ゼロの焦点 - 福本次郎

◆機関車と岩肌の黒、降り積もった雪の白、水墨画のような風景の中では、ヒロインの地味なコートは不吉、謎の女の真っ赤なコートは破滅を象徴し、男の失踪をきっかけに起きる連続殺人事件を軸に、人間の業の深さと愚かさを描く。(50点)

 機関車と岩肌の黒、降り積もった雪の白、冬の能登半島の水墨画のような風景の中では、ヒロインの地味なコートですら不吉な予感をもたらし、謎の女の真っ赤なコートは破滅を象徴する。もはや戦後は終わったといわれ、世の中はからは戦争の爪あとは消えても、心に傷を抱えて生きている女たち。やがてその傷は秘密になり、殺意の引き金に指をかける。映画は一人の男の失踪をきっかけに起きる連続殺人事件を軸に、人間の業の深さと愚かさを描こうとする。

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ワカラナイ - 福本次郎

◆極端にセリフが少ない長回しのシーンの連続は息苦しくなるような閉塞感。孤独な状況で少年が感じる、押しつぶされそうな心細さと、先の見えない明日にどうしたらいいのか分からないという途方に暮れる思いをリアルに実感させる。(50点)

 極端にセリフが少ない長回しのシーンの連続に、息苦しくなるような閉塞感をもよおす。そのトーンは最初から最後までずっと変わらず、見ていてウンザリするほど。しかし単調な映像は、周囲が援助してくれない状況で少年が感じる押しつぶされそうな心細さと、先の見えない明日に対してどうしたらいいのか分からないという途方に暮れる思いをリアルに実感させる。生活を維持するノウハウを教えてくれる人間が誰もいなくても、なんとか食べ物を探す彼の姿勢が健気だ。

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千年の祈り - 福本次郎

◆家族主義と個人主義、伝統と革新。歳月と距離の隔たりを超えた対立項をもつ父娘を共に生活させ、失われた家族の絆を浮き彫りにする。抑制のきいたタッチは米中間の文化の違いだけでなく、一人っ子政策のひずみにまで言及する。(60点)

 しきたりに縛られた中国で生きてきた父と、米国に渡って自由を謳歌している娘。2人の心は予想以上に離れている。家族主義と個人主義、伝統と革新、会話と沈黙、親と子、男と女。歳月と距離の隔たりを超えたあらゆる対立項をもつ父娘を一つの屋根の下に生活させ、失われた家族の絆と肉親ゆえの愛憎を浮き彫りにする。映画は抑制のきいたタッチで彼らの葛藤と和解を描き、米中間の文化の違いだけでなく、中国の一人っ子政策のひずみにまで言及する。

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THE WAVE ウェイヴ - 福本次郎

◆自由よりも規律、個人よりも集団。自分が誰かに求められ自分も仲間に助けられる相互扶助の精神と、組織への忠誠と団結で得られる大きな力。高校生たちが全体主義に酔っていく過程を通じて、ファシズムの魅力と恐怖を再現する。(70点)

 自由よりも規律、個人よりも集団、個性よりも調和。放任されて育った高校生は、表面上は束縛を嫌い団体行動を馬鹿にしている。しかし、心の底では強力な指導者に導いてもらいたい願望を持っている。自信を持てず目標もなく日常を過ごしている人間にとって、自らの進むべき道を迷いなく示してくれるリーダーとゴールを共有するメンバーこそが、生きている実感を得られる根拠となる。自分の能力が誰かに求められ自分も仲間に助けられる相互扶助の精神と、組織への忠誠と団結によって得られる大きな力。映画は高校生たちが全体主義に酔っていく過程を通じて、ファシズムの魅力と恐怖を再現する。

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天使の恋 - 福本次郎

◆「売春」「難病」「真実の恋」というケータイ小説の三題噺がベースの物語は、もしかしてコメディなのか。女子高生が「運命的な出会い」と思う男と交際する過程で、他人を愛することは自分を大切にすることであると学んでいく。(40点)

 「売春」「難病」「真実の恋」というケータイ小説の三題噺をベースに、トラウマといじめ、自殺、レイプなど、陳腐な要素がてんこ盛りにされた物語は、もしかしてコメディなのか。容姿に恵まれた故にいつも友人たちの中心にいる女子高生が、積極的に体を売りカネを稼ぐ。さらに友人たちとも共謀し恐喝にまで手を染める。その手口はやくざ顔負けの狡猾さで、前半のヒロインの言動には嫌悪感しか覚えない。映画は、そんな彼女が「運命的な出会い」と思い込んでいる男と交際する過程で、他人を愛することは自分を大切にすることであると学んでいく。

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マイケル・ジャクソン THIS IS IT - 福本次郎

◆世界中からオーディションに集まってきたダンサーたちはみな、例外なく幼少時からマイケルに憧れ、同じ舞台に立つことを夢に見ている。人生に意味を見出すとしたら、「This is it.」と言い切る若いダンサーの言葉が印象的だ。(50点)

 世界中からオーディションに集まってきたダンサーたちはみな、例外なく幼少時からマイケルに憧れ、神のように崇め、彼のように踊りたいと願う。そして同じ舞台に立つことを夢に見ている。人生に意味を見出すとしたら、「This is it.」と言い切る若いダンサーの言葉が印象的だ。まさに生涯をかけて追いかけてきた目標、それほどまでにマイケルは偉大で、かけがえなく、その革命的な歌と振り付けの総合芸術は多くの人々にとってはまさに「運命」なのだ。死の直前のロンドン公演のオーディションからリハーサル風景を通じて、マイケルのステージがいかに完璧なエンタテインメントを目指していたかを再現する。

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大洗にも星はふるなり - 福本次郎

◆女の子から微笑まれると自分に気があると思い、会話を交わすだけで恋人気分になる。そんな男たちの単純な頭の構造を徹底的に笑い飛ばす。映画は小劇場の一幕物芝居のような早回しのセリフで、現実と妄想の狭間を行き来する。(60点)

 ちょっと微笑みを向けられただけで自分に気があると思い込み、楽しい会話を交わしただけで恋人気分になる。ほとんど男ばかりのバイト先にひとりだけいるカワイイ女の子、誰もがみな彼女に好意を持ち、彼女とかかわった時間に意味を見出そうとする。それは大いなる勘違いの産物なのだが、ちいさな関わりを精いっぱい装飾して幸せな思い出に加工してしまう、そんな男たちの単純な頭の構造を徹底的に笑い飛ばす。映画は小劇場の一幕物芝居のような早回しのセリフと狭い空間を舞台に、過去と現在・現実と空想の狭間を行き来する。

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PUSH 光と闇の能力者 - 福本次郎

◆念動力、未来予知、記憶改竄、音波砲……。主人公たちが追われ、隠れ、そして反撃する過程でさまざまな超能力が飛び交う。しかしそれらはCGで装飾しためくるめくような映像ではなく、派手に物が壊れ人が死んでもむしろ地味だ。(50点)

 混沌とした大都会の片隅に身を隠す超能力者、彼らはその能力を周囲に悟られずひっそりと生きていかなければならない。自由を奪われるか命を狙われるか、おおっぴらにパワーを使えるのは政府機関の手先になった者たちだけだ。念動力、未来予知、記憶改竄、音波砲……。主人公たちが追われ、隠れ、そして反撃する過程でさまざまな超能力が飛び交う。しかしそれらはCGで装飾しためくるめくような映像ではなく、派手に物が壊れ人が死んでもむしろ地味なほど。あくまで表には出られない彼らの悲哀が抑え気味の演出からにじみ出ていた。

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副王家の一族 - 福本次郎

◆「憎悪こそ生きる秘訣だ」。19世紀シチリア、封建的領主親子が革命の嵐に飲み込まれながらも、権力の座を守っていく過程で、壮絶な家族の葛藤が繰り広げられる。その語り口はあくまで重厚で、貴族社会の息苦しさを実感させる。(60点)

 「憎悪こそ生きる秘訣だ」。権力に憑りつかれ、他人を思いのままに動かすことができる快感を手に入れるためには、男はあらゆるものを憎み、蹴落としていく。それがたとえ親子兄弟の間柄であっても、反抗するものには容赦はしない。19世紀シチリア、封建的領主親子が革命の嵐に飲み込まれながらも巧みに生き抜き、権力の座を守っていく過程で、壮絶な家族の葛藤が繰り広げられる。その語り口はあくまで重厚で、個人の愛や思想よりも一族の安泰を優先する屋敷の中では、笑顔よりも怒り、喜びよりも苦悩、希望よりもあきらめが蔓延し、貴族社会の息苦しさを実感させる。

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僕らのワンダフルデイズ - 福本次郎

◆残された時間がわずかと知った男が、果たせなかった夢を叶え家族に大切な思いを遺そうとする。53歳、引退するには早すぎるが人生に上がり目のないことも見えている、そんな男たちの笑顔の裏にほの見える悲哀がリアルに描かれる。(50点)

 残された時間がわずかと気づいてしまった男が、果たせなかった夢を叶え家族に大切な思いを遺そうと若き日に情熱を傾けた音楽に昔の仲間を誘う。だが、今はみな立場が違いそれぞれに悩みを抱えている。息子との葛藤、事業の不振、痴呆症の母、重荷を背負った男たちが一念発起してバンドに取り組む姿がすがすがしい。53歳、あきらめて引退するには早すぎるが人生この先上がり目のないのも見えている、そんな男たちの輝く笑顔の裏にほの見える悲哀がリアルに描かれている。

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SAW6 - 福本次郎

◆その人間は生きるに値するか、誰を救い、誰を見捨てるか、そして選ぶ権利を与えられた者もまた、心を試される。肉体が苛まれる激痛と死の恐怖に押しつぶされそうな極限状態であらわになっていく姿は人間の本性そのものだ。(50点)

 その人間は生きるに値するか、誰を救い、誰を見捨てるか、そして選ぶ権利を与えられた者もまた、心を試され、己の価値を値踏みされていく。力なき人々の運命を左右する立場にある男が権限を利益のためだけに行使するとき、ジグソウの怒りが爆発する。密室に閉じ込められた複数の男女、身をえぐり骨を断ち血しぶきがほとばしる残酷描写はここでも健在、ゲーム参加者たちのリアルな感情がスクリーンから伝わってくる。肉体が苛まれる激痛と死の恐怖に押しつぶされそうな極限状態であらわになっていくのは、人間の本性そのものだ。

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ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part2 ルージュ編 - 福本次郎

◆「脱獄とは権利であり義務である」と言い放ち、社会に対して異議を唱え、自分の犯罪行為を革命と位置付ける。自己顕示欲がますます強くなり、一犯罪者として片付けられない時代のアイコンになった主人公の壮絶な後半生を追う。(70点)

 「脱獄とは権利であり義務である」と言い放ち、社会の権威や権力に対して敢然と異議を唱える。相変わらず強盗を繰り返す逃亡生活、逮捕されても必ず脱獄するしぶとさ。その憎しみはQHSという警察組織にむけられ、自分の犯罪行為を革命と位置付ける。しかし、そんな立派な能書きとは裏腹に思想的背景など微塵もなく、本人はただ女と贅沢な暮しがしたいだけの極めて俗物。自己顕示欲がますます強くなり、一犯罪者として片付けられない時代のアイコンにまでなった主人公の壮絶な後半生を追う。

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ジャック・メスリーヌ フランスで社会の敵No.1と呼ばれた男 Part1 ノワール編 - 福本次郎

◆無鉄砲かと思えば機転が利き、短気だが用意周到。大胆な行動は強運を呼び込み、仲間への信頼と権力への反抗は最後まで衰えない。「公共の敵No1」と呼ばれた男が、いかにして犯罪者の道へ落ちたかをパワフルなタッチで描く。(60点)

 無鉄砲かと思えば機転が利き、すぐに頭に血が上るけれども用意周到な計画も立てる。大胆な行動は強運を呼び込み、仲間への信頼と権力への不屈の精神は最後まで衰えない。かつてフランスで「公共の敵No1」と呼ばれた男が、いかにして裏社会へ落ちていったかをパワフルなタッチで描く。悪党のパシリから始め、銀行強盗を生業にし、逃亡と脱獄を繰り返す主人公は、欲望の赴くままに生きるのが社会に対する抗議と勘違いしている。映画はことさら英雄視はせず、彼の虚像をはぎ取り素顔に迫ろうとする。

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スペル - 福本次郎

◆不気味な気配や衝撃音、思わせぶりなカメラワークは、1970年代に流行したオカルト映画のようにオーソドックス。悪霊の呪いをかけられた女が体験する超常現象を通じて逆恨みの恐ろしさを描く過程は、ホラー映画の教科書のようだ。(50点)

 ヒロインを追い詰める黒い影や不気味な気配が、お決まりの衝撃音でショッキングなシーンに転換する。思わせぶりなカメラワークは、1970年代に流行したオカルト映画のようにオーソドックス。さらに死体になっても襲い掛かってくる老婆のしつこさはもはや恐怖よりもコメディの域に達している。そして決して期待を裏切らない、収まるべきところにきちんと収まるオチ。悪霊の呪いをかけられた女が体験する超常現象を通じて人間の逆恨みの恐ろしさを描く過程は、ホラー映画の教科書のようだ。

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母なる証明 - 福本次郎

◆母と息子、成人してもなお一つの布団で眠る濃密な親子関係が、時に生きる糧になり死にたいほどの重荷にもなる。映画は彼女の直情的な行動の裏にある繊細な感情を丁寧に掬いあげ、映像は息のつまりそうな緊張感をはらんでいる。(70点)

 無意識に手足が動き踊り出してしまう心理とはどんな状態なのだろう。それは信じていたものが崩れ去った絶望なのか、信じたかったことが現実になった安堵なのか。息子は絶対に潔白という根拠の希薄な確信を頼りに、女子高生殺人の容疑者として逮捕された息子の無実を晴らそうとする女の姿を通じて、知的障害者を子に持ってしまった母親の苦悩を描く。母と息子、成人してもなお一つの布団で眠る濃密な親子関係が、時に生きる糧になり死にたいほどの重荷にもなる。映画は彼女の直情的な行動の裏にある繊細な感情を丁寧に掬いあげ、映像は息のつまりそうな緊張感をはらんでいる。

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