サラエボの花 - 福本次郎

◆戦争が残した爪跡は、時と共に癒されるのではなく傷口がっていく。真実を隠せば生きている限り続く苦悩と、真実を明せばまた新しい悲劇が始まるかもしれないという恐れ。映画は死で終わる悲しみより誕生で始まる苦しみを描く。(70点)

 戦争が残した爪跡は、時と共に癒されるのではなく傷口が広がるように大きくなっていく。しかしそれは一方で自分が愛してやまないものでもある。娘の成長を見るにつけ、母親の恐怖と憎悪がよみがえる。それでも娘に人並みの暮らしをさせようと無理をする母親。真実を隠せば生きている限り続く苦悩と、真実を明せばまた新しい悲劇が始まるかもしれないという恐れ。母と娘、一人で抱え込むにはつらすぎるが、ふたりならば何とか乗り越えられていく。映画は内戦の地獄から平和を取り戻したサラエボを舞台に、死で終わる悲しみではなく誕生で始まる苦しみを描く。

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マリと子犬の物語 - 福本次郎

◆豊かな自然と美しい棚田、仲のいい兄妹、声を掛け合う隣人、余情的だが説明的な音楽、不必要な冒険と一途な犬の視線、そして予定調和的なハッピーエンド。あらゆるシーンが装飾された演出は、涙を誘おうという意図が過剰だ。(40点)

 豊かな自然と美しい棚田、仲のいい兄妹、声を掛け合う隣人、余情的だが説明的な音楽、不必要な冒険と一途な犬の視線、そして予定調和的なハッピーエンド。あらゆる事象が過剰に装飾され、かゆいところにまで手が届くような演出は、涙を誘おうという意図がミエミエだ。小学生くらいの感受性ならば素直に受け入れられるだろうが、作りこまれた感動の押し売りには辟易する。俳優、特に子役の演技もいかにもテレビ的で視聴者の注意を引くには有効だが、映画の観客には蛇足以外の何物でもない。

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エンジェル - 福本次郎

◆想像力が作り上げた世界は美しく彩られた愛の言葉に満ち、イメージは永遠に色褪せない。現実では人の気持ちは変わり愛も移ろう。若くして作家として成功した女性が小説世界を実生活に持ち込もうし、落差に苦しむ姿がリアルだ。(60点)

 ヒロインの想像力が作り上げた世界は美しく彩られた愛の言葉に満ち、そのイメージは永遠に色褪せない。現実の生活においては人の気持ちは変わり愛も移ろう。少女のころ夢にまで見た豪邸で召使にかしづかれる生活、ハンサムなアーティストの夫、若くして作家として成功した女性が自ら創作した小説世界を実生活に持ち込もうとするが、物語の登場人物のようには幸せになれない。作品の書き換えを一切拒むプライドが、現実は小説のように自分でコントロールできないことに苦しむ姿をより一層際立たせる。

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PEACE BED アメリカVSジョン・レノン - 福本次郎

◆反体制パフォーマンスなのか信念なのか。ロックを超えて左翼的思想を固め、国家という巨大な敵にも一歩も引かない。膨大な映像資料と関係者へのインタビュー、そして名曲の数々がジョン・レノンの戦いの軌跡を饒舌に語る。(60点)

 反体制を気取るパフォーマンスなのか考え抜かれた信念なのか。戦争反対のメッセージを歌に込め、米国政府に危険視されたジョン・レノン。斬新な音楽と過激な発言で注目を集めていた若者が、ひとりのアーティストと知り合い刺激されより過激になる。さらにロックを超えて左翼的思想を固め、国家という巨大な敵と伍しても一歩も引かない。彼の大いなる影響力は世論を動かし、やがて世界的なムーブメントとなる。膨大な映像資料と関係者へのインタビュー、そして名曲の数々がレノンの戦いの軌跡を饒舌に語る。

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やわらかい手 - 福本次郎

◆狭い世界から一歩踏み出すことで発見する新たな自分自身と他人への理解。中年女性のささやかな勇気が生み出す波紋が、乾いた人間同士の絆と信頼を回復させていく。寒々としたタッチの中で繊細な感情を描きあげた演出は見事だ。(80点)

 孤独を癒すのは秘密。それはふたりだけが共有する甘い蜜の味。未亡人ながら一応息子夫婦が近くに住み、友人も近所にいるが、本当に心を開いて話せる相手はいない。そんな寂しさを抱えたオバサンが難病に苦しむ孫のために一肌脱ぐ。狭い世界から一歩踏み出すことで発見する新たな自分自身と他人への理解。ひとりの中年女性のささやかな勇気が生み出す波紋が、乾いた人間同士の絆と信頼を回復させていく。重苦しく寒々としたタッチの中で登場人物の繊細な感情を描きあげた演出は見事だ。

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アヴリルの恋 - 福本次郎

◆女だけの世界に育ち、心を寄せるのは神のみ。下界でのヒロインは異性に戸惑いためらいながら、自分を解放していく。それは己の頭で考え行動するという自立への道。信仰の道をしばし離れ、おおらかにさらされた裸体がまぶしい。(50点)

 女だけの世界に育ち、心を寄せるのは神のみ。日々の奉仕と祈り、そしてわずかな休みにはスケッチに励む。そんな世俗から切り離された人生を送ってきたヒロインがつかの間の休暇に外の世界を知る。彼女にとっての下界とは男とのコミュニケーション。初めての異性に戸惑いためらいながら、自分を解放していく。それは己の頭で考え行動するという自立への道。信仰の道をしばし離れ、おおらかにさらされた裸体がまぶしい。

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椿三十郎 - 福本次郎

◆古典的名作を同じ脚本でリメイクすることの難しさ。顔が小さい現代の俳優からは荒々しさや狂気が消え、ほとばしるような迫力に乏しい。何より織田裕二には三船敏郎のような「鞘に納まりきれないギラギラした刀」の感じがない。(50点)

 完成度の高い古典的名作を同じ脚本でリメイクすることの難しさ。ストーリーもキャラクター設定も変更せず、モノクロをカラーにするだけだ。まったくそっくりに作り多少の物足りなさはあっても、面白いのはそれだけ元が優れていたということだ。しかし、主人公とライバルに扮する顔が小さい現代の俳優からは荒々しさや狂気が消え、ほとばしるような迫力に乏しい。何より織田裕二に「鞘に納まりきれないギラギラした刀」の感じがないのが残念だ。このあたり圧倒的な三船敏郎との「格」の差を感じずにはいられない。

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ベオウルフ/呪われし勇者 - 福本次郎

◆変幻自在のカメラワークはめくるめく躍動感、デフォルメされた矛や矢は登場人物の心理を象徴する。しかし、デジタル合成の映像は俳優に似せた薄っぺらな絵のような不自然さだけが目立ち、物語の興味を殺いでしまっている。(40点)

 変幻自在のカメラワークはめくるめく躍動感を与え、デフォルメされた矛や矢などのディテールが登場人物の心理を強調する。しかし、この作品はあくまで映画であってコンピューターゲームではない。せっかく人間が演じているのに、それをデジタルで再合成する意義がどこにあるのだろうか。有名俳優に似せただけの薄っぺらな絵のような不自然さが目立ち、物語の興味を殺いでしまっている。本来なら3Dで見てその立体感を楽しむべきなのだろう、ならばその設備のない映画館で上映するのは間違っているのではないだろうか。

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ここに幸あり - 福本次郎

◆説明的なセリフやシーン、そして感情を強調する音楽もない。映画は環境が激変した男の体験をスクリーンに投げ出すだけだ。その語り口に戸惑うが、やがて柔らかいベッドに横になっているような心地よい陶酔に昇華されていく。(60点)

 説明的なセリフやシーン、そして感情を強調する音楽もない。映画は環境が180度変わった男が体験するエピソードをスクリーンにただ投げ出すだけだ。登場人物の背景や彼を取り巻くシチュエーションはその映像から推測するしかない。しかし、ゆったりと流れていく時間の中で主人公の友人の多さが彼の人柄を物語っていく。そしてなぜこれほどまでの多くの知己を得たかを想像することで、彼の人生が浮き彫りになる。その語り口に前半は戸惑うが、やがて柔らかいベッドに横になっているような心地よい陶酔に昇華されていく。

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マリア - 福本次郎

◆奥ゆかしい瞳は希望を宿し、微笑む口元は慈愛をたたえる。神に選ばれし運命を受け入れたヒロインを通じて、愛とは、信仰とは何かを問う。しかし、まるでフレスコ画に描かれた聖母のようで、理想の人物像の範疇を出ていない。(50点)

 その奥ゆかしい瞳は苦難に打ち勝つ希望を宿し、微笑む口元には限りない慈愛をたたえる。神に選ばれし運命を受け入れたヒロインの逃避行を通じて、愛とは、信仰とは何かを問う。迷いや疑いを一切捨て、ただ神の言葉と夫の愛を信じて行動する。キリストが記述の中心である聖書を元に、彼の母親はどのような人間であったかをディテール豊かに描く。しかし、資料が少ない人物だけにもう少し大胆にイメージを膨らませてもよかったのではないか。これではまるでフレスコ画に描かれた聖母そのもので、理想の人物像の範疇を出ていない。

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ダーウィン・アワード - 福本次郎

◆「死に方」はその人間の生き方を濃密に反映する。プロファイリングの専門家が事件現場を検証し、死んだ本人にしか分からない、いや、本人にも分からなかった真実をあぶりだす。悲劇的な死すら本人の真剣な想いが伝わってくる。(60点)

 死に方、というのはその人間の生き方を濃密に反映する。アホな人間は、その愚かな生き方をまっとうするかのように、他人が見たら笑うようなシチュエーションで命を落とす。そのマヌケな最期の瞬間の気持を理解してくれる他人がいてこそ彼らの死も報われる。プロファイリングの専門家が彼らが息絶えた現場を検証することで、死んだ本人にしか分からなかった、いや、本人にも分からなかった真実をあぶりだす。そうすることで悲劇的な死すら、本人の真剣な想いが伝わってくるのだ。

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ナンバー23 - 福本次郎

◆無名の小説が自分の人生にそっくりだとしたら、その本との出合い自体を運命と感じる。正気と狂気の間で事実の糸を紡いでいくうちに、恐るべき真実に行き当たる。しかし、謎解きの鍵が失われた記憶というオチはあまりにも陳腐だ。(30点)

 偶然なのか必然なのか。古本屋で見つけた無名の小説に書かれていることが自分の人生にそっくりだとしたら、その本との出合い自体を運命と感じてしまう。そして突然身の回りに出現する数字。正気と狂気の間で事実の細い糸を紡いでいくうちに、改ざんされた過去と恐るべき真実に行き当たる。しかし、謎解きの鍵が失われた記憶にあったなどという安易なオチはあまりにも陳腐で辟易する。主人公の感じる違和感を共有する観客にとって、これほどしらける結末はない。

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君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 - 福本次郎

◆夢や希望、自由に生きたいという願いさえ戦車に踏み潰される。1956年のハンガリー、ソ連の衛星国家に組み込まれた怒りとロシア人への敵意、そして銃を取って立ち上がることが若者の特権だった時代が青春の輝きのように蘇る。(70点)

 夢や希望、そして何より人間らしく生きたいという自然な願いさえ戦車で踏み潰されてしまう。生き残った者には敗北の無力感しか残らず、わずかに現場にいなかったものだけが闘い続ける意思を固める。1956年のハンガリー、ソ連の衛星国家として東側に組み込まれた国民の怒りとロシア人への敵意、そして銃を取って立ち上がることが若者の特権だった時代が青春の輝きのように蘇る。この映画を通じて伝わってくる、自分たちの手で新しい社会を作っていこうという情熱が今も衰えていないハンガリーという国がうらやましい。

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ミッドナイト イーグル - 福本次郎

◆峻険な雪山、北の工作員、米軍ステルス機、自衛隊精鋭部隊、そして核弾頭。しかし描かれる物語リアリティに乏しく、アイデアも未熟。その不足を補うようにお涙頂戴的なシーンでお茶を濁す。何より主人公の造形が薄っぺらだ。(40点)

 峻険な雪山、北の工作員、米軍ステルス機、自衛隊精鋭部隊、そして核弾頭。ハリウッド映画並みのスケールの山岳アクションと国家レベルの陰謀は日本映画の規格を大きくはみ出している。しかしそこで描かれる物語はリアリティに乏しく、アイデアも未熟。その不足を補うようにお涙頂戴的な湿っぽいシーンでお茶を濁す。何より主人公の造形が薄っぺらで、とても日本の危機を救うようには見えない。

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肩ごしの恋人 - 福本次郎

◆自分ではまだ若いと思っているのにいつの間にか周りは年下ばかりになってしまたという、勘違いした30女のイタイ現実。彼女たちの日常はどこまでも軽く、薄い。まるで90年代日本製トレンディドラマのできの悪い韓国版という趣だ。(30点)

 本気で愛しているわけでもなく、真剣に何かに打ち込んでいるわけでもない。自分ではまだ若いと思っているのにいつの間にか周りは年下ばかりになってしまたという、勘違いした女のイタイ現実。彼女たちの日常はどこまでも軽く、薄い。まるで90年代日本製トレンディドラマのできの悪い韓国版というような趣だ。いつまでもきれいでいたい、ずっと恋をしていたいという女心は理解できる。だが、人生において恋愛はその一部であることをもっと早く気付くべき。大人になりきれない30女は韓国にも増殖中なのだろうか。

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