この道は母へとつづく - 福本次郎

◆顔も覚えていない、愛された記憶もない。それでも少年の胸を突き動かす母への想い。冷めざめとした映像と氷が奏でるような音楽が主人公の心象風景となり、切ないまでの一途な感情が張り詰めた糸のような緊張感を醸し出す。(60点)

 顔も覚えていない、愛された記憶もない。それでも少年の小さな胸を突き動かす自分を捨てた母への想い。今さら会いに行っても受け入れてくれるかどうかも分からないのに、彼は母の住所だけを頼りに知らない街を歩き続ける。冷めざめとした映像と氷が奏でるような音楽、それらが主人公を取り巻く心象風景となり、切ないまでの一途な感情が張り詰めた糸のような緊張感を醸し出す。孤児院で育てられたゆえ体よりもずっと早く大人にならざるを得なかった心、6歳にしてここまで老成してしまった少年の姿が痛ましい。

この映画の批評を読む »

ノートに眠った願いごと - 福本次郎

◆幸せの絶頂期に愛するものが突然命を落とす。口にできなかった言葉、伝えたかった気持ち、そして何より受け止める相手がいないことの喪失感。映画は色づく季節を背景にミステリーの要素も加え、コクの深い味わいを見せる。(60点)

 幸せの絶頂期に愛するものが突然命を落とす、その悲しみとは関係なく世の中は勝手に動き時間は無常に過ぎる。いくら取り戻したくても、もう手が届かない。口にできなかった言葉、伝えたかった気持ち、そして何よりそれを受け止める相手がいないことの喪失感。時がたち、事故死した恋人が息絶える寸前まで自分のことを思っていてくれたことを知り、男は失った時間を取り戻す旅に出る。彼女の思い出と新しい発見、映画は色づく季節を背景にミステリーの要素も加え、コクの深い味わいを見せる。

この映画の批評を読む »

ALWAYS 続・三丁目の夕日 - 福本次郎

◆飛び立つプロペラ機、疾走する特急、高速道路に覆われていない日本橋。静止した風景だけでなく、動く物体まで細密にCGで再現した技術力には目を見張る。しかし、そこで繰り広げられる人情劇は小ネタの羅列になってしまった。(50点)

 滑走路から飛び立つ双発プロペラ機、西に向かって疾走する特急こだま、そしてまだ高速道路に覆われていない日本橋。静止した風景だけでなく、動く物体まで細密にCGで再現した映像表現の技術力には目を見張る。しかし、そこで繰り広げられる悲喜こもごも人情劇のスケッチは小ネタの羅列になってしまい、肝心となる物語の足を引っ張っている。登場人物をやたら多くしすぎた弊害か、おのおののエピソードがストーリーを構成する要素をなしていない。文学青年と恋人、孤児の3人に絞ればよいものを、焦点を拡散しすぎてだらだらとしたまとまりのない印象を受ける。

この映画の批評を読む »

レディ・チャタレー - 福本次郎

◆自分の裸を鏡に映し、女としての価値を見定めるヒロイン。下半身不随の夫とのセックスレス生活の中で抑えられた衝動と女としての悦びを取り戻していく心理が、色づく木々や緑濃い草といった森の自然を背景に細やかに描かれる。(60点)

 自分の裸を鏡に映し、女としての価値を見定めるヒロイン。森で偶然見かけた男のたくましい背中に過剰なほど胸を高鳴らせ本能に火がついてしまった彼女の行為には、まだまだ肉欲を断ち切れない女の性が色濃く反映されている。抑えられた衝動が鬱積し心を圧迫するが、それが解放されたときの生き生きとした表情。下半身不随の夫とのセックスレス生活の中で、女としての悦びを取り戻していく心理が、色づく木々や緑濃い草といった森の自然を背景に細やかに描かれる。

この映画の批評を読む »

タロットカード殺人事件 - 福本次郎

◆積極的な女と根性ナシの男。ウディ・アレン得意カップルの物語も、自らの加齢と相手女優の若返りで夫婦や恋人という関係は成り立たず、ニセ親娘。しかし、テンポの速い会話はエスプリに満ち溢れ、二転三転して飽きさせない。(70点)

 積極的な女と根性ナシの男。ウディ・アレンが得意とするカップルの物語も、自らの加齢と相手女優の若返りのおかげでもはや夫婦や恋人という関係は成り立たず、この作品では親娘。しかも祖父と孫にすら見えるほど年齢は開いている。しかし、このふたりの掛け合いのようなテンポの速い会話は相変わらずエスプリに満ち溢れ、展開は二転三転して飽きさせない。さらに死に対する独特の観点で、死者や幽霊にもまだまだ人間的な欲望が残っていることを描き、楽しませてくれる。

この映画の批評を読む »

ブレイブ ワン - 福本次郎

◆理不尽な暴力を受けたことで風景が突然変わる。他人の視線や足音に脅え、街が敵意をむき出しにしているような恐怖。ジョディ・フォスターは怒り、悲しみ、恐れ、そして復讐のかなたにある感情を神経質なまでの繊細さで演じる。(40点)

 理不尽な暴力を受けたことで風景が突然変わる。他人の視線に過剰反応し、足音に脅えてしまう。平和で安全だと信じていた街が、敵意をむき出しにしているような恐怖。心身に深い傷を負ったヒロインの思い込みであると分かっていても、その感覚は非常にリアルに伝わってくる。さらに銃を手に入れることで今度は彼女の慄きが全能感に変化し、独善が暴走する。もはや自分では制御できない心と、それを冷静に見つめ分析するもう一人の自分。ジョディ・フォスターは怒り、悲しみ、恐れ、そして復讐のかなたにある意識を神経質なまでの繊細な表情で演じる。

この映画の批評を読む »

象の背中 - 福本次郎

◆肺ガンで余命半年と宣告されながら、タバコをやめない主人公。延命治療や手術を拒んだくせに、自分で病状をさらに悪化させる。こんなアホ男に感情移入できるわけもなく、映画はさらに安っぽいセンチメンタリズムに包まれる。(20点)

 肺ガンで余命半年と宣告されながら、ためらうことなくタバコを口にくわえ火をつける主人公。そして彼の病を知っていながら注意しない家族や友人。肺ガンの原因が喫煙であることが明白なのに、どうしてタバコをやめたりやめさせたりしないのだろう。カッコつけて「死ぬまでは生きていたい」と延命治療や手術を拒んだくせに、自分の病状を自分でさらに悪化させるとは、なんという愚かさだろう。こんな男に感情移入できるわけもなく、映画はさらに安っぽいセンチメンタリズムというオブラートに包まれる。

この映画の批評を読む »

犯人に告ぐ - 福本次郎

◆警察官としての使命感より、怒りや欲望にがんじがらめに縛られ、手柄や出世・保身といった自己の利益を優先させる。殺人事件の捜査を背景に、警察官キャリア組同士の欺瞞と裏切り、そして組織の腐敗をクールな視点で描く。(80点)

 警察官としての使命感より、ドロドロとした怒りや欲望にがんじがらめに縛られる。彼らもまた人間である以上、正義という絵に描いた餅より、手柄や出世・保身といった自己の利益を優先せざるを得ない。殺人事件の捜査を背景に、警察官キャリア組同士の欺瞞と裏切り、そして組織の腐敗をクールな視点で描く。仕事中は彩度を落とし、オフのときはフルカラー、犯罪者の心理という負の感情に向き合わざるを得ない主人公の職業的宿痾を描き分けることで、彼が仕事に対して持つ義務感がより明白に浮かび上がる。

この映画の批評を読む »

スターダスト - 福本次郎

◆若者は愛と勇気を証明するために冒険の旅に出る。困難を克服し、敵を倒すのは一人前になるための通過儀礼なのだ。しかし、魔法世界の登場人物の作りこみが甘い上ご都合主義に陥ることが多く、主人公に感情移入できない。(40点)

 若者は自分の愛と勇気を証明するために冒険の旅に出る。まだ己の力の限界を知らず、その無鉄砲さゆえに予想もしない力を発揮する。たとえそこが魔法の世界であっても、恐れとは無縁に使命を果たそうとする。そしてそれは定められた運命。困難を克服し、敵を倒すのは一人前なるための通過儀礼なのだ。しかし、映画は魔法世界の登場人物の作りこみが甘い上、設定がご都合主義に陥ることが多い。結果として主人公の愛と冒険になかなか感情移入できなかった。

この映画の批評を読む »

グッド・シェパード - 福本次郎

◆欺瞞と裏切りの世界に生き、友人や同僚、果ては家族すら信じられなくなった男。そして自らもその罠に落ちる。生き残るために現実を受け入れ良心を殺していく主人公の姿を、コッポラの演出と見まがうような重厚なスタイルで描く。(80点)

 諜報という欺瞞と裏切りの世界に生き、友人や同僚、果ては家族すら信じられなくなった男。そして自らもまたその罠に落ちるという自家撞着。「真実は人を自由にする」という格言を引用しながら誰もがそんな言葉を否定する世界で、嘘という鎖で縛られがんじがらめになっていく。ニセ情報を敵に信用させるための偽装、敵もまた同じ手を使ってくる。その中で何が真実かは結局誰にも分からないというすさまじいまでに情報が混迷。生き残るためにその現実を受け入れ良心を殺していく主人公の姿を、コッポラの演出と見まがうような重厚なスタイルで描く。

この映画の批評を読む »

ヘアスプレー - 福本次郎

◆ブロンドで青い目の白人が手足をキュートに振って踊り、その一方、まだまだ黒人は2級市民として扱われている。チビでデブの白人少女がダンサーになる夢を追いかける過程を通じて、人間を見かけで判断することの無益さを訴える。(40点)

 細密に再現された60年代のファッションやダンス、そして人々の考え方。ブロンドで青い目の若い白人男女が手足をキュートに振って踊り、ヘアはばっちりと固めている。その一方、まだまだ黒人は2級市民として扱われ、同じフロアで踊ることは許されず、高校の教室も別々。舞台となったボルチモアは当時の平均的な米国の都市なのだろう。そこにも人種差別反対の波が押し寄せ、やがてその勢いは止められなくなる。明るく前向きだがチビでデブの白人少女がダンサーになる夢を追いかける過程を通じて、人間を見かけで判断することの無益さを訴える。

この映画の批評を読む »

ナルコ - 福本次郎

◆現実を認識するのが脳ならば、夢を見るのもやはり脳。突然その境界線が崩れ、意思に関係なく眠ってしまう病気を持つものならば、もはや夢と現実の区別に意味はない。むしろ主人公にとって夢の中での体験こそが真実なのだ。(50点)

 現実を認識するのが脳ならば、夢を見るのも脳。突然その境界線が崩れ、意思に関係なく眠ってしまう病気を持つものならば、もはや夢と現実の区別に意味はない。病気のせいで社会に対応できない代わりに夢の中ではスーパーヒーロー。ならば主人公が生きている実感を得るのは夢の中だけ。それでも現実世界で生きている以上、カネを稼ぎ食べなければいけない。映画は睡眠発作障害を持つ主人公を通して、夢を追うことと、その限界を問う。

この映画の批評を読む »

インベージョン - 福本次郎

◆理性だけになってしまった精神はもはや心とはいえない。エイリアンに感情を奪われた人間の行動を通じて、心の平安という状態のうそ臭さを訴える。しかし、発症者=エイリアンの取る行動は短絡的で、理性ある行動と思えない。(40点)

 身近な人から突然感情がなくなり、覚めた目で見つめられる。その無表情は周囲の人間にも伝播し、気がつくとほとんどの人が能面のような顔になっている。世界が急激に変わりつつあり、自分も飲み込まれてしまうんではないかという恐怖。理性だけになってしまった精神はもはや心とはいえない。エイリアンに感情を奪われた人間の行動を通じて、心の平安という状態のうそ臭さを訴える。しかし、その割には発症者=エイリアンの取る行動は短絡的で、理性ある行動と思えない。本当に賢い方法を考えるなら、もっと目立たないように時間をかけて感染者を増やすだろう。

この映画の批評を読む »

ヒートアイランド - 福本次郎

◆ビートの効いた映像と音楽、息もつかせぬ展開。頭脳と行動力だけで駆け巡る若者たちの息遣いと、大金を複数の非合法組織が血眼で争う様子がテンポよく描かれる。また、多岐にわたる人物描写が丁寧で、混乱せずに見ていられる。(70点)

 ビートの効いた映像と音楽、息もつかせぬ展開。頭脳と行動力だけで渋谷の街を駆け巡る若者たちの息遣いと、カネを巡る複数の非合法組織が血眼で争う様子がテンポよく描かれる。思わぬ大金を手に入れた若者グループとそれを狙う4組の大人たち。仲間しか信じられない状況でどんどん追い詰められ、最後に大芝居を打つあたりは上質のコンゲームの趣もあり、その成り行きに目が離せない。また、登場人物がこれだけ多岐にわたるのに人物描写が丁寧で、混乱せずに見ていられる。

この映画の批評を読む »

黒帯 - 福本次郎

◆緑深い山中で、水冷たい清流で、拳の修業に励む男たち。突き、蹴り、手刀、そうした攻撃力を強化するトレーニングは当然するのだが、むしろ独特の呼吸法で精神を高め型どおりに体を動かすことで心の平安を求めているようだ。(50点)

 緑深い山中で、水冷たい清流で、人里離れた道場で、ただひたすら拳の修業に励む男たち。それは決して他人を傷つけるためではなく、自己を高めるための鍛錬。突き、蹴り、手刀、そうした攻撃力を強化するトレーニングは当然するのだが、むしろ独特の呼吸法で精神を高め、型どおりに体を動かすことでヨガのような心の平安を求めているようだ。「空手に先手なし」という師範の教えを守る主人公の生き方は、そのままこの格闘技が目指す平和の思想を表している。

この映画の批評を読む »

【おすすめサイト】