戦場のレクイエム - 渡まち子

内戦という中国では扱いにくいテーマに挑んだことを評価したい(65点)

戦場のレクイエム

© 2007 Huayi Brothers Media & Co.,Ltd. Media Asia Films(BVI) Ltd. All Rights Reserved.

 日中戦争後の内戦を描く中国映画の力作だ。1948年の中国共産党の人民解放軍と国民党軍による国共内戦で、隊長のグーは、自分が退却ラッパを聞き逃したせいで味方が全滅したと悩む。内戦という中国では扱いにくいテーマに挑んだことを評価したいが、物語のバランスが悪い。前半の激しい戦争シーンより、中盤以降の、失踪扱いになった仲間の名誉回復を求めて奮闘するドラマの方が胸に迫るので、こちらに比重を置くべき。戦争の是非ではなく、国に認めてもらうしか心の折り合いがつかない兵士たちの姿に、悲劇がにじむ。彩度を落とした画面の中では役者の顔が判別しにくいが、そのことが、個人より国家を優先する中国の歴史を物語る効果を上げていた。

大阪ハムレット - 渡まち子

キャラが抜群に立っているのが魅力(75点)

© 2008「大阪ハムレット」製作委員会

 大阪の下町で暮らす個性豊かな三兄弟をユーモラスに活写する物語は、あと味のいい佳作に仕上がった。老けたルックスの長男は恋に悩み、幼い三男は将来は女の子になると宣言。父が死に、いつのまにか同居した叔父と暮らしつつ、ハムレットのような家庭環境に悩むのは、ヤンキーの次男だ。キャラが抜群に立っているのが魅力だが、もとはいくつかのエピソードに分かれた原作を、見事に1本のドラマ化した脚本が素晴らしい。幸せの意味をユニークな視点で問う物語の中心にドンと構えるのは、大黒柱の母(オカン)の存在だ。生きるべきか死ぬべきか。深遠な言葉も大阪弁で語られると、爆笑もの。“生きとったらそれでええやん”とのセリフが、ありのままを肯定するこの作品のスピリットだ。

ヘルライド - 渡まち子

作品を支えるのはバイク、ドラッグ、セックスの3点のみ(30点)

 60年代に大挙して作られていたバイカー・ムービーの再現だが、製作総指揮のタランティーノの「グラインドハウス」2部作の姉妹編のような趣だ。対立する2つのバイカー・チームの争いと、過去の因縁にからむ復讐を描くというストーリーが一応あるものの、作品を支えるのはバイク、ドラッグ、セックスの3点のみ。すべてがデフォルメされているが、特に登場する女性たちのルックスがスゴい。これはきっとバイク野郎の妄想のヴィジュアル化なのだろう。過剰な露出とお色気で、話の筋など軽く無視して体をクネらせる。徹底したB級センスに潔さを感じるが、あくまでも駄作として楽しむのがこういう映画への正しい礼儀というものだ。ラスト、デニス・ホッパーの“復活”が笑える。

プライド - 渡まち子

オペラ界が舞台なのに、本格的なオペラの場面が少なすぎる(45点)

プライド

© 2008プライド製作委員会

 良くも悪くもマンガ的すぎるこの映画、楽しむためにはリアリティの欠如を受け入れるしか道はない。お嬢様育ちで気位が高い史緒と、貧しいが上昇志向の強い萌の二人が、オペラ歌手を目指して熾烈なバトルを繰り広げる物語だ。女のいやらしさや稚拙な陰謀が展開するのはお約束としても、オペラ界が舞台なのに、本格的なオペラの場面が少なすぎる。互いに嫌いながら磁石のように引き付けあう二人が共に歌う場面が2度あるが、どちらもポップスなのはいただけない。ともあれ、プライドとは、保つのも捨てるのもやっかいだと、このデフォルメされた女たちが教えてくれた。

感染列島 - 渡まち子

画面から緊張感がさっぱり感じられない(40点)

© 2009 映画『感染列島』製作委員会

 数ある災害の中でも、台風や怪獣より怖そうなのがパンデミック。物語は、未知のウィルスによってパニックに陥った日本で戦う人々の姿を描くものだ。風評被害やワクチン不在の中で心と身体が蝕まれていく過程は現実感があるが、画面から緊張感がさっぱり感じられない。全国に広がったはずの恐怖は伝わらず、院内の二次感染やワクチン開発の過程も安直で生ぬるい。登場人物は、戦場と化したはずの病院で、完璧に化粧して、無精ヒゲもはえず、髪の毛1本乱れていない。これのどこが未曾有の危機なのか。何よりも二人の恋愛パートや過去のいきさつなど不必要だ。物語はダレまくりなのだが、ウィルス災害の問題提起と、疑似体験映画としてサラリと見ておこう。

007/慰めの報酬 - 渡まち子

シリーズ初の続編はボンドの心の葛藤がテーマ。007に何を求めるかで評価が変わる。(70点)

007/慰めの報酬

 愛した女性ヴェスパーの裏切りと死に傷ついたジェームズ・ボンドは、彼女の死に係わる悪の組織の存在を知ることに。それは南米の某国政府の転覆と天然資源の独占をもくろむ世界支配の陰謀だった…。

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ザ・ムーン - 渡まち子

綺麗事のようにまとまっているのが残念(65点)

ザ・ムーン

© Dox Productions Limited 2007. All rights reserved

 月を訪れた米国の宇宙飛行士たちの証言と当時のニュース映像でつづるドキュメンタリー。冷凍保存していたというNASAの蔵出し映像が貴重だ。驚きなのは、月面着陸が失敗した場合に備えて、ニクソン大統領の声明が用意されていたこと。実際には成功したと知っていても「残念ながら失敗しました」と聞かされると妙に悲しくなる。それは栄光の裏側にある“失敗したアポロ計画”の犠牲者への追悼に聞こえるからだろうか。編集は全体的にメリハリが薄く、時に眠気を誘う。またNASA全面協力だけあって、米国の技術がいかに優れているかとのPRのようにも見えた。実際の宇宙開発は、旧ソ連との軍事力競争という側面が大きいのに、そのことにはほとんど触れないので、綺麗事のようにまとまっているのが残念。それでも幻想的な宇宙の映像を見ていると、今も月へのロマンをかきたてられるし、地球で生きている感謝を感じる。

ディザスター・ムービー!おバカは地球を救う - 渡まち子

見終わって何一つ頭に残らない(35点)

 大ヒット映画とセレブをネタに、おバカギャグで突っ走るパロディ・ムービー。青年ウィルは、人類滅亡を阻止するべく、アイアンマンやハンコックらヒーローたちをかわしながら、クリスタル・スカルを探してアメリカ自然史博物館へ向かう。「紀元前1万年」からはじまって、山ほど映画ネタが登場するが、日本人にはなじみの薄いネタもあり、時としてサッパリわからなくなる。ネタにする映画が多すぎてじっくり笑うヒマがないのは難点だが、見終わって何一つ頭に残らないのは、このテの映画ではむしろ長所か。一番ウケたのは、「ジュノ」と「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリーのやりあう姿だ。

禅 ZEN - 渡まち子

大河ドラマのダイジェスト版のような印象(55点)

 鎌倉時代に曹洞宗を開いた道元禅師の半生を描いた伝記だが、大河ドラマのダイジェスト版のような印象だ。その教えは、あるがまま自然に身を任せ、ただ坐るのみ。これが「只管打坐(しかんたざ)」のスピリットだ。ただ、宗教映画の哀しさで、知る人には物足りなさを、知らない人には難解さを与えてしまう。ただ、架空のキャラおりんの、豆のエピソードは分かりやすく、不幸なのは自分だけではない、そして気の持ちようで物事は別の見方も出来ると、学のない者にもやさしく教えている。中村勘太郎は、さすがに着物姿がさまになり、適役。四季折々の風景の映像が美しかった。

ミーアキャット - 渡まち子

どこか人間的で親近感がわく(65点)

Yaffle Films(Meerkats) Limited © 2007
Mattias Klum/NationalGeographic/ゲッティイメージズ

 可愛いようなキモいような、微妙なルックスが魅力のミーアキャットのドキュメンタリーだ。アフリカのカラハリ砂漠でたくましく生きる不思議系小動物の行動は、どこか人間的で親近感がわく。常に家族で支えあい年長のものが年下を“教育”するから驚いた。子供のコロが、兄の死や大冒険の末の帰還という試練を経て成長する姿に思わず感情移入してしまう。すっくと立ち上がって見張りや日光浴をする姿は天然で微笑ましいが、何しろそこは気温40度。猛暑に耐えかねてパタッと失神する姿に笑ってしまった。巣穴の中の映像や雲の動きなど、高度な技術で撮影された映像が美しい。

きつねと私の12ヶ月 - 渡まち子

動物たちや四季折々の自然の描写が驚くほど美しい(75点)

きつねと私の12ヶ月

© Bonne Pioche Productions-France 3 Cinema-2007

 子供と動物の最強コンビで、感動の強度は鉄板の如しだ。フランス山間部の村に住む少女リラが、一匹の野生のきつねと出会い、心を通わせながらも自然界の厳しい約束事を知って成長する物語である。たくさん登場する動物たちや四季折々の自然の描写が驚くほど美しい。きつねのテトゥの柔らかな毛の美しさや愛らしいしぐさに釘付けだ。物語は、いくら大好きでも、人間の都合で野生動物を飼いならすことは間違っていると教えるもの。大人になったリラの回想形式にしたことで、よりリリカルになった。ジャケ監督初の長編劇映画だが、記録映画タッチのさっぱりした演出に好感が持てる。

チェ 28歳の革命 - 渡まち子

観客に積極的に参加を促す映画(70点)

© 2008 Guerrilla Films,LLC?Telecinco Cinema, S. A. U. All Rights Reserved

 連続しない人生の一部分を二部作で構成する個性的な伝記映画だ。カリスマ的な革命家チェ・ゲバラの半生を描くが、今回はカストロと出会いキューバ革命を成功に導く、最も“生きた”瞬間を描く。25kgも減量して熱演するベニチオ・デル・トロが素晴らしく、まるでゲバラに生き写しだ。ただし革命が起こる前の状況説明がほとんどなく、NYの国連での名演説やインタビューの場面を断片的に挿入する演出は、決して分かりやすいとは言えない。この作品を十分に味わうには、50年代の国際情勢など多くの予備知識を必要とする。つまり観客に積極的に参加を促す映画なのだ。ただ、時には犠牲や厳しい粛清も強いるゲリラ戦が奇跡的に成功する実態は、興味深い。世界中で、無条件にカッコいいと思われているゲバラ。叙情的な演出はいっさい省き、行動のみを追うこの映画は、その謎を解き明かす正しい入り口になりそうだ。

ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー - 渡まち子

怪しくも美しいクリーチャーのビジュアルが一番の見所(70点)

ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー

© 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

 見た目はコワいが心は優しいヘルボーイは、超常現象捜査防衛局でエージェントとして活躍中。そんな中、魔界の王子ヌアダが伝説の最強軍団ゴールデン・アーミーを蘇らせようとする。怪しくも美しいクリーチャーのビジュアルが一番の見所。オスカー効果の潤沢な予算で自由に演出するデル・トロ監督の美意識が炸裂だ。美しい森の神エレメンタルが死ぬところなど、思わず悲しくなってしまう。ヘルボーイは昨今のヒーローと違い、クヨクヨ悩んだりせず闘うところが爽快。主人公はTVに出てスターになりたいなどと思っているのに、悪役は、やり方は感心しないが、人類が地球を汚したことに怒り、道徳的なことを言うあたりも面白い。…にしても白塗りのヌアダ王子が「デトロイト・メタル・シティ」のクラウザーさんに見えるのは私だけか?!

そして、私たちは愛に帰る - 渡まち子

映画を支えているのは名女優ハンナ・シグラの存在感(75点)

そして、私たちは愛に帰る

 シビアな人間ドラマは、偶然を多用するが、それが決して安易なハッピーエンドにつながらないところが深い。ドイツとトルコを舞台に3組の親子の生と死がすれ違う物語だ。映画を支えているのは名女優ハンナ・シグラの存在感。ファティ・アキン監督はトルコ系ドイツ人監督で、派手さはないが繊細な演出が持ち味。父子や母娘の愛情と亀裂がさまざまな悲劇を生むが、それでもどこか希望を感じるから不思議。特にラスト、海を見つめる息子の後姿が素晴らしい。ドイツでのトルコ移民の問題や宗教事情など、日本人には分かりにくい要素もあるが、犠牲と許しが作品のテーマと考えると普遍的な物語に思えるはず。民族音楽も含め、じっくり味わうに価する作品だ。

その男ヴァン・ダム - 渡まち子

笑うに笑えないネタが次々に登場(70点)

© 2008 GAUMONT-SAMSA FILM

 B級アクション路線まっしぐらで、90年代に人気絶頂だったジャン=クロード・ヴァン・ダムが、自らをネタにしたメタ・フィクション・コメディー。落ち目の俳優ヴァン・ダムが、故郷のベルギーで偶然に立ち寄った郵便局で強盗に遭遇。警察や市民はヴァン・ダムが犯人だと勘違いし大ニュースになってしまう。親権争いや金銭トラブル、セガールに役を奪われたり、ハリウッドに呼んでやったジョン・ウーから冷たくされたりと、笑うに笑えないネタが次々に登場して、あまりにやるせないが、本音に聞こえるビミョーなセリフが絶妙だ。アクションのイメージしかなかったヴァン・ダムの“演技力”が堪能できるという意味で、必見の1本と言えよう。

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