恐怖 - 福本次郎
◆大脳の特定部位に電気的刺激を与えると、幽体離脱が起きる。幻覚なのか現実なのか、新たな進化のステージととらえる女医とその誘惑から逃れられない若い研修医の葛藤がホラー映画の常識を超えた衝撃を生む、はずだったが・・・。(40点)
大脳の特定部位に電気的刺激を与えると、幽体離脱が起こる。意識は体内から乖離し、遠く離れた場所の情報を集めて戻ってくる。幻覚なのか現実なのか、人間の新たな進化のステージととらえる女医とその誘惑から逃れられない若い研修医。霊界と現世、生と死のはざまで繰り広げられる母娘の葛藤がホラー映画の常識を超えた衝撃を生む、はずだった。しかし、科学と心霊現象の混同が著しく、肉体と魂の定義も曖昧。何より死後の世界を真っ白な光でごまかしてしまったのがいけなかった。
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◆無邪気な子供の想像力の中で命と物語を与えられ、その使命を果たすおもちゃたち。彼らの冒険と人間との関係のなかで、持ち主の思い出がしみついたおもちゃは心を持っていると思わせるほど、豊かな感情が描き込まれている。(70点)
見渡す限りの平原で列車強盗と闘う保安官が宇宙人に囚われる・・・。無邪気な子供の想像力の中で命と物語を与えられ、その使命を果たすおもちゃたち。持ち主が成長するにつれ役割を終えた彼らはゴミとなるか、物置に放り込まれるか、いずれにしてもおもちゃは持ち主が大人になったら必要とされなくなる。そんな、自分たちが「価値のないもの」のレッテルを張られてしまったと誤解するおもちゃたちが哀れだ。彼らの冒険と人間との関係のなかで、持ち主の思い出がしみついたおもちゃは心を持っているのではと思わせるほど、豊かな感情が描き込まれている。
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© 2010「必死剣鳥刺し」製作委員会
◆あくまでも寡黙。死ぬべき時に死ねずいまだに生きている居心地の悪さと、救ってもらった恩義、その板挟みになりながらも個を捨て忠義を全うする道を選ぶ武士の魂を、豊川悦司がわずかに背中に感情の一端をのぞかせて表現する。(50点)
あくまでも寡黙、胸に秘めたる義憤は奥歯をかみしめてこらえる。乱れた世の中に心を痛め、その元凶を取り除くことに自らの最期をゆだねた侍が、運命のいたずらに命をもてあそばれる。死ぬべき時に死ねずいまだに生きている居心地の悪さと、救ってもらった恩義、その板挟みになりながらも個を捨て忠義を全うする道を選ぶ武士の魂を、豊川悦司がわずかに背中に感情の一端をのぞかせる演技で表現する。不可解な人事とその奥に隠された怨念、己の理想に背く命令への苦悩、組織のために捨て石にされる悲哀、そして決して口にできない愛。だれよりも強い正義感を持ちながらも、汚泥にまみれた現実に押しつぶされていく主人公が哀れなほど美しい。
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◆次第に水浸しになるサンマルコ広場、即席の高架歩道を組み立ている間にも海水は街中に侵入し、市民はゴム長靴にはきかえて対応する。水没しつつあるベネチア、もはや慣れっこになっているのかその光景は日常の延長のようだ。(50点)
ゴンドラに乗った歌手がギターの伴奏で高らかに歌いあげ、宮殿をそのまま改装し本物の美術品に囲まれたホテルのロビーからは歴史の重みが醸し出され、カーニバルの季節には仮面に素顔を隠した男女がダンスに興じる。そんな中世の街並みと雰囲気を残す水の都にも警報と共に高潮が押し寄せる。次第に水浸しになるサンマルコ広場、街の人々が即席の高架歩道を組み立ている間にも海水は街中に侵入し、ホテルや商店まで蝕むが、市民はゴム長靴にはきかえて対応する。水没しつつあるベネチア、もはや彼らには慣れっこになっているのか、その光景はどこか日常の延長のようだ。破滅は突然やってくるのではなくじわじわと予兆をはらんで忍び寄ってくる、危機感の希薄さが逆にその恐ろしさを増幅する。
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© 2009 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
◆泥酔した挙句しでかしたのは冗談で済まされることなのか、それとも命が狙われるような致命的な失敗なのか。コメディタッチの中にも時折リアルな暴力を盛り込んで、笑うのが後ろめたいという不思議な感覚を味あわせてくれる。(60点)
泥酔し、二日酔いの頭痛をかかえたまま朝目覚めると、あるべきものが消えていてないべきものが存在する。何が起きたのかまったく覚えておらず、状況を解明するために残された手がかりを集め、失われた記憶の断片を手繰り寄せる。自分たちがしでかしたのは冗談で済まされるのか、それとも命が狙われるような致命的な失敗なのか、映画はコメディタッチの中にも時折リアルな暴力を盛り込んで、本来笑うべきシーンに不吉な予感を漂わせ、腹の底から笑うのが後ろめたいという不思議な感覚を味あわせてくれる。
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© 2010 TWENTIETH CENTURY FOX
◆戸惑いや怯えは禁物、しかしどんな危険が迫ってくるかわかない状況では警戒心と慎重さも求められる。映画はプレデターの狩場に放り込まれた歴戦の勇士たちが味わう恐怖と、決して捨てない誇りや生き残る意思の強さを描く。(50点)
目覚めると落下している。猛スピードで地面が近づいてくる中で、状況を把握し、何をすべきかを判断する冷静さを持つ者だけがパラシュートを開いて生き延びる。異境にいきなり放り出されたつわものたちのサバイバル本能を目覚めさせる見事な導入部だ。戸惑いや怯えは禁物、しかしどんな危険が迫ってくるかわかないシチュエーションで警戒心と慎重さも求められる。確実なのは自分たちが獲物で、油断すると即命を失うこと。映画はプレデターの狩場に放り込まれた歴戦の勇士たちが味わう恐怖と、決して捨てない誇りや生き残る意思の強さを描く。
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◆体温のない体にも心は宿り、好きという気持ちに応えようとする。最初は相いれない禁断の関係に少年を拒絶していたヴァンパイアの少女の、空白を埋めてくれる彼が愛おしくなっていく様子が、寡黙かつ繊細な映像で描かれる。(60点)
永遠の若さと命を手に入れた代償は太陽を拝めない人生。昼間は暗くしたバスルームで息をひそめ、夜になると欲望を満たすために街を徘徊する。そんなヴァンパイアの少女が、誰にも愛されない少年と知り合いお互いに惹かれあっていく。体温のない体にも心は宿り、好きという気持ちに応えようとする。最初は相いれない禁断の関係に彼を拒絶していた彼女も、己の空白を埋めてくれる少年の存在が愛おしくなっていく様子が寡黙かつ繊細、余白をたっぷり取った寂寥感あふれる映像で描かれる。少年も少女も、感情表現を抑えることで不気味さの中に切なさを醸し出す。
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◆老刑事の執念と血気にはやる若い刑事のコンビが3億円事件の真実を明かそうとする過程で権力の闇に行きあたる姿を通じて、正義とは何かを問う。しかし、壮大な構想の割にはミステリーとしてのツメが甘く、消化不良感が残る。(40点)
時効により迷宮入りしてしまった3億円事件。その重要参考人と目された男の他殺体が川に浮かんでいたことから、事件は再び息を吹き返す。老刑事の執念と血気にはやる若い刑事のコンビが真実を明かそうとする過程で巨大な権力の闇に行きあたる姿を通じて、正義とは何かを問う。しかし、壮大な構想の割にはミステリーとしてのツメが甘く、点と点を結ぶ糸がとぎれとぎれになってしまい、途中をはしょられて結果だけを見せられたような消化不良感が残る。
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◆さまざまなトラップが施されたファラオの墓で、裏切り者を始末し横取りしようとする悪党を出し抜くヒロイン。抜群の行動力と胆力・鼻柱の強さを持つ彼女に次から次へと危機が襲いかかり、間一髪で難を逃れる姿は手に汗を握る。(40点)
さまざまなトラップが施されたファラオの墓から医師のミイラを持ち出そうとするヒロイン。仕掛けを見抜き、裏切り者を始末し、横取りしようとする悪党を出し抜く。抜群の行動力と胆力・鼻柱の強さを持つ彼女に次から次へと危機が襲いかかり、間一髪で難を逃れる姿は手に汗を握る。そんな導入部に、血沸き肉躍る冒険が彼女を待ち受けているのかと期待するが、舞台をパリに移すと急にトーンダウン。作り手はエスプリを効かせているつもりなのだろうが、まったくセンスが合わないコメディを延々と見せられるハメになる。
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© 2010 フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー
◆2時間余りの上映時間に収まりきれないほどの雑多な要素を凝縮する反面、主人公の思いは独白で、感情は音楽で丁寧に解説し、普段バラエティ番組しか見ない観客層をもてなすかのようなかゆい所に手が届くサービス精神を見せる。(50点)
圧倒的な物量作戦と人海戦術、カネと手間を惜しみなく掛けた壮大な映像と次から次へと迫る危機、そして階級と命令系統が複雑に入り組んだ人間関係の中で繰り広げられる葛藤とジレンマ。2時間余りの上映時間に収まりきれないほどの雑多な要素を凝縮する反面、主人公の思いは独白で、感情は音楽で丁寧に解説し、普段バラエティ番組しか見ない観客層をもてなすかのようなかゆい所に手が届くサービス精神を見せる。ただ、あらゆる表現が過剰で、その押しつけがましさは織田祐二の熱演以上に暑苦しい。
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◆セックスを伴う1対1のサービスを提供するエスコート嬢にとって、自分の判断・行動はすべて収入という結果に結び付く真剣勝負。映画は、「売春婦」という非合法な職業でありながら、プロとして強烈な向上心をもつ彼女の数日を追う。(50点)
顧客の要望を満たすだけでなく、何を欲しているかを素早く読み取り、期待に応える。セックスを伴う1対1のサービスを提供するエスコート嬢にとって、自分の判断・行動はすべて評価に結び付く真剣勝負、それは収入という結果に表れる。シビアな世界でトップクラスの売り上げを誇るヒロインの日常は、刺激的であると同時に魅力的でもあるが、カネに溺れるような雰囲気とはほど遠い。冷静に自己を見つめ、商品価値を高めるための投資や努力も怠らない。映画は、「売春婦」というある種後ろめたい職業でありながら、プロとして強烈な向上心をもつ彼女の数日を追う。
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◆持って生まれた心臓には宿っていない情けという気持ちが、金属の心臓には備わっていた皮肉。映画は主人公の心境の変化と、彼に降りかかる危険を振り払う過程を通じて、人格を損なわずに心を入れ替えることが可能かを問う。(50点)
“heart”とは、体に血液を循環させる臓器であると同時に喜怒哀楽や善悪愛憎といった感情の拠り所。職務上の任務であれば冷酷に徹していた主人公が、人工心臓を移植されると人の命を奪えなくなる。持って生まれた心臓には宿っていない情けという気持ちが、金属の心臓には備わっていた皮肉。映画はそんな男の心境の変化と、彼に降りかかる危険を振り払いつつ真実に近づいていく過程を通じて、肉体の機能は機械に代替させると同時に、人格を損なわずに心を入れ替えることも可能なのかを問う。しかし、歪んだ世界では正義や良識が排除の対象になるのだ。
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◆束縛を嫌い、命令を拒み、短慮であるが、人を楽しませる愛きょうもある。そんなヒロインの、魅力的とは言い難い人間的な素顔に迫る。その過程で彼女が口ずさむ親しみやすいメロディが、見終わった後も耳から離れなかった。(60点)
正しいと思った道理は曲げられない、「心の声」に従って生きるヒロイン。数々の軋轢と挫折、それでも信念を貫こうとする意志の強さは一種変人のようですらある。物語は修道女でありながら自作の歌で世界的ヒットを飛ばした彼女の波乱に満ちた半生を丁寧に追う。束縛を嫌い、命令を拒み、短慮であるが、人を楽しませる愛きょうもある。そんな実在の人物の、あまり魅力的とは言い難い人間的な素顔に迫る。その過程で彼女が口ずさむ親しみやすいメロディが、見終わった後もしばらく耳から離れなかった。
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◆立ち技打撃系だけでなく、関節技・寝技・締め技などの本格的なファイトシーンが圧倒的な重量感をともなってスクリーンに炸裂。感情を奪われた不死身の兵士たちがたどる運命を、彩度を落としたクールで無機質な映像に再現する。(50点)
筋肉の鎧を身に付けた男たちが拳をぶつけ合い、脚を相手にたたき込む。立ち技打撃系だけでなく、関節技・寝技・締め技・マウントポジションからのパンチなど、ここ10数年のうちにテレビ中継されるようになった総合格闘技によって確実に目が肥えた観客も納得できるくらいに本格的なファイトシーンが、圧倒的な重量感をともなってスクリーンに炸裂する。映画は、感情を消した上で極限まで鍛え上げ、薬物で強化された不死身の兵士たちが、兵器として消耗された揚句にたどる運命を、彩度を落としたフィルムにクールかつ無機質に再現する。
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© MMX NEW LINE PRODUCTIONS, INC.
◆夢であることが分かっていても、そこから逃れるには誰かに起こしてもらうしかない。映画は夢を見ている本人をその夢の中で追い詰めて刃をふるう殺人鬼を通じて、人間の潜在意識に巣食う悔恨の念に取りついた悪霊の執念を描く。(40点)
耐えがたいほどの睡魔に襲われ、目を開けているつもりでもつい意識が飛んでしまう。睡眠と覚醒のグレイゾーンで何とか正気を保とうとする若者たちは、いつの間にか夢の中に引きずり込まれている。そして、夢の中では夢であることが分かっていても、そこから逃れるためには誰かに起こしてもらうしかない。映画は夢を見ている本人をその夢の中で追い詰めて刃をふるう殺人鬼を通じて、人間の潜在意識に巣食う悔恨の念に取りついた悪霊の執念を描く。
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