プレシャス - 福本次郎

プレシャス

© PUSH PICTURES, LLC

◆恐ろしく肥満した巨体に拗ねた視線、孤独と絶望の中で、唯一空想の中に楽しみを見出している少女。彼女が米国社会の最底辺から少しでもましな場所に這い上がろうとする過程を通じて、無知がいかに大きな罪であるかを訴える。(80点)

 恐ろしく肥満した巨体に拗ねた視線、孤独と絶望の中で、唯一空想の中に楽しみを見出している少女。16歳になってもアルファベットを知らず訛りのきつい言葉を話すだけ。劣悪な家庭環境による教育の欠如と福祉政策がもたらす勤労意欲の減退が、さらなる貧困を生む。そこに決定的に欠けているのは愛。愛された記憶のないものに他人を愛することはできず、負の連鎖は親から子へと受け継がれていく。物語は彼女が米国社会の最底辺から少しでもましな場所に這い上がろうとする過程を通じて、無知がいかに大きな罪であるかを訴える。

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武士道シックスティーン - 福本次郎

武士道シックスティーン

© 2010 映画「武士道シックスティーン」製作委員会

◆制服のスカートを短くした紺ハイソの女子高生が一心に竹刀を振る。今風の見かけと古風な魂の美しくも奇妙なミスマッチが絵になっていて、剣道に打ち込むピュアな青春を凝縮した非常にヴィジュアル的に素晴らしいシーンだ。(70点)

 制服のスカートを短くたくし上げた紺ハイソの女子高生ふたりが一心に竹刀を振る。ピンと背筋を伸ばして対峙し、射るようなまなざしで間合いを測り、渾身の一撃を繰り出す。成海璃子と北野きいの決闘は、今風の見かけと古風な魂の美しくも奇妙なミスマッチが絵になっていて、剣道に打ち込むピュアな青春を凝縮した非常にヴィジュアル的に素晴らしいシーンだ。映画は女子高の剣道部でお互い切磋琢磨するふたりのヒロインを通じて、勝利という目標に向かって努力する姿と、それ以上に仲間や友情の大切さを描く。より上を目指すにはライバルと親友が必要なのだ。

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ウルフマン - 福本次郎

ウルフマン

© 2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

◆林の中を高速で走り回る黒い影、鋭い爪にえぐられた内蔵、そして闇を切り裂く絶叫。記憶はないが、血ぬられた手が自らの行為を物語り、強烈な罪悪感にさいなまれる男の懊悩をベニチオ・デル・トロが苦み走った表情で演じる。(50点)

 林の中を高速で走り回る黒い影、鋭い爪にえぐられた内蔵、そして闇を切り裂く絶叫。人間に戻った男が良心の痛みに耐える姿がせつない。殺戮の記憶はないのに、血ぬられた手や衣服が自らの行為を物語り、強烈な自己嫌悪と罪悪感にさいなまれる。そんな呪われた主人公の懊悩をベニチオ・デル・トロが苦み走った表情で演じる。対照的に、己の運命を享受し、むしろ狼人間の一面を持つことに否定的ではない父親役・アンソニー・ホプキンスの、知性と共に狂気を秘めたまなざしが不気味だった。

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オーケストラ! - 福本次郎

◆かつて指揮者だった主人公が失った時間は取り戻すために、チャンスを見極め、仲間を集め、ためらわず実行する。そんなありきたりなオッサンたちの再生物語に美しい演奏家を絡め、コメディとミステリーの鮮やかな融合を見せる。(50点)

 オーケストラの練習を客席から見守りながら、指揮者になったつもりでメロディに酔う男。かつてこの楽団の指揮者だったにも関わらず、反政府的言動で職を奪われ不遇をかこっている彼が大芝居を打つ。カメラは、老齢に差し掛かった主人公の、もう一度人生に立ち向かう過程をコミカルに追う。失った時間は取り戻せないけれど、チャンスを見極め、仲間を集め、ためらわず実行する。そんなありきたりなオッサンたちの再生物語に若く美しい演奏家を絡め、映画はコメディとミステリーの鮮やかな融合を見せる。

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アリス・イン・ワンダーランド - 福本次郎

◆飛び出す絵本が動き出すようなファンタジックな空間に迷い込んだヒロインが、使命に目覚め運命を切り開いていく勇気を得る過程で、世間の常識などいかに陳腐かと笑い飛ばす。大切なのは何をしたいかを自分で決めることなのだ。(50点)

 ねじれた巨木、生い茂る蔓や雑草、打ち捨てられた庭園etc. 忘れら去られたかのごとく荒廃し、どこか不気味さの漂う風景は、まさにティム・バートンが得意とする人間の心の歪みの具現化。悪党にも憎めないところがあり善人にも変な癖があり、そこに生きる動物や人々も、歯車が一つずつずれていて価値観がかみ合わない。物語は、まるで飛び出す絵本が動き出すようなファンタジックな空間に迷い込んだヒロインが、自らの使命に目覚め運命を切り開いていく勇気を得る過程で、世間の常識などいかに陳腐かと笑い飛ばしているようだ。物事の判断基準は人それぞれ、大切なのは何をしたいか、何をすべきかを自分で決めることなのだ。

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のだめカンタービレ 最終楽章 後編 - 福本次郎

のだめカンタービレ 最終楽章 後編

© 2010フジテレビ・講談社・アミューズ・東宝・FNS27社

◆音楽家を目指す若者たちは苦悩や葛藤よりも、「クラシックやってます」的な浅薄な選民意識に酔ってお祭り騒ぎを繰り返している。そこには音楽に対して真摯に向き合う姿勢はなく、バラエティ番組のノリではしゃいでいるだけだ。(30点)

 パリを中心にプラハにまで足をのばし街の風景をカメラに収め、ショパン、ブラームス、ラヴェルからモーツァルトまで名曲を再現する中で、音楽家を目指す若者の苦悩と葛藤も少しは描かれる。ところがその本質は「クラシックやってます」的な浅薄な選民意識に酔ってお祭り騒ぎを繰り返しているだけ。そこには音楽に対して真摯に向き合う姿勢は微塵もなく、ただ出演者とスタッフがバラエティ番組のノリではしゃいでいるとしか思えない。確かにカネも手間ヒマもかかっている、しかし、そのエネルギーの向かう先が間違ってはいないか。これでは真面目に音楽に取り組んでいる人々に失礼だし、中途半端なギャグも笑えるレベルに達していない。

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ジョニー・マッド・ドッグ - 福本次郎

ジョニー・マッド・ドッグ

© 2008 - MNP ENTREPRISE - EXPLICIT FILMS

◆あどけなさの残る顔なのに目に宿るのは怒りと憎悪。民間人を殺す過程で、仲間に見くびられないように虚勢を張りより凶暴になっていく少年兵たちの姿が悲しい。映画は、ひとりの少年兵を通じてリベリア内戦の現実を告発する。(60点)

 あどけなさの残る顔なのに目に宿るのは怒りと憎悪。筋肉のついていない華奢な体にもかかわらず、自動小銃の扱いと交戦時の身のこなしは一人前の軍人。投降した民間人を殺す過程で、仲間に見くびられないように虚勢を張りより凶暴になっていく少年たちの姿が悲しい。彼らは消耗品でしかないのを理解しているのか、そのうっ憤を晴らすために引き金を引いている。それは、自分たちをこんな境遇に追いやった運命への復讐、映画は、ひとりの少年兵を通じてリベリア内戦をリアルに告発する。

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スナイパー: - 福本次郎

スナイパー:

© 2009 Media Asia Films(BVD)Ltd.All Rights Reserved

◆射撃は一番ながら独断専行の男と警察の狙撃部隊の暗闘を通じて、銃と共にしか生きられない男たちの熱い思いを描く。闘争心、怒り、友情、後悔、報復といった感情が複雑に絡み合い、飛び交う銃弾がその気持ちを昇華していく。(60点)

 風を読み、重力を計算に入れ、湿度を考慮して照準を合わせる。呼吸を整え心臓の鼓動を抑え、ターゲットの動きが止まるまで何時間も姿勢を変えずに引き金を引く瞬間を待つ。スナイパーに必要な資質は冷静さと集中を持続させる強靭な精神力とチームとして行動する際の協調性。物語は、射撃は一番ながら独断専行の男と、警察の狙撃部隊の暗闘を通じて、銃と共にしか生きられない男たちの熱い思いを描く。そこにあるのは暑苦しいまでの男臭さ。闘争心、怒り、友情、後悔、報復といった感情が複雑に絡み合い、飛び交う銃弾がその気持ちを昇華していく。

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17歳の肖像 - 福本次郎

17歳の肖像

◆音楽会、オークション、パリ。映画は少女の若さゆえの全能感と繊細な感情をきめ細かく描き、人生は夢と憧れで生きていけるほど甘くないことを学ばせる。ファッションや自動車といったディテールが60年代の雰囲気を再現する。(70点)

 成績は優秀、好奇心は旺盛で、物事を理解する頭の回転も早い。少女からみると、日常に埋もれた毎日を過ごしている大人たちは平凡そのもの。安定した生活を手に入れるための努力を評価せず、刹那的な刺激が幸福であると勘違いする。音楽会、オークション、パリ、ギャンブル。彼女は、眼の前に用意された華やかな世界が労せず手に入り、永遠に続くものと思いこむ。映画はヒロインの若さゆえの全能感と繊細な感情のゆらぎをきめ細かく描写し、夢と憧れで生きていけるほど甘くないことを学ばせる。ファッションから自動車、街並みといったディテールが60年代初頭の雰囲気を活き活きと再現している。

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獄(ひとや)に咲く花 - 福本次郎

獄(ひとや)に咲く花

© 2010『獄に咲く花』製作委員会

◆獄中なのに句会や書道教室が開かれ、独房の行き来も家族の面会も自由、現代の刑務所と比較しても格段に人道的な獄内が新鮮だった。映画は若き革命家の先進的な思想に触れた女囚の目を通して、命がけで信念を貫く勇気を描く。(40点)

 獄中なのに句会や書道教室が開かれ、独房の行き来も家族の面会も自由、食事もきちんと支給されて懲役もない。ただ狭い敷地内から出られないだけの、いわば軟禁状態という獄のおおらかさに驚かされる。いくら身元がしっかりとした士分の囚人で逃亡の恐れがないとはいえ、牢獄の悲惨さは微塵もなく、囚人たちは時間を持て余している。現代の刑務所と照らし合わせても格段に人道的な処遇で、これぞ武士の特権とも思える獄内の描写が新鮮だった。映画は若き革命家の明るく先進的な思想に触れた女囚が再び生きる希望を見出していく過程で、命がけで信念を貫く勇気を描く。

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ダーリンは外国人 - 福本次郎

ダーリンは外国人

© 2010「ダーリンは外国人」フィルムパートナーズ

◆日本語の知識には一般の日本人よりも精通しているのに、曖昧な返事や謙遜という日本人独特の習慣には疎い米国人。もはや語りつくされた感のあるカルチャーギャップも、個々のケースをあらためて提示されると思わず吹き出す。(50点)

 日本語は達者で、漢語と和語の違いに細かく、慣用句の成り立ちにも興味津津の米国人。日本語の知識には一般の日本人よりも精通しているのに、はっきりしない返事や謙遜といった日本人独特の習慣には疎い。もはや語りつくされた感のあるカルチャーギャップも、個々のケースをあらためて提示されると思わず吹き出してしまう。そんな彼と恋に落ちた日本人女性が、付き合っているときには魅力的に思えたリアクションも、一緒に暮らす上では笑ってすませられない大問題になっている現実に気づく。結婚とは文化的背景の異なる者が共同生活し、その差異を認め合って受け入れることなのだ。

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月に囚われた男 - 福本次郎

月に囚われた男

◆肉体はコピー、記憶も偽物、しかしそこに宿る心は本物。自分が何者か知ってしまった男が、定められた運命と戦う決意をする。無機質なモノトーンの世界で繰り広げられる静謐な悲劇をシャープでスタイリッシュな映像が再現する。(70点)

 血は流れ痛みも感じるのに肉体はコピー、昨日のことのように覚えている記憶も偽物、しかしそこに宿る心は本物。自分がいったい何者で、どういう未来が待ち受けているのかを知ってしまった男が、定められた運命と戦う決意をする。美しい妻と可愛い娘、彼女たちと愛し合った思い出だけが生きてきた証なのに、それすら幻に過ぎない。危険で孤独なミッションを遂行する主人公がアイデンティティクライシスに直面し、克服していく過程で、恐るべき事実に突きとめる。無機質なモノトーンの世界で繰り広げられる静謐な悲劇、捨ててもいい命などあってはいけないことをシャープでスタイリッシュな映像が再現する。

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ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い - 福本次郎

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い

© 2009: Edelweiss Production (Italia), Intervenciones Novo Film 2006, AIE e Radio Plus (Spagna)

◆放蕩を繰り返し、暴力も厭わない。ドン・ジョヴァンニが挑むのは宗教的倫理に行動が縛られた旧態依然とした価値観。主人公はその物語を新しい言葉とアイデアで再編し、革新的なメロディとコラボさせて時代に変革を迫っていく。(80点)

 放蕩と姦淫を繰り返し、暴力も厭わない。オペラ「ドン・ジョヴァンニ」が挑むのは宗教的倫理や道徳に行動が縛られた旧態依然とした価値観。映画の主人公である劇作家はその物語を新しい言葉とアイデアで紡ぎ直し、革新的な旋律とコラボさせて時代に変革を迫っていく。18世紀後半の、異端審問官が幅を利かせる陰鬱なヴェネチアと啓蒙君主が気軽に市民の前に姿を見せる開放的なウィーンの空気の対比が印象的だ。また、ウィーンに住むイタリア人は少なからずおり、教養あるウィーン市民はイタリア語を理解したのだろう、きちんとイタリア語とドイツ語を俳優たちが使い分けているところに好感が持てる。

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苦い蜜 ~消えたレコード~ - 福本次郎

苦い蜜 ~消えたレコード~

© 2010「苦い蜜」製作委員会

◆歯切れのいいセリフの応酬から浮かび上がるお互いの主張の矛盾、暴かれていく秘密と嘘。過去が煮詰まっていく過程で、己をさらけ出す開放感が登場人物の心を浄化していく様子は、空が晴れわたるようなさわやかさをもたらす。(60点)

 限定された狭い空間で繰り広げられる十数人による会話劇は、中劇場の一幕芝居を見ているよう。歯切れのいいセリフの応酬から浮かび上がるお互いの主張の矛盾、暴かれていく秘密と嘘。過去が煮詰まっていく過程でおのおの本性が明らかになっていく。それは嫉妬や怒り、疑いといった負の感情ではなく、他人を信じてみようというささやかな希望。正直に己をさらけ出して得られる開放感が登場人物の心を浄化していく様子は、雲が切れ空が晴れわたるようなさわやかさをもたらす。真実を告白することでしか人は救われないのだ。

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第9地区 - 福本次郎

第9地区

© 2009 District 9 Ltd All Rights Reserved.

◆侵略者ではないが、友情をはぐくめる相手でもない醜悪なエイリアンとのトラブルに対して、人間はどこまで寛容になれるか。予想を裏切る展開の連続はオリジナリティにあふれ、まさに「アイデアの勝利」と言える出来栄えだ。(80点)

 宇宙を遠く旅する科学力があるはずなのに思慮がまったくなく、凶悪ではないけれど凶暴でマナーが欠如している。侵略者のような悪意はないが、友情をはぐくめる相手でもない。故障した巨大UFOに乗った異星からの招かれざる客、われわれの美的基準からみれば醜悪な外見をした彼らを最初は人道的に援助していた地球人も、地球のルールを守ろうとしないエイリアンに差別意識を持ち排斥の動きを見せ始める。映画は価値観の違う者とのトラブルに対して、人間はどこまで寛容になれるかを問う。予想を裏切る展開の連続はオリジナリティにあふれ、まさに「アイデアの勝利」と言える出来栄えだ。

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