BOX 袴田事件 命とは - 福本次郎

◆日々、執行官の足音に脅えながら拘置所で朝を迎える死刑囚のみならず、判決を下した裁判官の人生も狂わせていく死刑制度。心理的に追い詰められた状況で自白を強要されていく恐ろしさが、生理的なリアルさをもって描かれる。(60点)

 警察の思い込み捜査、刑事による拷問のような取り調べ、さらに検事による高圧的な尋問。公権力の前では一個人はこれほどまでに無力で、魂ですら打ち砕かれていくものなのか。映画は、袴田事件は冤罪・捏造という仮説にたち、人を裁き人の命を奪う判決を出すことがいかに葛藤をともなうものであるかを物語る。日々、執行官の足音に脅えながら拘置所で朝を迎える死刑囚のみならず、判決を下した裁判官の人生も狂わせていく死刑制度。心理的に追い詰められた状況で自白を強要されていく恐ろしさが、生理的なリアルさをもって描かれる。

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プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 - 福本次郎

◆放たれた矢を足場にして城壁を這いあがった青年が、砦の中ではロープを使って空間を立体的に使ったアクションを見せる。短いカットを積み重ね、破壊と混乱の中で剣を振り回して敵をなぎ倒す主人公のスピード感に圧倒される。(50点)

 ほこりの舞うスラム街で少年が軒に登り屋根の上を走るかと思えば、血気にはやる青年が石弓から放たれた矢を足場にして城壁を這いあがる。さらに砦の中ではロープを使って空間を立体的に使ったアクションを見せる。短いカットを積み重ね、破壊と混乱の中で剣を振り回して敵をなぎ倒す主人公のスピード感に圧倒される。後半にはフックのついた鞭、手裏剣、毒蛇まで駆使する暗殺団が登場、彼らとの死闘は変化と意外性に富み、映像の疾走感は最後まで衰えない。

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座頭市 THE LAST - 福本次郎

座頭市 THE LAST

© 2010「座頭市 THE LAST」製作委員会

◆ただ歩いているだけなのに他のキャラクターが卑小に思えてしまう仲代達矢の圧倒的な存在感は、この映画の主人公がいったい誰なのかを忘れさせてしまうほど。しかし、平板な描き方のエピソードの連続には退屈を禁じえなかった。(40点)

 宴の準備で大勢の使用人が忙しく立ち働く屋敷の空気が、親分の登場で一瞬にして凍りつく。歩いているだけなのにスクリーンに映る他のキャラクターが卑小に思えてしまう仲代達矢の圧倒的な存在感は、この映画の主人公がいったい誰なのかを忘れさせてしまう。さらに、敵対する組織の親分を前にした魚の刺身についての口上は、大見得を切るように恐ろしく芝居がかっていて、壮大な物語が待ち受けているような期待を抱かせる。しかし、残念ながら仲代に対抗しうるほど印象に残った出演者は民間医に扮した原田芳雄のみで、平板な描き方のエピソードの連続には退屈を禁じえなかった。

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RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語 - 福本次郎

◆エリート人生に倦んだ男が子供のころの夢を追う姿は、「人はどう生きるべきか」という指針を示す。映画は新しいことを始めるのに年齢を問題にするのは言い訳に過ぎず、やる気があれば大抵の目標は叶うことを教えてくれる。(50点)

 電車が動き出すと、前方の窓から順番に1枚ずつ灯りがともるように車内に日光が差し込むシーンが、幻想的な美しさをともなって見る者を物語にいざなう。エリート人生に倦んだ男が子供のころに憧れた夢を追うために会社を辞めチャレンジする姿は、「人はどう生きるべきか」という指針を示し、新しいことを始めるのに年齢を問題にするのは言い訳に過ぎず、やる気があれば大抵の目標は叶えられるとこの映画は教えてくれる。住宅地から海岸沿い、そしてのどかな田園風景に敷かれた単線レールの上を走るクラシカルな電車が、郷愁と共に古いモノを大切にする気持ちを呼び起こす。

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あの夏の子供たち - 福本次郎

◆大げさな演技で苦悩を表現するわけでもなく、センチメンタルな音楽で感情を押し付けるわけでもない。経営者で家長である主人公の日常と死、そして残された妻子や同僚を淡々とスケッチし、人物の心理を想像させる余白を残す。(60点)

 ひっきりなしに鳴るケータイに応える男がパリの雑踏を颯爽とかき分ける姿が多忙ぶりを象徴し、娘たちをかわいがり妻のご機嫌をとる週末は深い愛を示す。ビジネスマンとしての一面と父親としての顔、どちらもエネルギッシュで魅力的な男は、経営者であり家長であるがゆえに胸中をだれにも打ち明けられない。映画は大げさな演技で苦悩を表現するわけでもなく、センチメンタルな音楽で感情を押し付けるわけでもない。主人公の日常と死、そして残された妻子や同僚を淡々とスケッチし、登場人物の心理を想像させる余白を残す。

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ボックス! - 福本次郎

ボックス!

© 2010 BOX! Production Committee

◆試合の2分間をワンカットで撮影する離れ業を見せ、演じている俳優たちもリアリティを出すために過酷なトレーニングを積んできたことを証明する。物語の虚構の中でも、彼らが流した汗と息遣い、パンチは本物の迫力があった。(60点)

 2人のボクサーが休む間もなく拳を交わす。両者とも一歩も引かず、顔面からボディとスタミナの続く限りパンチを繰り出す。カメラはその激闘の一部始終を、赤コーナーの上からニュートラルコーナーに移動し、さらにボクサーたちに迫るかと思えば引くという、前後左右上下へと流麗な動きでとらえる。李闘士男監督は、主人公とライバルの試合の第2ラウンドの2分間をワンカットで撮影する離れ業を見せ、俳優もまたリアリティを出すために積んできた過酷なトレーニングを実演する。物語の虚構の中でも、彼らが流した汗と息遣い、そして渾身の力を込めたパンチは本物に近い迫力があった。

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鉄男 THE BULLET MAN - 福本次郎

◆絶え間なくゆらぐ画面は見る者の気持ちを不安定に揺さぶり、金属をこすり合わせるような音楽は不快感を増幅させる。短いカットをつないだシュールな映像と腹の底に響く重低音のサウンドは、我慢の限界を試しているかのようだ。(20点)

 全編ハンディカメラで撮影され絶え間なくゆらぐ画面は見る者の気持ちを不安定に揺さぶり、金属をこすり合わせるような音楽は極限まで不快感を増幅させる。短いカットをつないだシュールな映像と腹の底に響く重低音のサウンドは、我慢の限界を探っているかのよう。この、恐ろしいまでに表現主義に走った作品には、もはや怒りしか覚えない。もしかして観客に怒りを味あわせることで、主人公が理性を失って暴走する感覚を体験させようとしているのなら、その試みは成功しているのだが。。。

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処刑人II - 福本次郎

処刑人II

◆何者も恐れず立ち向かい、悪党どもは容赦なく排除する。しかし、法に代わって犯罪者を裁く男たちの活躍を描く一方、コミカルな要素を盛り込んで冷血の制裁人というイメージを脱却させ、大量の死という血なまぐささを中和する。(50点)

 何者も恐れず立ち向かい、悪党どもは容赦なく排除する「処刑人」たちの、優雅で洗練された身のこなしが圧倒的にクールだ。特にリボルバーに1発だけ銃弾を込め、殺し屋同士が互いに銃口を向けあってトリガーを引きあう“対面型ロシアンルーレット”は、どちらが先に撃たれるか究極のチキンレースなのになぜか噴き出してしまうような雰囲気。映画は法に代わって犯罪者を裁く男たちの活躍を描く一方、コミカルな要素を盛り込むことで冷血の制裁人というイメージから脱却させ、人が大量に死ぬという血なまぐささを中和している。

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パーマネント野ばら - 福本次郎

パーマネント野ばら

© 2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

◆暴力、ギャンブル、浮気…。男に人生を振り回されながらも、小さな村でしか生きられない女たちの固い決意をパンチパーマで象徴し、どれほどひどい目に遇わされても男なしではいられない悲しい性をコミカルなオブラートに包む。(50点)

 小さな漁村にあるたった一軒の美容室に集まる女たちは、男運がとても悪い。それはみな生命力にあふれ自立し、男と対等以上にカネを稼ぐから。暴力、ギャンブル、浮気、妻の尻に敷かれた夫たちは、そのはけ口を他所に求め家庭に寄り付かなくなってしまうのだ。そんなどうしようもない男たちに人生を振り回されながらも、この村でしか生きられない女たちの固い決意をきつく巻いたパンチパーマで象徴する。どれほどひどい目に遇わされても男なしではいられない彼女たちの悲しい性、しかし映画はあえてそこを強調することなく、むしろコミカルなオブラートに包む。

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トロッコ - 福本次郎

◆親子のつながりすら希薄になる日本で、忙しなく働く母に育てられた幼い兄弟は、いつしか笑顔を失っていた。他人を思いやる余裕をなくした日本人母子が、台湾の人々との交流の中で疲れてざらついた心を癒していく過程を描く。(50点)

 日本人になりたかった祖父、台湾で暮らしたいと言う母、そして日台双方の血を半分ずつ引いている子供たち。親子のつながりすら希薄になる日本で、忙しなく働く母に育てられた幼い兄弟は、いつしか笑顔を失っていた。父の死をきっかけに、父の故郷に母と共に渡った子供たちは、そこで味わった経験のない人間同士の絆を発見していく。映画は、他人を思いやる余裕をなくした日本人母子が、山深い台湾の小さな村で生活する人々との交流の中で、疲れてざらついた心を癒していく過程を描く。

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ローラーガールズ・ダイアリー - 福本次郎

ローラーガールズ・ダイアリー

© 2009 BABE RUTHLESS PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved.

◆親が敷いたレールからはみ出して己の信じた道を進みたい。ふた昔前に流行ったローラーゲームを題材にとり、スピーディな試合シーンを再現。青春まっただ中のヒロインが自らの力で運命を切り開いていく姿は疾走感にあふれる。(60点)

 親が敷いたレールからはみ出して己の信じた道を進みたい。ティーンエージャーなら誰しも経験する自立の瞬間。今まで知らなかった世界に触れ、その磁力に引き寄せられたヒロインが、仲間やボーイフレンドに支えられて、両親との葛藤を乗り越えていく展開はいつの時代に共通する通過儀礼だ。映画はふた昔前に流行ったローラーゲームを題材にとり、スピーディな試合シーンを再現。青春まっただ中の彼女が自らの力で運命を切り開いていく過程は疾走感にあふれている。

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冷たい雨に撃て、約束の銃弾を - 福本次郎

◆沈んだブルーを強調したトーンはリアルよりも様式美を追求し、銃弾と血しぶきが舞うシーンは怜悧な心の痛みを感じさせる。友情よりも深い絆で結ばれた男たちの運命を共にしていく過程が、切なくも豊饒な死に昇華されていく。(60点)

 一度交わした約束は必ず果たす、たとえその先に破滅が待ち構えていても。沈んだブルーを強調したトーンはリアルよりも様式を追求し、銃弾が飛び交い血しぶきが舞うシーンの数々は残酷さよりも怜悧な心の痛みを感じさせる。自分の命よりもプライドを大切にするアウトローたちの、手にした拳銃で会話するかのような“男の世界”は洗練されたスタイルを持ち、映画はひとりのフランス人の復讐劇を通じて中国人が重んじる武侠の精神を描き切る。友情よりももっと深い絆で結ばれた男たちの運命を共にしていく過程が、限りなく切なくも豊饒な死に昇華されていく。

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音楽人 - 福本次郎

◆逆光の中に浮かび上がるようなしっとりとした奥行きのある映像があると思えば、カメラを常に動かすことでスピード感を出すなど見せ方に工夫があり、音楽を志す若者の夢と挫折、恋と再生という物語にアクセントを付けている。(50点)

 席を立って去ろうとする青年の袖をつまんだり、一緒に作曲しようと無理矢理同じ椅子の端に座らせる。男子に気持ちを伝えようとする女子のさりげなく計算された行動が非常にリアルだ。誘っているけれど相手に選択の余地を残し、自分にも逃げ道を作っておく、そんな微妙な駆け引きがディテール豊かに描かれていて共感を呼ぶ。逆光の中に浮かび上がるようなしっとりとした奥行きのある映像があると思えば、カメラを常に動かすことでスピード感を出して緩急を使い分けるなど見せ方にも工夫があり、音楽を志す若者の夢と挫折、恋と再生というありふれた物語にアクセントを付けている。

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パリより愛をこめて - 福本次郎

パリより愛をこめて

© 2009 EUROPACORP - M6 FILMS – GRIVE PRODUCTIONS – APIPOULAÏ PROD

◆スキンヘッドにヒゲ面という“いかにも”な風貌のジョン・トラボルタがスクリーン狭しと暴れまわる姿は、痛快かつ爽快。有無を言わせぬ暴力的性向はスタイリッシュの対極だが、迷いのないストレートな強さはカタルシスを覚える。(60点)

 絡んでくるチンピラをぶちのめし、銃口を向ける者は躊躇なくぶっ殺す。この恐ろしく粗野でスゴ腕の主人公をジョン・トラボルタが大熱演。スキンヘッドにヒゲ面という“いかにも”な風貌の男が問答無用の暴走でスクリーン狭しと暴れまわる姿は、痛快かつ爽快。有無を言わせぬ暴力的性向はスタイリッシュの対極にあるが、迷いのないストレートな強さは清涼なカタルシスさえ覚える。考える間を与えぬスピーディな展開と謎が謎を呼ぶ構成はミステリーの趣も備え、極限まで無駄をそぎ落としたストーリーテリングに時間が経つのを忘れてしまう。

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ランデブー! - 福本次郎

◆お人よしのヒロインが事件に巻き込まれ、誰が味方で誰が敵かもわからないまま東京中を逃げ回る。携帯電話の、すぐに連絡を取れるけれどつながらなかった時のフラストレーションを再現し、ミステリーの趣を加えた脚本が秀逸。(60点)

 舌足らずな話し方と困惑顔、感情がすぐに現れるヒロインの言動が保護本能を刺激する。疑っていても押し切られ、騙されていると気づいていてもいいなり。お人よしの彼女が殺人事件に巻き込まれ、誰が味方で誰が敵かもわからないまま東京中を逃げ回る。離れているときは話せるのに同じ場所にいるのにすれ違う、そんな携帯電話の、簡単に連絡を取れるけれどつながらなかった時のフラストレーションを再現しつつ、ミステリーの趣を加えた脚本が秀逸。全体的に漂う軽さとユルさをコミカルに処理して絶妙な味わいを醸し出す。

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