カラフル - 福本次郎

カラフル

© 2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

◆潔癖で純粋、誰よりも深いところを見つめていた少年は、それゆえ世間を拒絶し、孤立し、きれいごとでは済まされない人間の営みに失望して命を絶つ。映画は彼の肉体に入った魂を通じて、人はみな支えあって生きていると訴える(50点)

 自己認識できているのに、誰なのかを思い出せない“意思”が世俗に返される。生き返ったけれど、どうリアクションすればいいのかわからない。手探りで周りの人々とかかわっていくうちに、人と人との距離感をつかんでいく。潔癖で純粋、誰よりもいちばん深いところを見つめているような少年だった元の肉体の持ち主は、それゆえ世間を拒絶し、孤立し、きれいごとでは済まされない人間の営みに失望して命を絶った事実が明らかになっていく。映画は、そんな少年の魂の再生を通じて、人はみな支えあって暮らしていると訴える。細密に再現された町並みや室内などの背景が強烈なリアリティを生み出している。

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ハナミズキ - 福本次郎

ハナミズキ

© 2010 映画「ハナミズキ」製作委員会

◆四季折々の風景の一瞬のきらめきを切り取る素晴らしい映像に、恋人たちの出会いから別れ、再生までの10年に及ぶ時の流れが余情たっぷりに焼きつけられる。離れていても一緒に眺めた景色や共に過ごしたときめきは忘れない。(60点)

 黄金色に染まった夕暮れの空に浮かび上がる灯台、雪のちらつく夜道で肩を並べて歩く高校生の後ろ姿、無数の陽光を反射する鈍色の海、青々と茂った草原を走る単線列車。四季折々の風景の一瞬のきらめきを切り取るかのような素晴らしい映像に、青春の輝ける瞬間を共有したいと願う恋人たちの出会いから別れ、再生までの10年に及ぶ時の流れが余情たっぷりに焼きつけられる。離れていても一緒に眺めた景色や共に過ごしたときめきは忘れない。物語の底に流れる一途な思いは決して色あせない情熱に満ちている。

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シークレット - 福本次郎

◆ある殺人事件の担当になった刑事が捜査を進めていくうちに、犯人は妻ではという疑念が胸に巣食い始める。真相を追うほどに逆に追い詰められ、苛立ちが焦燥に、怒りが恐怖に変わっていく主人公の心理描写が非常に繊細でリアルだ。(50点)

 交通事故の被害者はなぜプライベートを詳しく知っているのか。美しい妻は何を隠しているのか。そして謎の電話の主とどこからか自分を見張っている目。ある殺人事件の担当になった刑事が捜査を進めていくうちに、犯人は妻ではないかという思いが胸に巣食い始める。やがてその疑念は確信になり、犯行の目的がわからぬまま彼女をかばおうとして苦悩にさいなまれて行く。真相を追うほどに逆に追い詰められ、苛立ちが焦燥に、怒りが恐怖に変わっていく主人公の心理描写が非常に繊細でリアルだ。

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ようこそ、アムステルダム国立美術館へ - 福本次郎

ようこそ、アムステルダム国立美術館へ

© PvHFilm2008

◆美術館改築計画は市民団体の抵抗で頓挫、問題は解決されないまま先送りが決定され、さらに資金難や指導者の辞任にまで発展する。カメラはそんな予想外の展開にも“それもまた人間の営み”とばかりに客観的にレンズを向ける。(50点)

 国立の美術館=市民の税金で賄われている以上、この映画を通じて美術館側は改修工事を公開して再オープン時の華々しい広報活動に利用しようと目論んでいたのだろう。監督もまた、さまざまな立場の人々がひとつの目標に向かって力を合わせ、難題を克服する過程を通じて理性の勝利を描きたかったに違いない。しかし、現実は予定調和的なハッピーエンドに向かってくれるほど甘くはない。計画は市民団体の抵抗で頓挫、問題は解決されないまま先送りだけが決定され、さらに資金難や指導者の辞任にまで発展する。カメラはそんな予想外の展開にも“それもまた人間の営み”とばかりに客観的にレンズを向ける。

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キャタピラー - 福本次郎

◆手足だけでなく人間としての誇りまで奪われた男は、己の運命を呪い人生を憎む。旺盛な食欲と性欲が、死にきれなかった彼の希望なき未来を象徴する。映画は、傷痍軍人とその世話をする妻の姿を通じ、人間のエゴの正体に迫る。(70点)

 手足だけでなく誇りまで戦場で奪われてしまった男は、己の運命を呪い人生を憎む。食事も排せつも一人ではできず、その苛立ちは介護する妻に向けられ、まるで何かに復讐しているかのように彼女に辛く当たる。そんな主人公の、帝国軍人として潔く散れなかった後悔よりも、芋虫のようになってでも生きようとする “生”への執念がすさまじい。旺盛な食欲と疲れを知らぬ性欲が、死ぬべき時に死ねなかった彼の希望なき未来を象徴する。物語は、軍神と祭り上げられた傷痍軍人と妻の姿を通じ、人間のエゴの正体に迫る。

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特攻野郎Aチーム THE MOVIE - 福本次郎

特攻野郎Aチーム THE MOVIE

© 2010 TWENTIETH CENTURY FOX

◆主人公4人組がスリルを楽しむかのように暴れまわり、悪党どもをブチのめしていく過程が荒唐無稽であればある程、見る者の体内にでアドレナリンが放出されていく。その過程で描かれるのは男たちの固い絆と高いプライドだ。(50点)

 ディテールよりも派手な見せ場、理屈よりもアクション。主人公4人組がスリルを楽しむかのように暴れまわり、悪党どもをブチのめしていく過程が荒唐無稽であればある程、見る者の体内にでアドレナリンが放出されていく。医療用ヘリで戦闘ヘリと戦ったり、戦車に乗ったままパラシュートで降下したり、ビルを垂直に駆け下りたりと、映画は観客を驚かせるためのアイデアを次々に披露し、思考停止状態に追い込んでいく。そしてそこで描かれるのは男たちの固い絆と高いプライド。カネではなく名誉のために自ら危険に飛び込んでいく彼らの雄姿は、強さと賢さと優しさとユーモアを備えたクールな男の理想像だ。

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ベスト・キッド - 福本次郎

ベスト・キッド

◆老人が少年にカンフー教える過程で、鍛える目的は己に克つことだと諭し、内面の成長を促すのが心地よい。格闘技を知らない主人公が、トレーニングで技を磨きたくましくなっていく様子が、肉体は嘘をつかないことを証明する。(50点)

 文化の違い言葉の違いそして肌の色の違い。古い伝統と新しい文明が入り混じる北京で、米国から来た少年は誰にも気持ちを理解されない孤独を覚える。自分を主張して周囲に存在をアピールしなければ生き残っていけない故国とは異なり、人間関係が最優先される世界で彼は異分子として徹底的に排除される。それは容赦のない暴力となって彼を襲うが、一方で眠っていた彼の本能を目覚めさせる。老人が少年にカンフー教える過程で、鍛える目的は敵を倒すのではなく己に克つことだと諭し、内面の成長を促すのが心地よい。何より、最初はまったく格闘技を知らなかった主人公が、トレーニングで体を作り技を磨き、みるみるたくましくなっていく様子が、肉体は嘘をつかないことを証明する。

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きな子 ~見習い警察犬の物語~ - 福本次郎

◆落ちこぼれ犬飼育係のヒロインが、犬に育てるには、犬の気持ちを理解してやる気を引き出さなければならないことを学んでいく。愛情を注ぎ、犬の技量の向上とともに訓練士も成長していく過程がほのぼのとしたタッチで描かれる。(50点)

 物覚えが悪く、運動能力も劣り、食も細い。警察犬としてはおよそ素質のない犬を自分で育てようとするヒロイン。「手のかかる子ほどかわいい」といわれるが、落ちこぼれ犬の面倒を見ているうちに彼女もまた、犬に接するには、犬の考えを理解してやる気を引き出さなければならないことを学んでいく。犬の信頼を得るために仕事として世話する以上の愛情を注ぎ、犬の技量の向上とともに訓練士も成長していく過程がほのぼのとしたタッチで描かれる。

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瞳の奥の秘密 - 福本次郎

◆上空からスタジアムを俯瞰するカメラが、容疑者が拘束されるまでをワンショットに収めるシーンは、迷宮で道標を見失ったような物語を一気に現実に引き戻す強烈なインパクト。登場人物の焦燥感や息遣いが映像に焼きつけられる。(80点)

 上空からスタジアムを俯瞰するカメラがそのままフィールドでプレーする選手の頭上をかすめたかと思うと、満員の観客席にいる2人の男をとらえる。
さらに彼らが追う容疑者と共にバックヤードを走った後高い通路から飛び降り、容疑者が拘束されるまでをワンショットに収める。この恐ろしく手間のかかった
シーンは、迷宮で道標を見失ったような物語を一気に現実に引き戻す強烈なインパクト。登場人物の焦燥感や荒い息遣いがテンションの爆発しそうな映像に焼き
つけられる。

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ヤギと男と男と壁と - 福本次郎

◆いい年した大人がばかばかしい事象に真剣に取り組む姿にこっけいさをにじませ、珍奇な信念の先に生みだされるパワーは美しさを感じさせる。自信を失った記者が奇天烈な男を取材するなかで、信じる力で真実を見い出していく。(60点)

 ユアン・マクレガーがジェダイ戦士の講釈を受ける、このシーンだけでつかみはOK。ジョージ・クルーニーの大きく見開いた目でじっと見つめられる
と、魂の奥をのぞきこまれるような不安に襲われ、本当に命が奪われてしまうのではと思わせる。いい年した大人があまりにもばかばかしい事象に真剣に取り組
む姿にこっけいさをにじませ、その半面、珍奇な信念の先に生みだされるパワーは美しさすら感じさせる。映画は自信を失った新聞記者が奇天烈な男を取材する
なかで、疑うより信じる力で真実を見い出していく過程を描く。

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セラフィーヌの庭 - 福本次郎

◆彼女の筆致は独創性にあふれ、細部まで観察された果物や生い茂る木の葉は、リアリズムを超越した生命力に漲っている。余計な装飾をそぎ落とした物語は、神にささげるかのように過ごしたヒロインの生き方を反映させている。(60点)

 動物の血や灯油を盗み、泥や植物を採取して、さまざまな材料と混合して自家製の絵の具を作るヒロイン。昼間は家政婦の仕事に追われ、夜ろうそくの明かりを頼りに絵筆を握る。彼女の筆致は独創性にあふれ、細部まで観察された果物や生い茂る木の葉は、リアリズムを超越した生命力に漲っている。物語は独学で絵画の技法を編み出した悲運のアーティストの後半生を、余計な装飾をそぎ落として描く。そのそっけなさは、他人との交流を極力避け、人生を神にささげるかのように過ごした彼女の生き方を反映させている。

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ヒックとドラゴン - 福本次郎

ヒックとドラゴン

© 2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

◆少しの勇気と誠意を持ってコミュニケーションを取ればきっとわかりあえる。映画はバイキングの少年とドラゴンの交流を通じて、己の論理を相手に押しつけるのではなく、お互いが幸せになる道を探り合うことの大切さを描く。(40点)

 倒すべき敵として憎んでいたのに、傷ついて心細そうにしている。話が通じないと思っていたのに、相手も同じ思いを抱いている。心を持つ者同士なら、少しの勇気と誠意を持ってコミュニケーションを取ればきっとわかりあえる、そんな願いが作品からにじみ出る。重要なのは相手を思いやる気持ち、そして本当に闘うべき相手を見きわめることなのだ。映画はバイキングの少年とドラゴンの交流を通じて、己の論理を相手に押しつけるのではなく、お互いが幸せになるような道を探り合うことの大切さを描く。

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フローズン - 福本次郎

◆救助の見込みは薄く、生き残る可能性は時間と共に萎む。空中高く取り残されたリフトという限定空間における会話を中心に、楽観が怒りに、戸惑いが恐怖に、勇気が諦めに、希望が絶望に変わっていく心理をリアルに再現する。(60点)

 極寒のスキー場、突然停止したリフトに置き去りにされた3人の男女に迫りくる吹雪と低温、足下では猛獣が舌なめずりして待つ。救助が来る見込みは薄く、生き残る可能性は時間と共に萎んでいく。じわじわと訪れる凍傷と体力の低下に、彼らの胸にはさまざまな感情が交差する。映画は空中高く取り残されたリフトという限定空間における会話を中心に、楽観が怒りに、戸惑いが恐怖に、勇気が諦めに、そして希望が絶望に変わっていく心理をリアルに再現する。

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日本のいちばん長い夏 - 福本次郎

◆元高級官僚・日本軍首脳部の面々からは、死なずに済んだ民間人・軍人への謝罪や反省の弁は一言もない。安全な場所で戦争の行方を決定する彼らと前線の一兵卒を比較したとき、国の首脳の無能と無責任にはあきれ果ててしまう。(60点)

 もはや降伏は避けられない状況なのにポツダム宣言を“黙殺”したゆえ無駄に失われた十数万の命。元高級官僚・日本軍首脳部の面々は、1945年の夏に己がどれほど国のために最善を尽くしたかを滔々と訴える。そこには死なずに済んだ民間人・軍人への謝罪や反省の弁は一言もなく、ただ自己弁護に終始する。屁理屈や言い逃れるようなそぶりは見せず、自分たちがおかれた立場を冷静かつ客観的に顧みる風を装って巧みに政府というシステムや物故者へ責任転嫁するのだ。もちろんこの座談会が敗戦を総括する場でないことは分かっている、それでも安全な場所で戦争の行方を決定する官僚・参謀と戦場で明日をも知れない一兵卒を比較したとき、国の首脳たちの無能と無責任にはあきれ果ててしまう。

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シルビアのいる街で - 福本次郎

◆女が同じ場所を何度も通ったり、ショーウインドウに映る男を認めたりするたびに、男はばれるのではないかという緊張感と見失うのではという焦燥感に襲われる。その感情が絡み合い、映画はただならぬサスペンスに満たされる。(40点)

 カフェで偶然見かけた女の、男は後をつける。通りを渡り、繁華街を抜け、迷路のような裏路地を足早に歩く彼女を、少し距離を置いて追う。そのお世辞にも上手とは言えない尾行術は、女がいつかは男の存在に気付くのではないかという予感をはらみ、顔のアップと遠景の繰り返しでセリフがほとんどない展開の乏しい映像に奇妙なテンションをもたらしている。女が同じ場所を何度も通ったり、ショーウインドウに映る男を認めたり、突然振り返ったり立ち止まったり、角を急に曲がったりするたびに、男はばれるのではないかという緊張感と見失うのではという焦燥感に襲われる。彼のそれらの感情がみごとに絡み合い、映画はただならぬサスペンスに満たされていく。

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