マイティ・ハート/愛と絆 - 福本次郎

◆クラクション、渋滞、あふれんばかりの人。微妙にぶれるカメラは、苛立ちと未知なる物への不安を強調し、人質となったジャーナリストの境遇を代弁する。そしていつしか観客も不安定な足元を揺さぶられるような気持ちになっていく。(50点)

 ひっきりなしに鳴らされるクラクション、渋滞、道路からあふれんばかりの人。微妙にぶれるカメラは、思い通りに行かないイライラと未知なる物への不安を強調し、テロリストの人質となったジャーナリストのおかれた境遇を代弁しているのだろう。いつ殺されるか分からないが、もしかしたら無傷で解放されるかもしれない。いつしか観客も不安定な足元を揺さぶられるような気持ちになっていく。それは人質の妻が味わう心労と疑心暗鬼に共通し、映画は最後まで緊迫感を失わない。

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ファンタスティック!チェコアニメ映画祭 - 福本次郎

◆手作りのアニメは素朴な味わいがあるが、CGによって表現技術は比較にならないほど進歩した。しかし、自由が制限されていた時代に作られたからこそ、映像の裏にあるメッセージを読み取るクリエイティブな楽しみが残されている。(50点)

 60年代から80年代にかけて、チェコがまだ自由を手にしていなかったころに作られた短編アニメの数々。共産党の支配下にあった時代に作られたもの、プラハの春を謳歌していたころに作られたもの、その反動の抑圧的な時代に作られたもの、共産党の箍が緩み始め再び自由の息吹の萌芽を感じさせるもの、それぞれの製作年度とチェコの政治史を踏まえながら見ると、その作品を作ったクリエーターたちの意図が見えてくる。もちろん、彼らの中にも体制派・反体制派が混在していただろう。しかし、自分のアイデアを描いても検閲のあった時代、彼らが政治の介入をかわしながら表現の自由を守ろうとしたことを信じたい。

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ウェイトレス ?おいしい人生のつくりかた - 福本次郎

◆鮮やかな色彩のパイの数々はヒロインの夢。男の言いなりに生きていくしかない女が、ちょっとしたきっかけで変わっていく。女の自立という古くさいテーマを扱いながらも、妊娠中のセックスという新たな要素が映画に彩を添える。(50点)

 鮮やかな色彩のパイの数々はヒロインの夢、いつかきっと自分の人生をつかみ取ろうという決意だ。彼女は仕事場では口うるさい雇用主、家に帰れば独占欲の強い夫にいつも従順であることを求められる。女の地位が向上したと思っていても、まだまだ保守的な地域では専門的な教育を受けていないと男の言いなりになって生きていくしか道はないが、ちょっとしたきっかけさえあれば変わることができる。女の自立という古くさいテーマを扱いながらも、妊娠中のセックスという新たな要素が映画に彩を添える。

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モーテル - 福本次郎

◆手の込んだタイトルロールはヒッチコック風のミステリーを連想させる。しかし、驚かせることが目的の下劣な演出と効果音が足を引っ張り、登場人物の恐怖ばかりが増幅される。サバイバルのための知恵がほとんどなく先が読める。(30点)

 手の込んだタイトルロールはヒッチコック風のミステリーを連想させ、街灯ひとつない山道をひた走る自動車は震え上がるようなサスペンスを予感させる。しかし、怖がらせるというより驚かせることが目的のような下劣な演出と効果音が足を引っ張り、登場人物が感じる恐怖ばかりが増幅されサバイバルのための知恵や勇気がほとんど描かれていない。もう少し伏線を張るとか罠にかけるとかという工夫が欲しかった。結果として山場に乏しく途中からオチが見えてしまう。まあ、殺したはずの悪党がいきなり蘇ったり、続編を期待させるようなベタなドンデン返しがなかっただけマシだが。

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フライボーイズ - 福本次郎

◆大空への憧れが若者を駆り立て、まるでスリルを楽しむかのように飛び立っていく。そこに悲壮感はなく英雄となることを信じているかのよう。国のため、大儀のために命がけで戦うことに意義が見出せた時代の雰囲気がよく出ている。(50点)

 大空への憧れと自由に飛翔する喜びが若者を駆り立て、まるでスリルを楽しむかのように飛び立っていく。そこに悲壮感はなく、たとえ戦死しても英雄として人々の記憶に残ることを信じている。戦争とそれに参加した主人公を描いているのに、殺し合いの無益さや悲惨さ、たとえ生き残っても心に傷を負うなどという反戦の意識は微塵もないところがかえって潔い。国のため、大儀のために命がけで戦うことに意義が見出せた時代の雰囲気がよく出ている。

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カルラのリスト - 福本次郎

◆鋭い眼光は妥協のない意思、スイス・ハーグ・ユーゴを飛び回る旺盛な行動力と粘り強い交渉術で戦争犯罪者を追い詰めていく。国境を越えた権限を持ち、国際刑事法廷に引きずり出そうとする1人の女性国連検察官の仕事に迫る。(50点)

 鋭い眼光は妥協のない意思、スイス・ハーグ・ユーゴを飛び回る旺盛な行動力と粘り強い交渉術で戦争犯罪者を追い詰めていく。国境を越えた権限で根気強くあぶり出し、国際刑事法廷に引きずり出す。ひとりの女性国連検察官の仕事姿を通じて、旧ユーゴで起きた大虐殺の真実に迫ろうとする。24時間の警備体制、各国首脳との駆け引き、そして国連での演説。彼女の精力的な活動を追い、最高機密に属するような情報を扱う人々の姿をとらえるが、そこに描かれているのはあくまで表の顔。もう少し泥臭いところを見せてくれなければ、広報フィルムの域を出ない。

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4分間のピアニスト - 福本次郎

◆自分を取り巻くすべてのものに対して敵意をむき出しにして生きてきたヒロインが、その感情のすべてをピアノに叩きつける。ほとばしる激情と悲しみに満ちた美しさが同居する破壊的かつ爆発的な演奏に、しばらくは言葉を失った。(90点)

 憤怒、憎悪、不満、自分を取り巻くすべてのものに対して敵意をむき出しにして生きてきたヒロインが、その感情のすべてをピアノに叩きつける。鍵盤だけでなく弦を爪弾きカバーでリズムを取り、椅子を蹴り飛ばしステップを踏む。そこから生み出される音楽はクラシックや前衛といったジャンルを超越した魂の叫び。ほとばしるような激情と悲しみに満ちた美しさが同居する破壊的かつ爆発的な演奏だ。そして最後に彼女を受け止めてくれた老女に対する感謝の気持ち。傷ついた心と心がぶつかり合った末に生まれた至高の芸術に、しばらくは言葉を失った。

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ゾンビ3D - 福本次郎

◆血しぶきや脳漿がスクリーンを飛び出して観客の顔に降りかかる、はずだった。しかし、動きののろいゾンビがのそのそと体を揺らしながら歩いてきて人間に襲い掛かるという、3Dにすることがほとんど意味がないシーンばかりだ。(30点)

 血しぶきや脳漿がスクリーンを飛び出して観客の顔に降りかかる、はずだった。しかし、動きののろいゾンビがのそのそと体を揺らしながら歩いてきて人間に襲い掛かるという、3Dにすることがほとんど意味がないようなシーンばかりで、ゾンビに立体感を持たせることの効果があらわれていない。映画は通常のゾンビものとなんら変わることなく、追い詰められた人間のエゴやゾンビを生んだ男の恐るべき素顔などもほとんど描かれていない退屈な展開となってしまった。

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ボーン・アルティメイタム - 福本次郎

◆手持ちカメラの圧倒的な臨場感と短いカットをつなぎ合わせる張り詰めた緊張感。追う者と追われる者、その立場はめまぐるしく転変し、時にぶれ時に横に流れるカメラワークは命がけのゲームに身を置くかのようなリアリティだ。(80点)

 手持ちカメラがもたらす圧倒的な臨場感と短いカットをつなぎ合わせる張り詰めた緊張感。追う者と追われる者、その立場はめまぐるしく転変し、時にぶれ時に横に流れるカメラワークは命がけのゲームに身を置いているかのようなリアリティ。一瞬たりともスクリーンから目を離せない映像をたたみかめるように展開させる手法は息が詰まりそうになる。殺人マシーンとして人間の心を封印した男が、記憶喪失になることで再び人間の心を取り戻す。強靭な肉体と的確な判断力を備えた主人公が、愛や憎悪そして後悔に胸を痛める姿が切なさを誘う。

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転々 - 福本次郎

◆父親に見捨てられた若者と子供を持てなかった男。奇妙な縁で結ばれた2人が、失われた記憶を取り戻すかのようにひたすら歩き続ける。しかし、物語の展開も散歩のペースのようにダラダラし、家族のあり方を問う終盤までは退屈だ。(50点)

 父親に見捨てられた若者と子供を持てなかった男。奇妙な縁で結ばれた2人が、失われた家族の記憶を取り戻すかのようにひたすら歩き続ける。武蔵野から新宿、浅草を巡り、最後には霞ヶ関に至る旅。いつしか2人の間には友情が生まれ、さらに親子のフリをするうちに本当の親子のような感情が芽生え始める。行き場を失った男同士が失われた人生の断片を捜し求めるうちに手に入れた団欒。それが擬似家族であると分かっていても、役割を演じるうちにその気になっていく過程が温かくも切ない。

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いのちの食べかた - 福本次郎

◆徹底した管理・効率化で工業製品のように規格どおりの作物を生産する農業の現場。空調のうなりと器具の騒音以外は何も聞こえない。そこには大地や太陽の恵みに感謝する収穫の喜びといった人間の感情が介在する余地は一切ない。(60点)

 徹底した管理・効率化で、まるで工業製品のように規格どおりの作物を生産する農業の現場。空調のうなりと器具の騒音以外は何も聞こえない。そこには大地や太陽の恵みに感謝する収穫の喜びといった人間の感情が介在する余地は一切なく、ただ良質の製品を大量に生産することだけが目的。その背景には、安全でおいしいものを追い求める消費者の欲求と市場経済原理が冷徹に働き、食料を供給する側に天候に左右されない収穫を追求させた結果なのだ。

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ONCE ダブリンの街角で - 福本次郎

◆男は元恋人への未練を断ち切れず、女は故郷の夫との関係を見直そうとしている。全編手持ちカメラでほとんどがロケという低予算映画ながら、温かい人間の感情を余すところなくとらえる演出は見事。感傷的な音楽も耳に心地よい。(80点)

 街角の小さな出会いが大きな希望を育てる。うだつの上がらないストリートミュージシャンとチェコから来た出稼ぎ労働者。カネはなくても語るべき夢があり、訴えたい愛がある。男は突然消えてしまった恋人への想いを断ち切れず、女は故郷に置いてきた夫との関係を見直そうとしている。そんなふたりが歌を媒介して心を通わせ、つかの間同じ目標を追う。全編手持ちカメラで撮影されほとんどがロケという低予算映画でありながら、温かい人間の感情を余すところなくとらえる演出は見事。感傷的な音楽も耳に心地よい。

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やじきた道中 てれすこ - 福本次郎

◆ベテラン俳優陣による熟練した演技、落ちついた演出、そしてテンポのよい笑いとほろりとさせる人情の機微が細部にまでよく練られた脚本。しっかりとツボを心得た仕事をし、軽妙な語り口の中に涙を誘う手管は映画の職人芸だ。(70点)

 ベテラン俳優陣による熟練した演技、腰の据わった落ちついた演出、そしてテンポのよい笑いとほろりとさせる人情の機微が細部にまでよく練られた脚本。キャストもスタッフもしっかりとツボを心得た仕事をし、軽妙な語り口の中に涙を誘う手管はまさに映画の職人芸だ。ひとつ間違えると大仰なドタバタ喜劇になりかねない古典落語のネタが絶妙のさじ加減で料理され、安心して映画に身を浸していられる。

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バイオハザードIII - 福本次郎

◆地上はゾンビに支配され、ひとり悪と闘い続けるヒロイン。表現はよりクールに洗練され、ゾンビはより醜く不快になる。知恵を絞って斬新な映像を見せようとする作り手の熱意は伝わってくるが、B級ホラーの範疇を出ていない。(40点)

 荒涼とした砂漠の風景と人工的な地下実験施設。地上はゾンビに支配され、人間は彼らを避けて放浪するか地下にもぐるしかない。さらにゾンビの死肉を食べたカラスにも襲われる。もはや生き残った人類に希望はわずか、そんな中でひとり悪と闘い続けるヒロイン。表現はよりクールに洗練され、ゾンビはより醜く不快になる。そしてサウンドでおどろかせるというお決まりのパターンも踏襲される。しかし、知恵を絞って斬新な映像を見せようとする作り手の熱意は伝わってくるが、所詮はB級ホラーの範疇を出ていない。

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鳳凰 わが愛 - 福本次郎

◆妻を失った男と夫を殺した女。服役中の刑務所で運命的に出会ったふたりが、30年にもわたる獄中生活で愛を育てていく。それは絶望の中で生きる囚人が描く幻影なのだが、主人公の身辺が囚人の生活同様単調で見せ場に乏しい。(40点)

 妻を失った男と夫を殺した女。服役中の刑務所で運命的に出会ったふたりが、30年にもわたる獄中生活で愛を育てていく。それは絶望の中で生きる囚人が描く幻影に過ぎないはずなのだが、お互いの強烈な思いがたった一度だけの奇跡を起こす。恐ろしくなるほど長い歳月の間に外界は激変するが、刑務所内の環境は刑務官と娯楽が変わる程度。主人公の身辺にもう少し何か刺激的なエピソードを挿入していかないと、囚人の生活同様、単調な映画になってしまう。

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