君のためなら千回でも - 福本次郎

兄弟同然の2人がなぜ激動の波に飲まれていったか。理性では割り切れない微妙な感情の動きを丁寧に掬い上げてエピソードを積み重ね、大人の事情を理解し始めた年頃の少年の、硬いが傷つきやすい繊細な心を見事に再現する。(60点)

 名誉を守るためには命を惜しまない気位の高さ、子供の持つ無邪気さと残酷さ、社会的身分の差。ひとりのアフガニスタン人が体験する数奇な半生を、ソ連の侵攻からタリバン支配までの時代を背景に描く。その根底にあるのは少年時代の友人への思いと後悔。兄弟同然に育った2人がなぜ離れ離れになり、激動の波に飲まれていったか。理性では割り切れない微妙な感情の動きを丁寧に掬い上げてエピソードを積み重ねる手法で、大人の事情を理解し始めた年頃の、硬いけれど傷つきやすい繊細な心を見事に再現する。

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潜水服は蝶の夢を見る - 福本次郎

絶望から再生、そして希望、視覚と聴覚以外の肉体的機能をなくした男が現実に向き合い、生きた証を残そうとする。その気の遠くなるような作業を通じて、人間とは思考ゆえ存在するというデカルトの命題を解説しているようだ。(70点)

 眠りから醒めると、見覚えのない部屋で見知らぬ人々に囲まれている。話し声は聞こえるのに自分の言葉は声にならない。やがてそこが病院のベッドで、視覚と聴覚以外はすべて奪われていることに気付く。カメラはそんな状況に陥った主人公の目と耳になり、彼の感覚と脳裏をスクリーンに再現する。絶望から再生、そして希望、肉体の機能をほとんどなくした男が現実に向き合い、自らの生きた証を残そうとする。その気の遠くなるような作業を通じて、人間とは思考ゆえ存在するというデカルトの命題を解説しているようだ。

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チーム・バチスタの栄光 - 福本次郎

胸を開いて心臓を止め心筋の一部を切り取り、縫合し再び血液を流して鼓動の再開を待つ。一連の心臓手術にリアリティを持たせることで緊張感を倍加させる演出はシャープ。しかし、厚労省の役人登場で映画は安易な方向に流れる。(40点)

 メスで皮膚を切り、胸を開いて心臓を止め、心筋の一部を切り取る。そして縫合し、再び血液を流して鼓動が再開するのを待つ。一連の心臓手術の様子が克明に描かれるが、ひとつ間違えれば患者が命を落としかねないにも関わらず、静かに進んでいく。医者たちはみな冷静に自分の担当をこなしていく。あえてドラマティックにせず、その行程にリアリティを持たせることで緊張感を倍加させる演出はシャープだ。しかし、厚労省の役人が登場した瞬間そのテンションは途切れ、映画は安易な方向に流れていく。

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アドリブ・ナイト - 福本次郎

誰もが他人には関心を示さない、大都会の孤独。自分を必要としてくれる人間は体目当ての男だけ。断ち切れない地縁血縁の濃いつながりと、そこから逃げ出してしまった後悔。そんなヒロインの気持を繊細なタッチで描写する。(70点)

 誰もが他人には関心を示さない、大都会の孤独。こんなに大勢が広場を交差するのに、自分を必要としてくれる人間は体目当ての男だけ。ひとり暮らしに憧れてソウルに出てきたのに、華やかな生活とは程遠い現実。そんな若い女の心に強引に入り込む田舎から来た男たち。いまだに大家族主義の残る地方を舞台に、人間同士のふれあいを通じて女は優しい気持を取り戻す。逃げ出したくても逃げ出せない地縁血縁の濃いつながりと、そこから逃げ出してしまった後悔。そんなヒロインの気持を繊細なタッチで描写する。

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歓喜の歌 - 福本次郎

勤務時間の終わりを待つだけの主人公が、精いっぱい働きながら歌うことに情熱を傾ける女性たちの姿に自らの姿を省み、いつしか自分も夢中になっているという過程を通じて「がんばる」ことに年齢は関係ないことを教えてくれる。(60点)

 一生懸命に打ち込めるものがあってこその人生。定食屋、ウエイトレス、スーパーの売り子、ボランティア等、コーラスの女性たちの日常を肌理細かに描くことで、小さな楽しみを持つことがいかに生活にハリを与えるものであるかを描く。やる気もなく勤務時間の終わりを待つだけの主人公が、精いっぱい働きながらそれでも時間を捻出して歌うことに情熱を傾ける彼女たちの姿に打たれ自らの姿を省み、いつしか自分も夢中になっているという過程を通じ、「がんばる」ことに年齢は関係ないということを教えてくれる。

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ラスト、コーション - 福本次郎

肉体を貪りあい悦楽に身をゆだねている刹那でさえその瞳は遠くを見て、精神は醒めている。反体制派を取り締まる男と、彼をスパイする女。映画はふたりの関係を通じて、セックスは嘘で固めた人生を救うことができるかを問う。(70点)

 男はその血なまぐさい日常と命を狙われているという緊張感を、女はいつ正体がばれるかという怯えを、胸の奥深くに抑え込んでいる。他人の前では平静を装っているが、彼らの心はプレッシャーに苛まれ崩壊寸前、ただ快感が唯一の小休止だ。しかし、お互いの肉体を貪りあい悦楽に身をゆだねている刹那でさえその瞳は遠くを見て、精神は醒めている。反体制派を取り締まる男と、彼をスパイする女。映画はふたりの関係を通じて、セックスは嘘で固めた人生を救うことができるかを問う。

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結婚しようよ - 福本次郎

一家そろっての夕食がルールの家庭。もはや現代の日本からは消え去った家族の風景。しかし、やがて親離れのときが来て娘たちは夕食を欠席する。娘たちが旅立ちの季節を迎えたとき父はどうするか。その葛藤をコミカルに描く。(40点)

 一家そろって夕食を食べるという習慣を固持する家庭。娘ふたりはすでに大学生なのに、父親が決めたルールに反発もせず夕方になると家に帰ってくる。そして食卓を囲んでその日の出来事を報告しあう。もはや現代の日本からは消え去った家族の風景。しかし、やがて親離れのときが来て、娘たちは夕食の席から姿を消す。吉田拓郎のフォークソングをふんだんに使い、オヤジ世代のノスタルジーに浸るのかと思えば、娘世代の恋や夢も饒舌に語る。まだまだ子供と思っていた娘たちが旅立ちの季節を迎えたとき、父はどうするか。その葛藤をコミカルに描いている。

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アメリカン・ギャングスター - 福本次郎

新しい流通システムを麻薬密売に持ち込んだギャング。賄賂を受け取らず組織からはみ出してしまった刑事。犯罪者と警察官という正反対の立場の人間をあらゆる点で対立項にし、運命が交差するまでをリアリティたっぷりの映像で描く。(70点)

 仲買人を通さず、直接製造者から買い取って消費者に売るという、ユニクロのようなシステムを麻薬密売組織に持ち込んだギャング。正義感ゆえに賄賂を受け取らず警察組織からはみ出してしまった刑事。犯罪者と警察官という正反対の人間をあらゆる点で対立項にし、人生が交差するまでをリアリティたっぷりの映像で描く。2人とも仕事に関しては非常に勤勉で、結局似たもの同士、立場の違いがなければ親友になれたかも知れないと思わせる骨太の切り口が古典的でかえって新鮮だ。

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ウォーター・ホース - 福本次郎

孤独な少年とおびえきった希少動物が心を通わし、小さな冒険を続けるうちに奇跡を起こすストーリーと、物分りの悪い大人と彼らの協力者、そして愛情だけは強い母親というキャラクターの設定は通俗的で、あくまで子供向けだ。(40点)

 緑と水が豊かで人々の心も素朴なスコットランド。その風景は伝説や神話の物語が本当に起きた事のように思わせる不思議な説得力がある。孤独な少年とおびえきった希少動物が交流し、大人の目を逃れて小さな冒険を続けるうちに奇跡を起こすのは「E.T.」そのもので、彼らは空を飛ぶ代わりに湖水に潜る。しかし、キャラクターの設定は物分りの悪い大人と彼らの協力者、愛情だけは強い母親というように通俗的で、あくまで子供向け。大人が見るには物足りない。

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全然大丈夫 - 福本次郎

ゆったりと時間が過ぎていくようなゆる?い日常。漫然とした日々のなかでも、友情だけは大切にしていきたい。そんついかまってあげたくなるような不器用な登場人物を温かく見守るカメラの優しさが穏やかな気持にさせてくれる。(60点)

 ゆったりと時間が過ぎていくようなゆる?い日常。夢に向かって奮闘しているわけでもない主人公の身の回りに大きな事件は起きず、時折小さなさざ波が起こるだけ。楽しいわけでもつらいわけでもないが、生きていかなければならない。漫然とした日々のなかでも、人と人とのつながりだけは大切にしていきたい。そんな、ついかまってあげたくなるような不器用な登場人物を温かく見守るカメラの優しさが、穏やかな気持にさせてくれる。

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マリア・カラス 最後の恋 - 福本次郎

歌声だけでなく人生そのものが伝説とったヒロインと世界屈指の富豪の出会いから破局まで、全世界が注目した愛を克明に追う。しかし、事実にフィクションを配合したようなエピソードを時系列に沿って並べただけでヤマ場に乏しい。(40点)

 愛に生き、歌に生きる、トスカの歌のような情熱的な生き方をしたからこそ、その歌声だけでなく人生そのものが伝説となり人々に愛されたヒロイン。無一文から這い上がり世界屈指の富豪となった後にも、欲しいものは必ず手に入れなければ気がすまない男。強引なふたりの出会いから蜜のような甘い日々、そして男の心変りと決定的な破局まで、全世界が注目した愛の行方を克明に追う。しかし、事実にフィクションを適当に配合したようなエピソードを時系列に沿って並べただけのヤマ場のない展開には演出上の工夫に乏しく、登場人物に共感したり感情移入する余地がない。

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母べえ - 福本次郎

時代の波に呑み込まれ、戦争のうねりに翻弄された家族。悪化する情勢の中、両親と2人の娘、その家庭に出入りする大人たちとの日常を丹念に拾い上げることで、ささやかな生活の中に人生の真実がたたずんでいるということを描く。(50点)

 時代の波に呑み込まれ、戦争のうねりに翻弄された家族。徐々に悪化する情勢の中、両親と2人の娘、そしてその家庭に出入りする大人たちとの日常を丹念に拾い上げることで、ささやかな生活の中にこそ人生の真実がたたずんでいるということを描く。いちばん幸せなものは何か、それは貧しくても、一家そろって食卓を囲むこと。その情景を通じて、国家権力の前では個人の命や尊厳など取るに足らないものであるが、そういったものをうまくやり過ごしながら生きながらえる小市民の知恵が細かく描写されている。

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音符と昆布 - 福本次郎

被写体の明度にまったく関心がないのか、映像全体が暗く、特に光源が電球だけの廊下のシーンでは黒ずんだような印象。照明を使うなりデジタル補正するなり、少なくとも俳優の顔がきちんと判明するくらいの光量は必要だろう。(30点)

音符と昆布

© 音符と昆布 製作委員会

 味も香りも伝えられない写真で、料理を美味しく見せるために鮮やかな彩りに凝る。それは素材の持つ色のシャープさ、すなわちどれだけ忠実に光を記録するかにかかっている。それは映画においても同じはずなのに、この作品は被写体の明度にまったく関心がないのか室内のシーンでも自然光だけで撮る。結果的に映像全体が暗くくすんでしまい、特に光源が電球だけの廊下のシーンでは黒ずんだような印象。照明を使うなりデジタル補正するなり、映画を撮るならば少なくとも俳優の顔がきちんと判明するくらいの光量は必要だろう。

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テラビシアにかける橋 - 福本次郎

イマジネーションの世界を作り上げるにも、子供の頭には自分の見聞を元にしたことしか浮かばない。早く走れたり、軽々と木に登れたりといった小さなスケール。そこでの体験が現実世界とリンクせず中途半端な関係しか生まない。(40点)

 イマジネーションの世界を作り上げるにも、子供の頭には自分の見聞を元にしたことしか浮かばない。すごく早く走れたり、軽々と木に登れたり、巨大リスをワンパンチで倒したりといった非常にスケールの小さい身近な空想。それは大人が考えた壮大なファンタジーとは違い、日常の延長でしかない。冒険を通じて成長していくのではなく、ちょっとだけスリルを味わうが安心して過ごせる場所だ。だからこそ現実世界での成長が空想世界に広がりをもたせていく。義務を果たし責任を持ち広い世界を知ることで、魔法の力も強くなっていくのだ。

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フローズン・タイム - 福本次郎

時間を止めて自分だけは自由に動き回る。それは不眠症の頭が生み出した幻想、しかし主人公にとってはきわめてリアルな出来事だ。失恋の痛手と朦朧とした意識が生み出すインスピレーション、それが斬新なアートに昇華される。(50点)

 周りの時間を止めて自分だけは空間を自由に動き回る。凍りついたような人々の間をすり抜け、女性の服を脱がせて、ひたすらペンを走らせる。それは不眠症の頭が生み出した幻想、しかし主人公にとってはきわめてリアルな出来事だ。失恋の痛手と朦朧とした意識が生み出すインスピレーション、それが創作への情熱に転化されるとき斬新なアートとして昇華される。ただ、心の持ち方しだいで時の流れはスピードを変えることを描写しようという試みは理解できるが、頻出する時間を止めるシーンに撮影上の工夫が乏しく単調になっている。もっと刺激に対して鋭敏になったり鈍感になったりする感覚を味あわせて欲しかった。

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