パニッシャー:ウォー・ゾーン - 渡まち子

小悪も巨悪も同じように殺しまくる主人公に感情移入は難しい(40点)

パニッシャー:ウォー・ゾーン

 一方的に悪人退治をする主人公には、社会に対する深い不信感がある。法で裁けない悪人たちに制裁を加える“パニッシャー”ことフランクは凶悪犯ビリーと対決するが、誤ってFBI捜査官を殺してしまい、苦悩する。超能力や発明品的な武器などを持たないことが逆に生身の人間の暴力性を際立たせた。小悪も巨悪も同じように殺しまくる主人公に感情移入は難しいが、3度目の映画化になるパニッシャーは“正義”とするのが不文律。時代がこんなダーク・ヒーローを求めているのだろう。暴力的でハチャメチャなガン・アクションが登場するが、監督は意外にも女性。あらゆる武器を駆使した迷いのない残酷描写に、さすが元・世界空手チャンピオン!と妙に感心してしまった。

レイン・フォール/雨の牙 - 渡まち子

チマチマしたサスペンス(55点)

レイン・フォール/雨の牙

 原作はベストセラーの人気シリーズだが、映画はチマチマしたサスペンスという印象だ。物語は、大都市・東京を舞台に、日系アメリカ人で凄腕の殺し屋ジョン・レインが政権汚職と国家間の陰謀に巻き込まれるハード・ボイルド・アクション。ニッポン勘違いや観光案内風な映像は皆無で、せっかくまともな日本描写なのに、物語がそれに応えてくれない。ITや人からの情報、武器の入手などの描写がこう乏しくては、本当に凄腕暗殺者で、本当に国家の危機なのかと疑いたくなる。特に終盤の雑な展開がいただけない。原作者は日本滞在歴も長いという元CIA工作員。なんでもない路地やさびれたアパートなど、どこか無国籍なムードが漂うカメラワークが面白かった。

グラン・トリノ - 渡まち子

久しぶりにイーストウッド自身が監督・主演。老人と少年の静かな友情が感動を呼ぶ秀作。(90点)

グラン・トリノ

© 2009 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 ウォルトは、隠居生活を送る頑固で孤独な老人だ。ある日、内気な少年タオが不良から強要されて彼の自慢の愛車グラン・トリノを盗もうとし、失敗。ウォルトがタオの謝罪をしぶしぶ受け入れたことから風変わりな交流が始まる…。

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バーン・アフター・リーディング - 渡まち子

ブラピのバカっぷりは見もの(65点)

バーン・アフター・リーディング

© 2008 Focus Features LLC.All Rights Reserved.

 デタラメさの連鎖が楽しいクライム・コメディだ。CIAの機密情報が入ったCD-ROMを巡って諜報員や連邦保安官、その妻や不倫中の愛人らがそれぞれの思惑で入り乱れ、予測不能なドタバタ劇を繰り広げる。豪華キャストはどいつもこいつもムチャクチャな役なのだが、とりわけスポーツ・インストラクター役ブラピのバカっぷりは見ものだ。“多少の犠牲”はあるものの迅速に正確に処理するCIAの役人たち。素人相手に奮闘する彼らの悩みはつきないが、幼稚な犯罪計画が国家をも揺るがす展開に、世界平和の行く末が本気で心配になる。コーエン兄弟が、肩の力を抜きまくり、仲間たちと遊び倒したゴージャスなエンタメ映画。これもオスカー監督となった余裕だろう。

ひぐらしのなく頃に 誓 - 渡まち子

信じあう世界も憎みあう世界も紙一重(50点)

 すべてが解決すると期待した続編だが、ますます謎を呼ぶ作りで悩んでしまう。原作ファンには物足りない、それ以外には説明不足という定番の轍を踏んでいる。雛見沢村に戻ったレナは、圭一たちと楽しく過ごしていたが、父の新しい恋人になじめず情緒不安定になる。前作は圭一目線だったのが今回は完全にレナ目線。疑心暗鬼になったレナを、仲間たちが信じあい救うという設定は一見固い友情に見えるが、極めて自己中心的で脆い信頼関係だ。信じあう世界も憎みあう世界も紙一重。では何を頼りに生きればいいのか。最大の見せ場である、屋根の上での“対決”の刹那的な快感だけは生を実感できたのだろう。次へつながるラストには期待よりも脱力感が漂った。

おっぱいバレー - 渡まち子

意外にもさわやかな青春映画(70点)

おっぱいバレー

© 2009「おっぱいバレー」製作委員会

 いきなり“おっぱい”である。胸部と球技にどんなコッ恥ずかしい関係があるのか気になるだろうが、これは意外にもさわやかな青春映画だ。1979年の北九州市の中学校。新任教師の美香子は、弱小男子バレー部の部員たちに「試合に勝ったら、おっぱいを見せる」約束をさせられて困りはてるが、部員たちは、がぜん張り切ってしまう。物事に取り組むときはモチベーションが何より大事。この映画のそれは少々問題あるものの、少年たちは、頑張ることによって大切な何かを学んでいく。それは教師として成長するヒロインも同じだ。そのことを説教臭くせず軽く楽しく描いたのが上手い。何より、こんなあられもないタイトルで公開してしまう配給会社の英断が、ナイス!だ。

鴨川ホルモー - 渡まち子

アホらしくも楽しい(55点)

鴨川ホルモー

© 2009 「鴨川ホルモー」フィルムパートナーズ

 伝統とアヴァンギャルドが同居する京都は、摩訶不思議な存在を許す場所だ。京都大学に昔から存在する怪しげなサークル「青竜会」に、なりゆきで入部した主人公は“オニ”を駆使して戦う“ホルモー”なる謎の競技で闘うことに。美男美女の若手俳優が「ゲロンチョリー」と謎の雄たけびを上げる様子がアホらしくも楽しい。特に、メガネの秀才で、ダサかわいい栗山千明がいい味を出している。どんなにバカらしいことでも、心から熱中すれば、きっと何かが見える。ホルモーに熱中した後には、卒業して就職し、普通の社会人になるであろう彼ら。せつな的でファンキーな青春讃歌として楽しみたい。

レイチェルの結婚 - 渡まち子

長所も短所も編集なしで容赦なく映し出して非常に効果的(70点)

レイチェルの結婚

 心の病や薬物中毒の問題を支えあうのが家族。言うのは簡単だが実際には修羅場だ。姉レイチェルの結婚式に出席するためキムが帰宅する。彼女は依存症の施設から仮に外出を許可された身で、精神的に不安定だった。全編ホームビデオのような雰囲気で撮られた映像は、家族全員の長所も短所も編集なしで容赦なく映し出して非常に効果的。そこにいつも感じるのは不幸な事故で死んだ幼い弟の影だ。

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ミルク - 渡まち子

見るものにポジティブな感動をもたらしてくれる(75点)

ミルク

© 2008 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

 この映画のショーン・ペンは、今まで見たことがないほど可愛らしくて繊細だ。彼は時に過剰なほど凄味のある演技が持ち味だが、軽さや愛嬌がこの俳優をとても魅力的にすると知った。70年代のサンフランシスコで、同性愛であることを公表しながら公職に就き、真正面から政治活動を行なったハーヴィー・ミルクの半生を描く物語は、彼の遺書作りから始まり、やがてくる悲劇へ向かって一歩一歩近づくように進行する。

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スラムドッグ$ミリオネア - 渡まち子

インドを駆け抜ける夢物語は、残酷さとユーモアと愛のカオスだ。オスカー8冠の話題作。(95点)

スラムドッグ$ミリオネア

© 2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 スラム出身の青年ジャマールは「クイズ・ミリオネア」に出演。全問正解を目前に、不正を疑われ逮捕されてしまう。無学の彼がなぜ答えを知り得たのか。彼は警察で、望まなくとも正解を知ることになった過酷な人生を語り始める…。

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Livespire 嵐になるまで待って - 渡まち子

人気舞台を映画用に編集したサスペンス・ドラマ(60点)

© 株式会社ネビュラプロジェクト/ソニー株式会社 2009

 ソニーがデジタル映像で映画館に配給するサービス“Livespire(ライブスパイア)”の第4弾は、劇団キャラメルボックスの人気舞台を映画用に編集したサスペンス・ドラマ。声優の卵のユーリは、役者や演出家の顔合わせで出会った作曲家・波多野の心の声が聞こえる。彼はその不思議な心の声で他人の命まで奪う力を持っていた。物語は、特殊能力による殺人の謎を追うもの。今までもシネマ歌舞伎やゲキシネなど、舞台を映画館で見せる試みはあったが、今回のは物語という点で非常に映画に向いている。この映像エンタテインメントの最たる特徴は鑑賞の平等性だ。キャラメルボックスの舞台を生で見ることができないファンのためにも朗報となろう。

今度の日曜日に - 渡まち子

忙しい日常に少しだけ安らぎをくれる(50点)

今度の日曜日に

© 2009「今度の日曜日に」製作委員会

 韓国人の女の子とパッとしない中年男。まったく接点のない二人を通して人の心のふれあいを描く小品。留学生ソラは大学の映像実習の課題「興味の行方」の題材に、ある事情をかかえた用務員で、捨ててあるガラスビンを集めるのが趣味のちょっと変わったおじさん・松元を選んで撮影を始める。歌舞伎界の貴公子・市川染五郎がさえない貧乏中年男を演じる意外性もさることながら、映画初出演のユンナの自然なたたずまいが何より収穫。あえて盛り上がりを作らず淡々とした内容に仕上げたのは監督の意図したものだろう。それでも、課題の「興味の行方」の映像が空中分解してしまうのが惜しい。忙しい日常に少しだけ安らぎをくれる、小さなサプリメントのような物語だ。

ニセ札 - 渡まち子

拝金主義を痛烈に笑い飛ばす(70点)

ニセ札

© 2009『ニセ札』製作委員会

 木村祐一の長編初監督作は、キリリと締まった佳作だ。終戦直後、紙すき産業が盛んな村で、ニセ札作りが始まる。それは村ぐるみで挑んだ一大犯罪だった。完全分業で挑むニセ札作りは本格的かつ牧歌的。だがこれは単なる金儲けのためでない。終戦で激変した価値観の中、生きていかねばならない庶民は、建前だけの民主主義なんぞには頼れない。だが、市場リサーチのつめが少々甘かった。実話に基づくニセ札事件の物語は、拝金主義を痛烈に笑い飛ばすものだ。ナチスや旧日本軍の幹部が聞いたら怒られそうな、村の偽札作りだが、お金を「所詮ただの紙切れ」と言い切る教師かげ子の顔は誇りに満ちて美しい。倍賞美津子がさすがの名演だ。

ピンクパンサー2 - 渡まち子

ベタな笑いとテンポの良さ(55点)

ピンクパンサー2

 「クルーゾー警部が帰って来るーぞ」とは、宣伝担当の美女N嬢が試写室でかましたおやじギャグ。思わずズッコケたが、これが公式のキャッチなのだからなす術もない。高価なダイヤ・ピンクパンサーを狙う大泥棒トルネードを逮捕するために、世界精鋭チームが結成される。なぜか参加したクルーゾーは珍騒動を起こしながらも、大活躍する。豪華キャストがバカをやる様子が笑えるが、身体をはったアクションもあり、なかなかの労作だ。ベタな笑いとテンポの良さがこのシリーズのいいところ。とはいえ、ラストの謎解きの部分があまりに雑なのはちょっと惜しい。アイロニカルでひねりを効かせたセラーズと違い、マーティンのクルーゾーは分かりやすい笑いが持ち味だ。

ある公爵夫人の生涯 - 渡まち子

雰囲気は優雅だが人物に魅力が乏しい(55点)

ある公爵夫人の生涯

© 2008 BY PARAMOUNT VANTAGE, A DIVIDION OF PARAMOUNT PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

 雰囲気は優雅だが人物に魅力が乏しい。18世紀の英国でジョージアナは大貴族デヴォンシャー公爵に嫁ぐが、夫の無関心や不実に悩まされ、自らも不倫に走る。実情は不道徳でも表面上は世間体を取り繕う様がいかにも英国らしい。正妻と愛人が同居し親密に暮らすなど、超党派で結託する節操のない政党のようだ。スキャンダラスな親を見て育つ子供のメンタル面が思わず心配になる。ヒロインは故ダイアナ妃の祖先で、元祖セレブと呼ばれた女性。だが当時の女性は貴族でも、選挙権はおろか自分の財産さえ持てなかった。女の価値は男子の世継ぎを生むことだけという時代の不幸と言うべきだろう。内面の虚しさを際立たせるような華麗な衣装が印象的だった。

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