◆喜び、怒り、悲しみを情熱的なリズムで表現するジプシーたち。感情をかきむしる旋律が女の気持ちを代弁する。それは愛を求めて東欧の果てまでやってきた彼女が体験する喪失の物語にふさわしいが、突然の転調に映画は乱れる。(30点)
喜び、怒り、悲しみを情熱的なリズムと激しいステップで表現するジプシーたち。それは愛を求めて東欧の果てまでやってきた女が体験する喪失と再生の物語にふさわしい。愛する男に拒絶された彼女はもはや正気ではいられず、あてどない旅に出る。感情をかきむしる一方でやさしく癒すような旋律が彼女の気持ちを代弁する。しかし、絶望の余りほとんど言葉を発することがなくなった女はやがて出会った男に主人公の座を譲り、突然の転調に映画の調和は乱れてしまう。喜び、怒り、悲しみを情熱的なリズムと激しいステップで表現するジプシーたち。それは愛を求めて東欧の果てまでやってきた女が体験する喪失と再生の物語にふさわしい。愛する男に拒絶された彼女はもはや正気ではいられず、あてどない旅に出る。感情をかきむしる一方でやさしく癒すような旋律が彼女の気持ちを代弁する。しかし、絶望の余りほとんど言葉を発することがなくなった女はやがて出会った男に主人公の座を譲り、突然の転調に映画の調和は乱れてしまう。
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◆性犯罪への怒りと性犯罪者を野放しにしていることへの苛立ち。それらがB級ホラー映画のような表現法で描かれる。しかし思わせぶりな演出とは裏腹に、登場人物の心の闇を解明することなく、ミステリーとしても中途半端だ。(40点)
繰り返される性犯罪への怒りと性犯罪者を野放しにしていることへの苛立ち。それらがフラッシュバックや映像の歪み、過剰な効果音といった、まるでB級ホラー映画のような表現法で描かれる。しかし思わせぶりな演出とは裏腹に、登場人物の心の闇を解明することなく、誘拐事件の犯人探しというミステリーとしても中途半端。性的倒錯者による異常犯罪に立ち向かうには、彼らの思考パターンを読む意味である種の狂気が必要なのは理解できるが、取り締まる側が無法者と同じ土俵に立っていいものだろうか。
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◆肉体は吸血鬼でも人間の良心は胸に残ったままという、吸血鬼になりきれない吸血鬼。スタイリッシュな映像で従来の吸血鬼モノと一線を画そうという試みは理解できるが、アクションも展開もぬるく、中途半端な構成は先が読める。(40点)
吸血鬼に襲われたものは吸血鬼となり、飢えと渇きを癒すためには自分もまた人間を襲わなければならない。そんな自分が許せなくて自殺を図るが、一度死んだ身には死は訪れない。肉体は吸血鬼でも人間の良心は胸に残ったままという、吸血鬼になりきれない吸血鬼が自分の血を吸った吸血鬼たちに復讐を誓う。しかし、スタイリッシュな映像で従来の吸血鬼モノと一線を画そうという試みは理解できるが、アクションも展開もぬるく、中途半端な構成では先が読めてしまう。
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◆ラスベガスを舞台にした犯罪映画でありながら暴力とは無縁なストーリーが非常に洗練されている。どこまでもクールなオーシャンズの行動様式は「ちょい不良オヤジ」など足元にも及ばない「粋な中年男」の真髄を見せてくれる。(80点)
スタイリッシュな映像、アイデアと行動力とチームワークで勝負する主人公たち、そしてなによりラスベガスという街を舞台にした犯罪映画でありながら暴力やセックスとは無縁なストーリーが非常に洗練されている。大掛かりな仕掛けやCG、火薬や銃撃といった現代のハリウッド的なものより、スターがそれぞれの主部範囲をきちんと守り個性を演じ分けるという、古い時代のハリウッドを感じさせる映画の持つ雰囲気が心地よい。そして何より、今回の犯罪計画が金儲け至上主義の男に破滅させられた仲間の復讐という、男同士の友情が動機になっていところが心をくすぐる。
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◆仕事に追われ心をすり減らしていた男が農村のスローライフに触れ生き方を変える。手垢の付いたような物語には新鮮味はなく、予想通りに展開し予想通りの結末を迎える。人口甘味料を使った安物ワインのような味わいの映画だ。(40点)
仕事に追われ心をすり減らしていた男が、ふとしたきっかけで農村のスローライフに触れ生き方を変える。当然地元で知り合った娘と恋人になる。そんな手垢の付いたような物語には新鮮味はなく、予想通りに展開し予想通りの結末を迎える。主人公の周りのフランス人は皆流暢に英語を話すのもお約束。しかも舞台はワインの産地なのに、主人公はワイン音痴というチグハグさ。幻のハウスワインを巡る伝説にも踏み込みが足らず、映画の甘ったるい味わいは人口甘味料を使った安物ワインのようだ。
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怪談 - 福本次郎
◆小手先の表現術よりも、情念が怨念に変わっていく様子を細密に描く。計算されたライティングと流麗な映像は美しさと儚さが同居し、男に溺れて破滅した女の罪深い想いを表現する。それは日本古来の幽玄を追及するような趣だ。(60点)
小手先の表現術でショックを与えるよりも、情念が怨念に変わっていく様子を細密に描く。計算されたライティングと流麗なカメラワークの映像は美しさと儚さが同居し、ひとりの男に溺れて破滅した女の罪深いまでの想いを成就させる。そこにはあるのは恐怖よりも甘美な誘惑の香り、優柔不断な男が情の濃い女に絡め取られ苦悩と快楽の間で揺れ動いていく心理を、尾上菊之助が鋭利な流し目で演じている。それはホラーというよりも、むしろ日本古来の幽玄を追及するような趣だ。
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◆しなやかさはないが、重量感とメカニカルな関節の動きが再現され、ロボットたちが機械ではなく思考と精神を持った知的生命体であることを自然に納得させてくれる。しかし後半はオモチャ箱をひっくり返したような混沌におちいる。(50点)
戦闘ヘリ、自動車、ジェット戦闘機、そういった乗り物が巨大ロボットに変身する。人間のようなしなやかさはないが、重量のある質感と直線的でメカニカルな関節の動きが細密に再現され、金属細胞でできたロボットたちが機械ではなく思考と精神を持った知的生命体であることを自然に納得させてくれる。ロボットのエイリアン、しかも地球上にある機械に自由に姿を変えることができる。そのアイデアはいかにも少年が喜びそうなのだが、後半の戦闘シーンに至ってはまるでオモチャ箱をひっくり返したような混沌におちいる。
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◆長閑な農村風景の中でゆったりと流れる時間、濃密な人間関係の中で自分を見つめ直す作業と初恋。進歩や変化より過去の延長線上にある現在を大切にしながら、中学生のヒロインは少し背伸びして未来を覗き見しようとする。(40点)
長閑な農村風景の中でゆったりと流れる時間、濃密な人間関係の中で自分を見つめ直す作業と初恋。進歩や変化より、過去の延長線上にある現在を大切にしながら、中学生のヒロインは少しだけ背伸びして未来を覗き見しようとする。大人になるにはまだ心の準備ができていない、それでも大人の世界を理解し始めている。そんな少女の繊細な気持ちの変化をカメラはじっくりと見つめる。しかし、余りにも動きの少ない単調で間延びした映像の連続に、出るのはため息ばかり。もう少しドラマチックな要素をテンポよく織り込み、エピソードに緩急をつけなければ劇映画としては物足りない。
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◆生き残った者は体にケロイドの痕を残し、心に自責の念を抱き続ける。戦後13年、あえて原爆がなかったことのように口にせず、復興の夢を見ながら生きているヒロインに、自分が幸せになってはいけないという思いがのしかかる。(70点)
生き残った者は体にケロイドの痕を残し、心に自責の念を抱き続ける。戦後13年、あえて原爆がなかったことのように口にせず、復興の夢を見ながら生きている広島の人々。言葉にすると自分や自分の知り合いが後遺症で倒れるのではという不安。時としてそれは現実となる。貧しいながらも平和を取り戻した日常、それでも戦争の傷跡はいつまでも消えず、生々しい記憶に口をつぐんでしまう。さらに、命拾いした自分が幸せになってはいけないという、死んでしまったものに対する思いがのしかかる。
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◆生活臭あふれる家族との会話や微妙なバランスの上に成り立つ友達との関係、登場人物の何気ない言葉や仕種。人間の日常生活を丁寧に描くことで、河童という非日常的なものを受け入れるための舞台装置にリアリティを与えている。(40点)
生活臭あふれる家族との会話や微妙なバランスの上に成り立つ友達との関係、そういった登場人物の何気ない言葉や仕種。人間の日常生活を丁寧に描くことで、河童という非日常的なものを受け入れるための舞台装置にリアリティを与えている。ただ、どうでもいいようなエピソードまで挿入し結果的に上映時間をいたずらに長くしてしまい、映画からスピードと躍動感を奪っている。テーマを絞り込みもう少し編集することで、内容を凝縮するべきだ。
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アース - 福本次郎
◆北極から南極まで、そこに生きる動物たちの生態を総花的に見せる大パノラマは、生きることの厳しさを通して生命の美しさを訴える。しかし、テーマを強引に地球温暖化に話を持っていく姿勢には、「またか」という白々しさを感じる。(40点)
北極圏に住むホッキョクグマからツンドラ、タイガ、温帯の広葉樹林、熱帯のジャングル、アフリカのサバンナを経て南極海のザトウクジラやペンギンまで、地球の北の端から南の端までそこに生息する動物たちの生態を総花的に見せる大パノラマは、生きることの厳しさを通じて生命の美しさを訴える。しかし、テーマの絞込みが甘く、彼らの姿を通じて何を感じるかは観客の自由なのに、強引に地球温暖化に話を持っていく姿勢には、「またか」という白々しさを覚える。
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◆何の根拠もなく「自分は他のヤツらと違う」と信じていた一方で、自分が何者で何ができるのかに悩む。そんな高校生たちの物語なのだが、この少年たちはピカピカの青春とは無縁の存在。それでも確かに記憶の中の自分は美しい。(50点)
何の根拠もなく「オレは他のヤツらと違う」と思い込み、明るい将来が約束されていると信じていた。その一方で、自分が何者で何ができるのかに悩み、ちょっとしたことにも傷つく。そんな高校生たちの物語には違いないのだが、この映画に描かれている少年たちはピカピカの青春とは無縁の存在。それでも中年にさしかかった「今」から見れば、確かにあの時代は輝いていたと思える。何かひとつのことに熱くなるのはダサいという価値観が支配的だった「新人類」と呼ばれていた世代でさえ、記憶の中の自画像は美しいのだ。
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