガミ)を届けるが、彼らの最後の24時間を知ることで生と死の意味を問い直していく。国家が法のもとに人の命を奪うのが絵空事に思えないのは、イキガミが、戦争中の召集令状・赤紙と不思議なほど重なるためだ。3話が絡み合わないことで、残されたものの強い思いが共通であることと、主人公の感情の推移が強調され、演出の上手さを感じる。監視カメラの映像の挿入も見事に効いていた。盲目の妹を救うエピソードは過剰に感傷的なのに最も心に残るのは、主人公が死に様ではなく生き様にこだわり、ついに行動を起こすから。安易に恋愛描写に頼らず、しっかりと物語を語って感動を呼んだ滝本監督の手腕は高く鋭い。若手俳優の好演で期待を上回る魅力的な映画になっている。
セレブな天才科学者が活躍する人気アメコミ・ヒーローものは意外なほど秀作。隠れ社会派映画でもある。(75点)
巨大軍事企業の社長トニー・スタークは天才科学者。自社兵器が悪の組織に渡っていることを知りいきなり廃業を宣言する。自ら発明したスーツを着て敵の兵器を破壊するアイアンマンとなるが、それを許さない人物が身近にいた…。
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妙に見応えがあるストーリー展開(60点)
© 2008 Transformer, Inc.
小品なのに西島秀俊や加瀬亮と妙に豪華キャスト。貧乏臭くて地味なキャラばかりなのに、妙に見応えがあるストーリー展開。このアンバランスの中に小さな感動が隠されている。現実に真剣に対処できないでいる3人の若者がひょんなことから古アパートで暮らすことに。土地を売って借金を返そうとしていた主人公が、祖父とアパートの大家である老婦人の思いを知って、彼らの過去の大切な思いを受け止めていく。名女優香川京子の存在感は特筆。白い着物で窓辺に立つ美しさが目に焼きついた。この映画は、少しの勇気で冴えない人生にも温かい光が差し込むと、そっと告げている。
少女の大きな瞳が印象的(60点)
少女の大きな瞳が印象的な小品。両親の不仲に心を痛める10歳のベティは、ある日、精神病院から抜け出した青年イヴォンをかくまうことに。ベティにとって檻に囚われた犬のナッツと心優しいイヴォンは、何をおいても守りたい存在だった。どこか名作「ミツバチのささやき」と思わせるストーリーだが、こちらは小さな冒険と秘密の遊びに思えるのどかさがある。イヴォンが逃げる理由が明記されないので彼をかくまうベティの行動に説得力が乏しいのが気になった。恋と呼ぶには絆が弱い。それでも、自分より弱いものを守る行為で孤独を乗り越えようとする、少女のけなげさが心に残る。
おろち - 渡まち子
美に執着する姉妹の残酷な運命の物語(50点)
楳図かずおの傑作ホラー漫画の映画化だが、謎の美少女おろちは狂言回し。美に執着する姉妹の残酷な運命の物語だ。29歳をすぎる頃に突然美貌が崩れ、化け物のような容姿に変わる門前家の姉妹を描く。ホラーというよりアクの強いガーリー・ムービーの趣で、最も近いライバルである姉妹の愛憎半ばの関係性が見所。木村佳乃と中越典子のとっくみあいは鬼気迫る。美女2人でいたぶりあう様子とラストの衝撃の告白は、米映画「何がジェーンに起こったか」を思わせる。女の心の醜さと男の情けなさが丸出しなので、デート・ムービーには不向き。同性同士での鑑賞を勧めたい。
正統派だが裏を返せば古臭い時代劇(45点)
© 2008「次郎長三国志」製作委員会
正統派だが裏を返せば古臭い時代劇。主演の中井貴一をはじめ役者陣は実力派揃いなのだが。清水の次郎長と妻のお蝶、頼りになる子分たちが織り成す、笑いと涙の人情物語だ。ベタなセリフも含めて、中身は完全に年配の時代劇ファン向け。叔父・マキノ雅弘監督の代表作のリメイクに挑んだマキノ雅彦(津川雅彦)監督の意欲は買うが、自分の娘のドアップを多用するなど、なれあいムードが恥ずかしい。シニア層がターゲットだそうだが、そういう人はオリジナルを見るのでは。宇崎竜童のエンディング・テーマはノリがよく、映画のかったるさをちょっぴり忘れさせてくれた。
主人公は死人のよう(50点)
© 2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ
痛みだけを追い求め、ケータイと愛称でしか人とつきあわない主人公は生の落伍者。向かう先が分からない不安は人一倍で、それは闇の中を蛇行して走る列車のイメージに重なっていく。19歳のルイは、スプリットタン(蛇のように割れた舌)を持つ青年アマと出会い愛し合うが、タトゥーショップの店長でサディストのシバにも惹かれ、2人と同時に関係を持つ。大胆な性描写や暴力シーンがあるが、なぜかギラギラせず淡白だ。ルイの目的は肉体改造ではなく痛み。ピアスとタトゥーが完成した時点でルイの心は壊れている。「大丈夫」とつぶやく主人公は死人のよう。ギラつかないはずだ。