◆巨大ウナギのような怪物を追って荒涼とした砂漠を放浪する1人の男と3人の女。映画は、怪物狩りで本来の闘争本能を満たそうとする未来社会の人間たちの本性を赤裸々に描く過程で、ひたすら銃器をぶっ放す開放感を追い求める。(50点)
荒涼とした砂漠を放浪する1人の男と3人の女。重武装した彼らは、体長100メートルは優に超え、砂の中と地上を自由に行き来する巨大ウナギのような怪物を追っている。映画は、怪物狩りで本来の闘争本能を満たそうとする未来社会の人間たちの本性を赤裸々に描く。その過程には、「愛」とか「仲間」とか「勇気」が人生にいちばん大切だという手あかのついた主張や、争いの果てに得るものなど何もないなどという教訓はない。ただひたすら怪物に向かって銃器をぶっ放す開放感を追い求めるところが潔い。
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◆小国ゆえに戦火を免れたデンマーク、誰が敵で誰が信用できるのか、抵抗組織の若者は徐々に己の任務に疑問を抱いていく。中立でもなく大規模な蜂起でもなく、中途半端なレジスタンスに終始した国民の悲哀をリアルに再現する。(70点)
小国ゆえに戦火を免れ、その被害の少なさが抵抗運動に温度差をもたらす。第二次大戦中のデンマーク、ドイツの支配を「平和的」に受け入れたおかげで国は破壊されなかったが、傷ついた民族のプライドを取り戻すために地下活動に身を投じる2人の青年。だが、ドイツ軍に対する憎悪は薄く、組織の団結は非常にもろい。裏切り、密告、二重スパイ、共産党……。誰が敵で誰が信用できるのか、疑心暗鬼の中で、彼らは徐々に己の任務に疑問を抱いていく。中立でもなく大規模な蜂起でもなく、中途半端なレジスタンスに終始した国民の悲哀をリアルに再現する。
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◆人間としての資質に欠けているのではないかという過度の自信喪失のせいで、いつも心に潜む「お化け」に見つめられるような妄想を抱えている男。彼がもがく姿を描いた太宰治の古典に、クールなタッチのアニメでアプローチする。(50点)
世間の目を恐れ、その恐れを人に悟られないために少年時代は道化を演じ、青年となってからはニヒルを気取ることで精神の均衡を保っている。自分は人間としての資質に欠けているのではないかという過度の自信喪失のせいで、いつも心に潜む「お化け」に見つめられるような妄想を抱きながら生きてきた男が、なんとか周囲と折り合いをつけようともがく姿を描いた太宰治の古典に、クールなタッチのアニメでアプローチする。
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◆デフォルメされた肉体と捻じ曲げられた空間は、剣客の感覚をリアルに再現する。距離感や質感は客観的には恐ろしく矛盾するのだが、命のやり取りをする主人公の、研ぎ澄まされ視覚や聴覚が知覚する脳内のリアリティなのだ。(50点)
デフォルメされた肉体と捻じ曲げられた空間は、剣客を生業とする者の感覚をリアルに再現する。距離感や質感は客観的には恐ろしく矛盾するが、武器を手に命のやり取りをする主人公の、研ぎ澄まされ、増幅された視覚や聴覚が知覚する脳内のリアリティなのだ。抜き身を一閃して敵をぶった切るかと思えば、盾に取った相手ごとその後ろにいる敵を串刺しにする。太く力強い直線と繊細で緻密な曲線が見事にマッチしたアニメーションは、殺戮と孤独を友として生きる剣客たちの独特の世界観を構築している。
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◆銀行強盗と逮捕、脱獄を繰り返し、大恐慌に苦しむ米国で「公共の的No1」と呼ばれた犯罪者に、政府の無策や銀行家の強欲に鬱憤をため込んでいた民衆は共感を寄せる。映画は彼の最期の1年に焦点を当て、その人間像に迫る。(50点)
自ら囮となって刑務所に忍びこみ仲間を救出する大胆、1分40秒で金庫のカネを奪い人質を取って逃走する早業、FBIの包囲をものともせず強行突破する強運。銀行強盗と逮捕、脱獄を繰り返し、大恐慌に苦しむ米国で「公共の的No1」と呼ばれた犯罪者、殺人や誘拐を厭い、汚れたカネしか奪わない彼の犯行スタイルに、政府の無策や銀行家の強欲に鬱憤をため込んでいた民衆は共感を寄せる。映画は彼の愛と逃亡に明け暮れた最期の1年に焦点を当て、その人間像に迫る。
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◆第一作からもう30年以上の時を経たが、相変わらずそこで描かれるのは異星人と戦う地球人という古臭い構図。艦長に出世した主人公もあくまで武力で敵を制圧することしか考えず、映画の価値観は米ソ冷戦時代から進歩していない。(40点)
「無限に広がる大宇宙~」のナレーションで始まる導入部に思わず懐かしさが込み上げてくる。第一作からもう30年以上の時を経たが、物語の設定も20年の時が下る。その間、宇宙物理学も発展しここではマルチバースの概念が取り入れられている。ところが、相変わらずそこで描かれるのは古いタイプの悪党と戦う正義感に燃える地球人という古臭い構図。艦長に出世した主人公や部下もあくまで武力で敵を制圧することしか考えず、映画の価値観は米ソ冷戦時代から進歩していない。
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◆青白い月の光が窓から差し込む夜の音楽室で、ピアノに向かう少女の指がドビュッシーの名曲を奏でる。艶めかしいほどに情感的なシーンは、日々の食事にも事欠く貧しさの中でも正直に生きようとする少年に宿る希望のようだ。(40点)
青白い月の光が窓から差し込む夜の音楽室で、ピアノに向かう少女の指がドビュッシーの名曲を奏でる。艶めかしいほどに情感的なシーンは、日々の食事にも事欠くほどの貧しさの中でも正直に生きようとする少年の心に宿る希望のよう。彼は彼女の姿を「夜空色」の絵具でスケッチし、その思いを永遠のものにしようとする。映画は、素封家の娘と木炭焼きの孫の、身分違いの幼い恋を描く。力ずくで奪うには弱すぎ、諦めるには若すぎるふたりの関係は、お互いの胸の中でしか成就できない。雪のように淡く消えた切ない愛は記憶の中でのみ美しさを保つのだ。
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◆「ボナペティ!」の声に思わずよだれがこぼれそうになる映像は、料理は作り手の気持ちが煮詰められていることを思い出さてくれる。食べるという行為は胃袋を満たすだけでなく、作り手の人生観が込められたラブレターなのだ。(80点)
「ボナペティ!」の声に思わずよだれがこぼれそうになるくらい食欲をそそる映像は、料理は作り手の気持ちが煮詰められていることを思い出さてくれる。舌がとろけるような甘さが糸を引くデザート、頬が落ちるほど濃厚なバター風味のソース、牛肉とワインが絶妙のハーモニーを奏でる煮込み……。料理とは、そのままでは動物や植物の「死体」でしかない食材に再び命を与えるテクニック、そしてそれらを味わいつくして生きていることに感謝する行為。フランスという、料理が芸術の域にまで昇華された国の真髄を2人の米国人女性が受け継ぐ過程で、食べるという日常が単に胃袋を満たすだけでなく、愛そのものであると映画は主張する。
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◆ワンカットの中に、遠景からクローズアップまであらゆるテクニックを駆使するが、あまりにも緩慢な時間の流れは見る者の忍耐を試されているようだ。それが逆に緊張感を醸し出し、俳優たちの凝縮された息遣いが聞こえるようだ。(50点)
港に接岸した貨客船から降りた乗客が、隣接された駅に向かい、列車に運ばれていく。ガラス張りの監視塔から男が目にする世界はそれがすべてだったのに、ある日思わぬ大金を手にしてしまう。殺人事件のおまけつきで。平凡な人生が突然変ったときに経験する焦りと、秘密がばれてしまうのではないかという恐れ、さらには自分一人で抱えきれなくなった問題を解決する術を持たない苛立ちが、モノクロームの陰影に焼きつけられる。
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◆運命的な出会いから静かな別れまで、主人公のつつましくも幸せだった人生を振り返るプロローグが涙を誘う。数十年にわたる彼と妻と家の歴史がほんの数分にまとめられ、思い出に生きるしかない老人の寂しさを饒舌に物語る。(50点)
運命的な子供時代の出会い、同じ夢を追ううちに恋に落ち、結婚して廃屋を買い取って修理し、そこで共に歳を取り、やがてふたりだけの暮らしも死によって引き裂かれてしまう。主人公のつつましくも幸せだった生涯を振り返るプロローグが涙を誘う。いつの間にか周囲は再開発の波にさらされ、今では世の中の変化についてゆけず、孤独の中で頑固に心を閉ざし、さらに偏屈になっている。そんな彼の数十年にわたる妻と家の歴史がほんの数分にまとめられ、思い出に浸るしかない老人の寂しさを饒舌に物語る。
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◆内部告発しようとする主人公の正義感が非常に安っぽいのに、それを見抜けない会社。さらにFBIが彼に振り回されるという構図が、コミカルな音楽に彩られる。しかし、人間の愚かさを突き詰めたおかしさまでにはに詰められいない。(40点)
米国人の主食だけでなく多くの食品の添加物となり、エネルギーにも変換できるコーンを牛耳るものが経済を左右する。そんな世の中の歪みを知りながらも、なんとか折り合いを付けている男は、虚構で固めた自分の人生こそがまともであると信じている。国際的な組織犯罪に手を染める大企業を内部告発しようとする主人公の正義感が非常に安っぽいのに、それを見抜けない会社。さらにFBIが彼に振り回されるという構図が、コミカルな音楽に彩られる。しかし、彼らの愚かさを突き詰めたおかしさまでにはに詰められておらず、斜に構えた中途半端で笑えないコメディになっている。この中途半端さこそが人間の真実と言いたいのだろうが・・・。
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◆規制緩和が生んだ自由主義経済の現実、富裕層はますます富み、中間層は没落する。マルクスが生きていたころの西欧に逆戻りしたような21世紀の米国を舞台に、マイケル・ムーアは「労働者よ権利に目覚め立ち上がれ」と鼓舞する。(60点)
規制緩和が生んだ自由主義経済の現実、富める者はますます富み、中間層は没落し、貧困層は現状から抜け出せない。そこは貪欲が勤勉を食い物にする世界。ウォール街が生んだ金融派生商品という名の詐欺的な投資に手を出して失敗し次々と家を奪われる人々と対照的に、莫大な所得を得るエグゼクティブたち。まさしくマルクスが生きていたころの西欧に逆戻りしたような21世紀の米国を舞台に、マイケル・ムーアは「労働者よ権利に目覚め立ち上がれ」と鼓舞する。ソ連の崩壊と中国の軌道修正で社会主義は歴史的に敗北したが、それでも腐りきった資本主義よりはまだましだ、と。
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◆細胞の記憶は持ち主の死後も生き続けるのか。心臓はドナーの本能をそのまま保持し、移植された作家の精神を狂わせていく。しかし、血やナイフのイメージばかり先行して悪意の源泉が中途半端にしか描かれておらず中途半端だ。(40点)
細胞の記憶は持ち主の死後も生き続けるのか。特に臓器の中でもいちばん重要な心臓ならば、そこに宿った思いは強烈。心臓はドナーの本能をそのまま保持し、移植された作家の精神を狂わせていく。しかし、血やナイフのイメージばかり先行して肝心の悪意の源泉が中途半端にしか描かれておらず、作品のテンションは盛り上がらない。もっと、心が浸食されていく男の感情を主観的に表現して、人格を乗っ取られる恐怖を具体的に見せるべきだろう。
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◆日常で起こりうる出来事をデフォルメし、観客に「似たような経験がある」という共感を持たせてこそコメディは笑えるのだ。しかし、脚本家が頭の中で考えた稚拙なアイデアを映像化しても笑いとはほど遠く、嫌悪感ばかりが募る。(30点)
日常で起こりうる出来事をデフォルメし、観客に「似たような経験がある」という共感を持たせてこそコメディは笑えるのだ。しかし、子供の誕生日パーティを撮影したビデオに夫の浮気現場が収録されていたり、10歳に満たない子供がおばさんの井戸端会議みたいな話題を口にしたり、ボクサーが試合で客席までブッ飛ばされたり。極めつけはヒロインがデートする中年男が街角でキスする直前公衆便所に入り、大の用を足しながら話しかける。脚本家が頭の中で考えた稚拙なアイデアを映像化しても笑いとはほど遠く、嫌悪感ばかりが募っていく。
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◆誰もが真実を口にできず、支配者の嘘がまかり通る。祖国への愛と民族の誇りから抵抗する者もいるが、権力の前ではなすすべがない。1940年に起きたカティンの森虐殺事件を中心に、戦争に運命を翻弄された人々の苦悩を描く。(70点)
誰もが真実を知っているのに口にできず、支配者が押しつけた嘘がまかり通る。祖国への愛と民族の誇りからそんな偽善に抵抗する者もいるが、強大な権力の前ではなすすべもない。第二次大戦でドイツとソ連によって分割・占領され、戦後はソ連の支配下に置かれたポーランド人の苦難、それは民衆の先頭に立つべきインテリ階級の不在が生んだ技術や知識の空白が原因だ。映画は1940年ソ連軍が行ったカティンの森虐殺事件を中心に、戦争に運命を翻弄された人々の苦悩を描く。
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