◆両親の愛を知らない少年が裕福な家庭に引き取られ、才能を開花させていく。恵まれない子供に手を差し伸べ自立させるのは、決して気まぐれな自己満足でできるものではなく、その子の人生に全責任を負う覚悟を伴う行為なのだ。(60点)
父に捨てられ、母とも引き離された孤独な少年はたぐいまれなる運動能力を持ち合わせている。そんな彼が裕福な家庭に引き取られ、アメフトで才能を開花させていく。映画はNFLからドラフト1位で指名されるまでになった主人公の、篤志家との出会いから大学入学までの2年間の交流を通じ、米国に根付く善意と良心の懐深さを描く。恵まれない子供に手を差し伸べ自立させるのは、決して気まぐれな自己満足でできるものではなく、その子の人生に全責任を負うという崇高な覚悟を伴う行為なのだ。
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◆濡れ衣を着せられた妻を救うために、周到に準備し実行に移す男。それは真面目な教育者としての人生を捨て、犯罪者になる決意だ。国家という強大な権力に個人で立ち向かう主人公の姿は緊迫感がみなぎり一時も予断を許さない。(60点)
濡れ衣を着せられた妻を救うために、周到に準備し実行に移す男。彼のベクトルは冤罪を晴らすための証拠集めや真犯人捜しといった過去に向かうのではなく、刑務所から妻を奪還して再び自由を手に入れようとする未来に向かっている。それは真面目な教育者としての人生を捨て、犯罪者になる決意をすること。国家という強大な権力に個人で立ち向かう主人公の姿は最初は滑稽ですらあるが、やがて経験が勇気と判断力を養い動きに無駄がなくなっていく。その妻を思う一念が彼に力を与え孤独な戦いを支える様子は、緊迫感がみなぎり一時も予断を許さない。
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◆まるで発展途上国の警官のように権力を振りかざし、横暴の限りを尽くす悪徳刑事。自分の欲望に忠実でありながら、山積する問題に忙しく立ち回る姿には、仏の手のひらの上で踊らされているようなシニカルなはかなさが漂う。(60点)
留置場の容疑者を弄び、ギャンブル狂で借金漬け、ドラッグを若者から脅し取ったり証拠品保管室からくすねたり、さらには娼婦を愛人にし、挙句の果てはギャングに情報を流して高額の賄賂を受け取る。まるで発展途上国の警官のように権力を振りかざし、横暴の限りを尽くす悪徳刑事。自分の欲望に忠実でありながら、山積する問題に忙しく立ち回る姿には、仏の手のひらの上で踊らされているごときシニカルなはかなさもうかがえる。映画は、麻薬ディーラーとギャングの狭間でドツボにはまっていく主人公が心理的に追い詰められていく様子をコミカルに描く。
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◆男は、酒に溺れ、女に頼り、現実逃避しようともがくが死に切れない。弱い自分を許容する女たちを直感的に見極める能力で世の中を渡っていこうとする。しかし、あえて感情を抑えた演出からは彼の苦悩や葛藤は伝わってこない。(40点)
酒に溺れ、女に頼り、いつも現実逃避しようともがいているにもかかわらず死に切れない。弱い己に甘え、それを許容する女たちを直感的に見極める能力で世の中を渡っていこうとする。しかし、あえて感情を抑えた演出からは主人公の苦悩や葛藤は伝わってこない上、ヤマ場の乏しいエピソードの連続は退屈を通り越してウンザリしてくる。まあ、このダメ男の遍歴をダラダラと見せて、観客にも彼が内包する人生に対する苦痛を味あわせようとしているのなら、その目論見は成功しているが。。。
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◆運命は仲のよい兄弟のどちらか一人を選ぶためにPKを課すが、兄弟はそれに抗うかのような結果を出す。青年期を過ぎた2人に突然舞い降りたチャンス、彼らの「夢を追うのに遅すぎることはない」という前向きな姿がうらやましい。(40点)
右を狙うか左を抜くか? PKというキッカーとゴールキーパーの1対1の対決は二者択一のよう。運命は仲のよい兄弟のどちらか1人を選ぶために彼らにPK を課すが、兄弟はそれに抗うかのような結果を出す。貧しいながらも大家族に恵まれ、もはや青年期は過ぎた2人に突然舞い降りたチャンス。彼らの「夢を追うのに遅すぎることはない」という前向きな姿がうらやましい。熱くも湿っぽくもないが常に幸福をみなで分かちあう血縁の絆を大切にするメキシコ人気質に、充足はカネでは買えないことを教えられる。
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◆執拗に熱い視線を絡ませる男と女。男はその女にファム・ファタールの予感を覚え、官能に溺れていく。細かいカット割りと大胆なカメラワークで、理性を失うほどの狂おしい苦悩にさいなまれていく様子が繊細かつ饒舌に描かれる。(70点)
執拗に熱い視線を絡ませる男と女。男はその女にファム・ファタールの予感を覚え、官能に溺れていく。結婚を間近に控えたエリートサラリーマンが南国の喧騒で出会った女と密会する過程で、映画は恋愛の本質に迫っていく。愛した記憶と愛された記憶、貪るようにお互いの肉体を求める姿は人生のはかなさを象徴しているようだ。細かいカット割りと大胆なカメラワークで、分別を持った大人が、理性を失うほどの狂おしい苦悩にさいなまれていく様子が繊細かつ饒舌に描かれる。
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◆失踪した女と小さな町で暮らす男、波長の違う世界の男女が出会い、お互い己にないものを相手に発見し、惹かれあう。その気持ちは好意なのか恋なのか、まだ人生の機微がわからない若者が人の心の繊細さと複雑さに気付いていく。(50点)
プレッシャーに耐えきれなくなり突然すべてを投げ出した女は、都会での生活に未練もあり、自分を探し出してくれることを願っている。小さな町で暮らす男は、人々に愛され、そこが自分の居場所と決めて生きている。そんな波長の違う世界の男女が出会い、お互い己にないものを相手に発見し、惹かれあう。その気持ちが単なる好意なのかそれとも恋なのか、はっきりと確かめることなくふたりは距離を縮めていく。台湾の豊かな人情を背景に、まだ人生の機微がわからない若者が人の心の繊細さと複雑さに気付く過程で、自分を捨てた母親の心情に思いをはせていく。
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◆俳優たちは素のままの話し方で演じ、まるでフランスの自主映画のごとく極めて個人的な人生の一瞬を切り取った日常のスケッチは、感情を強調しないがゆえのリアリティに満ち、レンズの細かな揺れでヒロインの心の動きを描く。(50点)
クローズアップを多用した寡黙な映像と、取り留めのないおしゃべりが延々と続く饒舌な食卓。冬の北海道、雪に埋もれながらそこに生きる人々の息遣いをハンディカメラに収める。俳優たちは演技をしていないような素のままの話し方で演じ、まるでフランスの自主映画のごとく極めて個人的な人生の一瞬を切り取った日常のスケッチは、感情を強調しないがゆえのリアリティに満ち、レンズの細かな揺れでヒロインの心の動きを描く。変化の少ない生活、着信のないケータイ、新たな出会い、そして事件。限られたセリフと視線だけで人間の繊細な心情を表現し、愛の切なさを浮かび上がらせる。
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◆マンションの一室で共同生活しているのに、お互いの事情をほとんど知らない若者たち。それはお互いに他人の内面に踏み込もうとしないから。「真実という言葉に真実味を感じない」というセリフに彼らの関係が凝縮されていた。(50点)
マンションの一室で共同生活しているのに、お互いの事情はあまりよく知らない。それは心の中にだれかが踏み込んでくるのが嫌で、自分も他人の内面に関わろうととしないから。表面上は仲がよく心配をしているが、あえて濃い人間関係を築かないことで均衡がとれている危ういバランスでしかなく、そのルールを全員が了解している。映画はそんな若者たちの平和な暮らしに現れたひとりの闖入者とともに、人間の本性とは何かを考察する。「真実という言葉に真実味を感じない」、登場人物が口にするセリフがいちばん真実味を帯びていた。
美しい自然描写が持ち味のジェンチイ作品らしく、霧雨にけむる街並みや緑の陰影、幻想的な天灯祭りなど、思わずハッとするような映像美にあふれている(60点)
連続女性殴打事件が世間をにぎわせているころ、直樹、良介、未来、琴美の男女4人が暮らす2LDKのマンションにサトルという少年が転がり込んでくる。やがて良介には彼女ができ、琴美は妊娠、未来は大切にしていたビデオを上書きされるなどの変化が起き、みな年長の直樹を頼り彼に相談する。
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◆有り余る時間を消費している典型的なフリーター男は、何をやっても中途半端なのに言い訳だけは達者。ジコチューで行き当たりばったりな彼の行動には人間の弱さと愚かさと優しさが凝縮されていて、奇妙なおかしさと共感を呼ぶ。(60点)
だらしなく散らかった部屋で痴話げんかを始める男と女。その言葉には知性や教養のみならず、覇気もまったくない。ただ有り余る時間を消費している典型的なフリーターカップルだ。男は一応バンドでプロを目指しているがそれは世間体にすぎず、女はそんな男に振り回されている。何をやっても中途半端なのに言い訳だけは達者な若者のあまりにもジコチューで行き当たりばったりな行動、そこには人間の弱さと愚かさと優しさが凝縮されていて、まったりとした語り口は奇妙なおかしさと共感を呼ぶ。
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◆戦勝国の軍人は敗戦国の民間人に対し、文化や芸術に対する憧憬と尊敬を言葉にし、愛にも似た情熱で相互理解を訴える。モノクロのコントラストに登場人物の感情を鮮明に反映させ、人間の誇りと良心について深い洞察を加える。(60点)
戦勝国の軍人と敗戦国の民間人。軍人は戦争に勝った事実など微塵も鼻に掛けず誠意を持って民間人に接するが、民間人は軍人に心を開かず負けても誇りまでは捨てていないことを体現する。相手国の文化や芸術に対する憧憬と尊敬を言葉にし、両国の長所を融合させるのが新たな進歩のステップであると考える軍人は、愛にも似た情熱で相互理解を訴える。最初は彼を意識的に無視し、憎しみすら抱いていた民間人は、やがて彼の話に耳を貸すようになっていく。映画はモノクロのコントラストに登場人物の感情を繊細に反映させ、人間の良心について深い洞察を加えていく。
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◆バレンタインデーに胸をときめかせ、その日だけは愛する人に自分の思いを伝えるためにテンションを上げる人々を散文的にスケッチする。しかし、各々のエピソードに共感できるディテールがまったくなく、リアリティに欠けている。(30点)
プロポーズに舞いあがる若者、不倫に振り回される女、初体験を済ませたい高校生、先生に心奪われる小学生、大切な人に会いに行く兵士、年輪を重ねた老夫婦 etc.。バレンタインデーという特別な一日に胸をときめかせ、その日だけは愛する人に自分の思いを伝えるためにテンションを上げる人々を散文的にスケッチする。しかし、各々のエピソードには共感できるディテールがまったくなく、ただ脚本家が頭の中で考えたような稚拙なシチュエーションは恐ろしくリアリティに欠けている。さらにコメディとしての作り込みも甘く、空回りする映像の連続に強烈な退屈と闘わなければならなかった。
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◆いくつになっても人は恋に胸をときめかせる。前夫と心に傷を負った男から求愛されるヒロインの「老いと性」を正面から見つめ、コミカルなシチュエーションと下品になりすぎない下ネタ、適度な笑いをまぶした脚本が素晴らしい。(70点)
もはや中年の域を過ぎ、老境に近づいても人は異性に胸をときめかせる。それは肉体的外見的な若さを追求する過程において、気持ちもまた若くあらねばと願うから。結婚、離婚、子育て、ビジネスの成功と、人生のひと通りを経験したヒロインが、2人の男の間で右往左往する。事業は軌道に乗っている、子供達も独立した、友人にも恵まれている。たった一つ欠けているものは男の肌のぬくもり。映画は、一度別れた夫と心に傷を負った男から求愛される彼女の「老いと性」を正面から見つめる。コミカルなシチュエーションと下品になりすぎない下ネタ、エスプリの利いたセリフで適度な笑いをまぶした脚本が素晴らしい。
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◆退屈と孤独のなかで、好奇心ばかりを募らせる少女が迷い込んだ理想的な暮らし。物語は二つの世界を行き来し、何も考えなくて済む生き方と、多少の不満はあっても自分で判断できる自由の、どちらがより人間には大切かを問う。(50点)
友達はいないし両親はかまってくれない。見知らぬ土地に引っ越してきた少女が退屈と孤独のなかで、好奇心ばかりを募らせる。そんな彼女が迷い込んだのは、やさしい両親と素晴らしい食事と美しい庭、そして楽しいサーカスが心を躍らせてくれる家。壁に埋め込まれた一枚のドアが、つまらない日常から夢のような暮らしにいざなう入り口になっている。物語は二つの世界を行き来するうちに、何も考えなくて済む生き方と、多少の不満はあっても自分で判断できる自由のどちらがより人間には大切かを問う。
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◆「光の部分は美しく、影の部分は罪深い」。聖処女の絵は、大胆なリアリズムとコントラストの強い陰影で見る者を圧倒する。その作者の人生もまた、アーティストの顔と暴力的な犯罪者の一面がコインの表裏のように入れ替わる。(50点)
「光の部分は美しく、影の部分は罪深い」。娼婦をモデルに描いた聖処女の絵は、大胆なリアリズムとコントラストの強い陰影で見る者を圧倒する。その作者の人生もまた、バロックの巨匠として後世に名を残したアーティストの顔と、血気盛んで暴力の衝動を抑えきれない短慮な犯罪者の一面が、コインの表裏のように入れ替わる。評価されては悶着を起こし、逃亡中でも傑作を残す。破天荒な生涯は、芸術の神に身も心もささげ先人の偉業に追い付こうとするタイプの画家とは一線を画し、天才ゆえのひらめきと進取の気性に満ち溢れている。
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