アンダーカヴァー - 渡まち子

サスペンス要素より人間ドラマの葛藤が印象的(65点)

© 2007 2929 Productions LLC. All rights reserved

 演技派キャストをそろえた渋いサスペンスだ。80年代のNY、裏社会に通じるボビーは、兄と父が警察官であることを隠しながら生きるアウトロー。だが警察の麻薬捜査に協力したことで、残酷な運命に巻き込まれる。サスペンス要素より人間ドラマの葛藤が印象的だが、兄ジョゼフのトラウマの描き方とボビーが警官を目指す心情の変化が浅いのが気になる。また、アジトに潜入する場面の緊迫感はすごいのに、警察が仮病にあっさりと騙され犯人を取り逃がすなど、脚本の質にバラつきを感じる。だが豪雨の中でのカーチェイスは素晴らしく、フェニックスの、精神的に追いつめられる演技も見事だ。この人の俳優引退宣言は映画界にとって大損失。撤回してほしいものである。アンダーカヴァーとは潜入捜査のこと。

ミラーズ - 渡まち子

音で怖がらせるだけの凡作ホラー(55点)

© 2008 TWENTIETH CENTURY FOX

 ハリウッドお得意のアジアン・ホラーのリメイクは鏡がモチーフ。心に傷を持つ元警官ベンは、火災跡のデパートの夜警の仕事に就く。廃墟の中で不気味に輝く巨大な鏡に触れた途端、怪奇現象を見るようになり、衝撃の事実にたどり着く。アジャ監督らしいグロテスクな流血描写が満載だが、謎の究明の過程があまりに雑だ。鍵となる少女の宗教がらみのエピソードが説得力に欠けるようでは困る。映画の中の小道具の中でも特権的に深読みできる装置が鏡だが、本作にその精神性が感じられず、音で怖がらせるだけの凡作ホラーになったのが残念。唯一、ゴシック調の廃墟のビジュアルはなかなか美しい。ラストのオチはオリジナルを見ていれば驚きはないが“鏡ホラー”として着地点はこれしかない。オリジナルは韓国映画「Mirror 鏡の中」。

40歳問題 - 渡まち子

中江監督のチャレンジ精神が見える作品(60点)

 アラフォー世代の思いを、音楽を作るプロセスで追ったスタイルが面白い。80年代のバンドブームでデビューし、今や40代になった浜崎貴司、大沢伸一、桜井秀俊の3人に対して“テーマソングを作る”という難題を強引に押し付ける。性格も生活も音楽もまったく違うスタンスの3人が向き合ったのは、40代としての悩みと音楽に対するこだわりだ。特に大沢伸一のとんがった感覚の要求がすさまじく、他の2人を圧倒する。落ち着いてしまうか、まだまだ挑戦するか。微妙な立ち位置なのが40代のリアルな姿。沖縄から離れた映画を初めて作った中江監督のチャレンジ精神が見える作品で、親が死に、自由に生き死にできる身分になったとの監督の言葉が感慨深かった。

赤い糸 - 渡まち子

物語は飛躍が多く心理描写も浅い(40点)

 大人気ケータイ小説の映画化だが、TVドラマとの連動というメディア・ミックスの試みがユニークだ。メイとアツシは運命的に惹かれあうが、ある悲しい過去によって引き裂かれる。不幸の連打と扇情的な試練はケータイ小説の必須アイテムだが、本作ではドラッグとDVが中心だ。この現代的な問題と、親の代の因果という古臭い要素を組み合わせた点は面白い。物語は飛躍が多く心理描写も浅いものだが、見過ごせないのはメイの友人のサラの描写だ。片思いの少年に告白さえしていないのに、いきなり自殺未遂。さらに部分的な記憶喪失になる展開に唖然。イヤなことに対して、自分が消える、もしくは頭から抹消というのが10代の思考回路なら、かなりヤバいのでは。

ノン子36歳(家事手伝い) - 渡まち子

坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所(35点)

 投げやりなヒロインの心の再生を描くが、主人公に共感する人は少ないだろう。36歳のノン子は東京でタレント業をしていたプライドだけが残るバツイチの女性。実家の神社でブラブラしながら、やさぐれた日々を送る彼女の前に、年下の青年と元亭主が現れる。行き場がなく、負け組人生を送る登場人物を責めないのはいいとしても、親元で衣食住が足りた暮らしを送るノン子は甘えた人間にしか見えない。彼女の気持ちが変わるきっかけになる年下のマサルはテキヤにもなれないのに世界に出たいなどと言うヘンな青年。彼のキャラがもっと立っていれば面白くなったものを。ノン子がラストに一人でみせる笑顔は印象的だが、熊切作品常連の坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所と言わねばならないのがツラい。

PARIS - 渡まち子

パリという都市そのものが主役(65点)

 外国人が描くパリは憧れに満ちているが、フランス映画のそれはいつもどこかメランコリックだ。余命わずかな青年ピエールの目を通して、パリに暮らす様々な人々の人生模様を描いていく。すべてが何気ないエピソードばかりだが、そのひとつひとつを愛おしく描く手腕がさすが。パリの名所もチラリと映るが、印象に残るのは名もない通りの石畳や小さなパン屋などありふれた風景だ。いつもコミカルなクラピッシュ作品と違って、難病や移民問題などにも触れるが、シリアスな内容にはせず、あくまでスケッチ風に流したことでパリという都市そのものが主役になった。浅い人間描写を魅力に変えるところがクラピッシュらしい。人生を愛そう。これが映画のメッセージだ。

ティンカー・ベル - 渡まち子

今後どう展開するか楽しみ(60点)

© Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

 可愛らしいファンタジーだが全4部作という巨大プロジェクトの第一弾というから驚く。ピーター・パンに出会う前の妖精ティンカー・ベルの誕生秘話を描く物語だ。もの作りという尊い仕事の才能を持ちながら、他の妖精たちの能力に憧れ失敗ばかりするティンクはかなり問題児の女の子。カラフルな色彩と楽しいキャラクターがディズニーらしいが、ティンクの魅力は、決して“いい子”じゃないところだろう。もちろん最後には妖精として立派に成長するのでご安心を。“春 ”を無事に届けた本作から、今後どう展開するか楽しみだ。ティンクが乗るネズミの表情がミョーに可愛い。

ファニーゲーム U.S.A. - 渡まち子

観客は自分が暴力に加担している気になり気が滅入る(50点)

© 2007 Celluloid Dreams Productions – Halcyon Pictures – Tartan Films -X Filme International

 不快感満載の怪作で、ハネケ自身のセルフ・リメイクである。別荘で過ごす裕福な家族が、2人の美青年によって徹頭徹尾いたぶられ、死のゲームに参加させられる様子をサディスティックに描く物語だ。セリフやカット割までほとんど同じにしたのは、罪もない人間が痛めつけられるのは、時代や場所がどこであれ常に起こりうると言いたいのだろう。神経を逆なでするのは、時折観客に向けて話しかける演出だ。これは作り事ですよと念を押す技法であるにもかかわらず、観客は自分が暴力に加担している気になり気が滅入る。この映画の真意は、問答無用の悪意の存在証明なのだ。オリジナルを初めて見た時の衝撃は忘れないし、ある種の傑作とは思うが、この内容の映画を二度作るハネケの神経は理解しがたい。ナオミ・ワッツがド迫力の熱演。

K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝 - 渡まち子

怪人二十面相をトンデモな方向へと向かわせる(55点)

© 2008「K-20」製作委員会

 怪人二十面相をトンデモな方向へと向かわせる物語だが、格差社会が発展したパラレルワールドを舞台にしたのは面白い。サーカスの曲芸師・平吉は、謎の男の罠によって怪人二十面相として捕らえられる。令嬢・葉子とともに無実の罪をはらすため本物の二十面相を追うと、衝撃の事実が待っていた。このK-20は、走り、跳ね、空まで飛ぶアクション・ヒーローだ。闇の中で暗躍する義賊、あえて罪を被る決意など「ダークナイト」度が高いが悲壮感はゼロ。物語はユルユルだが、レトロなムードの活劇にはこのくらいでちょうどいい。とぼけた表情の金城武が、なりゆき型ヒーローにぴったりだ。

ワールド・オブ・ライズ - 渡まち子

米国と中東の価値観の違いが面白い(75点)

© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc.

 ヒゲ面のレオとメタボのクロウ共演のスパイものだが、米国と中東の価値観の違いが面白い。死と隣り合わせのCIA工作員フェリスと、安全な場所から指令を下す上司のエド。彼らの潜入捜査を描く。中東のテロという素材は目新しくないが、敵はおろか味方さえ信じられない状態での緊迫感は最後まで途切れない。最先端のCIA捜査に対して中東のそれは人から人への秘密作戦だ。彼らの考え方の差異が最後の最後でモノを言う展開は考えさせられる。砂漠で人工的に砂嵐を起こし衛星の目をくらます映像が素晴らしい。レオが好演だが、いけ好かない上司役のクロウも上手かった。

ラースと、その彼女 - 渡まち子

リアル・ドールとの恋物語は一見キワモノだが、中身は温かくて素敵な感動作。ゴズリングの表情が繊細だ。(70点)

© 2007 KIMMEL DISTRIBUTION,LLC All Rights Reserved

 シャイで孤独な青年ラースは人付き合いが大の苦手。そんな彼が兄夫婦に紹介した恋人ビアンカは等身大のリアル・ドールだった。兄と義姉、町の人々は最初は面食らうが、ラースを傷つけまいとビアンカを受け入れていく…。

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地球が静止する日 - 渡まち子

映像はスリリングだが、物語そのものにさしたる工夫はない(60点)

© 2008 TWENTIETH CENTURY FOX

 古典SFのリメイクの一番のウリは文明を破壊しつくす驚愕のVFXだ。任務のために地球に到来したクラトゥは地球外文明の使者。彼の目的は“地球を救うこと”だった。人類から破壊され続ける地球を救うためには人類を滅ぼすしかないという、エコ的極論を展開しつつ、物語は衝撃のディザスター・ムービーへ。ロバート・ワイズが監督した旧作の拙いビジュアルは、最新技術によってド迫力の映像になった。かつては、地球より数倍進んでいるはずの星からの宇宙船が、出来損ないの目玉焼きのようだったが、今回は謎めいて輝く球体になりその美しさに目をみはる。だが、何十年も前に潜伏していた使者が何の役にもたってないのが大きな疑問。映像はスリリングだが、物語そのものにさしたる工夫はない。「私たちは変われる」との米国大統領選挙のようなセリフには苦笑した。無表情の宇宙人役のキアヌがハマリ役。

エグザイル/絆 - 渡まち子

男の美学に貫かれた秀作(80点)

© 2006 Media Asia Films(BVI) Ltd. All Rights Reserved.

 無駄がないノワール・アクションで、男の美学に貫かれた秀作だ。中国返還が迫るマカオ。裏社会に生きる4人の男たちが1人の男の生死をめぐって対立する物語である。5人は深い絆で結ばれた幼馴染。敵味方に分かれせめぎあうが、事態は思わぬ方向へ。作品の質を上げたのは、ドライに徹した人間描写だ。乱舞のような銃撃戦が特筆で、動作、構図、照明と完璧に美しい。寡黙な男たちの友情と秘めたダンディズムにしびれると同時に、赤ん坊の足に付けた鈴の音色に心が揺さぶられた。トー作品常連の不敵な面構えの俳優たちが適役。クールで硬派な映画好きに勧めたい。

空へ?救いの翼? - 渡まち子

兵器マニアにはたまらないだろう(45点)

© 「空へ -救いの翼 RESCUE WINGS-」製作委員会

 不祥事続きの自衛隊の「こんな大事なこともしていまーす」との声が聞こえそうな作品だ。川島遥風(はるか)は、女性初の救難ヘリの新人パイロット。彼女が、厳しい救難活動の中で悩みながらも成長していく姿を描く。撮影当時15歳だった高山侑子ちゃんの演技は拙いが、殉職した救難隊員を父に持つだけあってその目力(めじから)は鋭い。終盤の、初めての護衛艦上着陸は手に汗を握る場面だ。自衛隊全面協力だけあり、本物のジェット機や軍用ヘリが惜しげもなく登場。私には猫に小判だが兵器マニアにはたまらないだろう。男社会で頑張る実在のヒロインにエールをおくりたい。

アラトリステ - 渡まち子

ヴィゴ・モーテンセンの渋い演技が素晴らしい(70点)

 中世の時代ものでは善玉の英国に対しスペインは陰謀を企てる悪玉役。名誉回復とばかりにスペイン映画界が巨費をかけ、実際のスペイン史の中に、架空の剣士アラトリステを配し、波乱に満ちた冒険歴史絵巻を作り出した。17世紀、落日の時代へ向かうスペインで、己の剣1本で生き抜く男ディエゴ・アラトリステの半生を描く。アラトリステは義に熱く、一人の女性を愛しぬくアウトローの剣豪だ。日本で言えば、宮本武蔵や柳生十兵衛に近い存在だろうか。全編スペイン語で演じるヴィゴ・モーテンセンの渋い演技が素晴らしい。何より、絵画のように格調高い映像に、見惚れてしまった。

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