狼の死刑宣告 - 佐々木貴之

◆男心を存分にくすぐらせてくれる(75点)

 チャールズ・ブロンソン主演の“デス・ウィッシュ”シリーズの第一弾でブロンソン映画の傑作として未だに人気の高い『狼よさらば』(74)の原作は、ブライアン・ガーフィールドの同名小説であり、その続編に当たる「Death Sentence」はシリーズの原作として映像化されなかった。だが、ブロンソン亡き後に映像化がやっと実現したのである。監督は、年一回のペースで世に送り出されている『ソウ』シリーズの生みの親であるジェームズ・ワン。

 投資会社勤務のヒューム(ケビン・ベーコン)は、ごく普通の真面目なサラリーマンであり、妻と息子二人の四人家族で幸せな生活を送っている。ある日、ヒュームはホッケーの試合を終えた長男ブレンダンを車に乗せて帰路に向かっている途中にガソリンが少なくなり、スタンドで給油をするが、その時、武装したギャング団がスタンドを襲撃する。ブレンダンはヒュームの目の前で首を刃物で切られてしまい、病院に搬送したものの死亡。連中は逮捕されたが、ヒュームは刑罰内容に納得できず、法の裁きを断念。ブレンダン殺しの張本人は釈放されてしまう。怒りに怒りを重ねたヒュームは、警察や法律といった手段を一切使わずに自らの手で連中を蹴散らすことを決意。復讐に燃える一匹狼となったヒュームの孤独な戦争が始まった。

 70年代前半から80年代半ば頃に多数製作されたヴィジランティ系アクション映画の雰囲気を再現させた本作は、単純明快でわかり易い上にかなり面白く仕上がっている。しかも男心を存分にくすぐらせてくれるのだからこんな作品を待っていたという男性には、持って来いだ。

 内容は、まさに『狼よさらば』に似通っている点も観られるが、アクション映画としての魅せ方は非常に秀逸であり、ド派手な爆破や激しいカーチェイスはないものの面白さをしっかりと味わえるように作られていることが何よりも良い。

 ヒュームが一人殺すと自身に危険がじわじわと迫り、それが更なる悲劇を招いてしまう。その後は面白さがヒートアップしていく。ブレンダンの革ジャンを着込み、頭を刈り、身も心も傷ついた復讐の狼、鬼、戦士として敵を追い求め、ショットガンで蹴散らしていく。ここで描かれる銃撃戦は、これぞスーパー・バイオレンス・アクションと呼ぶに相応しい描き方であり、強烈さを遺憾なく発揮している。しかもこれがかつての勧善懲悪系アクション映画のようにスカっと良い気分にさせてくれる。とにかく細かいことに拘ったり、ゴチャゴチャとツッコミを入れたりせずに素直に受け入れて楽しむべきだ。ようは、理屈抜きに楽しんだ者勝ちということなのである。

 アクションやバイオレンスも良いが、ケビン・ベーコンの姿も最高だ。先般公開された『96時間』も娘を拉致して傷物にした敵を相手にリーアム・ニーソン扮する元凄腕スパイのオヤジがハイテンションに大暴れするというアクション作品だったが、本作のケビンの暴走オヤジも良い味を発揮している。アクション面は、リーアムのオヤジは元凄腕スパイということでハードに描かれたが、本作のケビンのオヤジは普通の真面目なリーマンということで派手さは抑え目で丁度良い感じであるものの、それにしても少しやり過ぎているという感じもする。男臭さの面では、リーアムよりも遥かにケビンの方が勝っている。眉間にシワを寄せ、次第に寡黙な男へと変貌していく模様は、真の男への成長なのだ。しかも敵連中を蹴散らしていく姿からは、鶴田浩二や高倉健が活躍した一連の東映任侠ヤクザ映画や『ローリング・サンダー』(77)のウィリアム・ディヴェインを彷彿とさせ、これが面白さの一つだと捉えることもできる。とにかくアクションスターではないケビン・ベーコンのアウトロー系アクション映画のアンチヒーローは最高だと言いたい。

 古き良き時代の男性向け娯楽アクションの復活というべき本作は、アクション映画好き男児にはオススメだ!! と言うよりも絶対に観るべきだと言いたい!!

エスター - 小梶勝男

◆夫婦間にありがちな様々な問題を巧みに取り入れた脚本がよく出来ている。エスター役のイザベル・ファーマンの怪演が最大の見どころ(80点)

 洗面台の鏡が収納スペースの扉になっているタイプがある。中には大抵、薬が入っている。主人公の女性が薬を取り出し、扉を閉めたとする。そのとき、鏡に何が映っているだろうか?

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あなたは私の婿になる - 町田敦夫

◆サンドラ・ブロックが年下部下に偽装結婚を強要(80点)

 日本で初めて雇用機会均等法の恩恵を受け、同時にその歪みにさらされた女性キャリアたちが、今「アラフォー」と呼ばれる年代を迎えている。彼女たちの中には、もちろん結婚・出産を経験した者もいるが、様々な事情でそれをあきらめた(あるいは、あきらめるだけのチャンスさえつかめなかった)者もまた少なくない。本作のヒロインは、まさにそんな女性たちの分身だ。

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風が強く吹いている - 町田敦夫

◆林遣都と小出恵介が箱根駅伝に挑む(70点)

 マラソンの中継を最初から最後まで見ていられる御仁の気が知れない。延々と人が走っているだけの2時間だ。1打席ごとの攻防があるわけでもなければ、華麗なパスやシュートが連発されるわけでもなく、フンドシ姿の巨漢が次から次へと土俵に上がるわけでもない。たまに引き離しにかかったり、追い抜いたりといった「見せ場」もないではないが、いつ起こるかわからない(ヘタするとまったく起こらないかもしれない)その5分間のために、2時間テレビの前で過ごす気にはとてもなりません。

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戦場でワルツを - 小梶勝男

◆イスラエルのレバノン侵攻に伴う「サブラ・シャティーラの虐殺」を描くアニメーション・ドキュメンタリー。幻想的なアニメ映像がラストで一転して、ざらついた「真実」に変わるのが衝撃的だ(91点)

 イスラエル人のアリ・フォルマンが監督、脚本、製作を務め、イスラエル軍によるレバノン侵攻を描いたアニメーション。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、ゴールデン・グローブ賞の最優秀外国語映画賞など、数々の賞に輝いた。

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倫敦から来た男 - 小梶勝男

◆ジョルジュ・シムノンの原作をハンガリーの鬼才タル・ベーラが映画化。通常のドラマを否定したキャメラによる「観察」で、人生の現実に迫る傑作(92点)

 冒頭、キャメラは窓越しに巨大な客船を捉える。非常にゆっくりとしたパーン。船上でのやりとり、そして、船を下りて列車に乗る人々を、キャメラが移動しながら、どこまでも窓越しに追う。窓枠をまたぎながら、いつまでもカットは変わらない。その異様な緊張感は、本作が普通の映画ではないことを物語る。長いワンカットは、観客にドラマを見ているのではなく、もっとリアルな「何か」を観察しているような気にさせる。

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クヒオ大佐 - 小梶勝男

◆日本人なのにアメリカ人と名乗って女性を騙した実在の結婚詐欺師を、堺雅人が付け鼻と片言の日本語で演じる。岡本喜八作品にも通じる映画らしい映画(90点)

 本作は’二部構成’になっている。第一部は「血と砂と金」。岡本喜八監督の「血と砂」から取ったタイトルであることは明らかだ。第一部はごく短く、第二部の「クヒオ大佐」が本編となる。

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私の中のあなた - 佐々木貴之

◆観る者に温かさと優しさを提供し安らかな気持ちにさせる(85点)

 アメリカの人気作家ジョディ・ピコーの大ベストセラー小説「わたしのなかのあなた」をニック・カサヴェテス監督が映画化。

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あの日、欲望の大地で - 山口拓朗

◆ミステリアスで奥の深いヒューマンドラマ(75点)

 高級レストランのマネージャーのシルビア(シャリーズ・セロン)は、颯爽と仕事をこなす姿とは裏腹に、私生活では、男たちとの行きずりの肉体関係や、自傷行為をくり返していた。彼女が時折思い出すのは、かつて自分の母ジーナ(キム・ベイシンガー)を襲ったある事故のことだった……。

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ロフト. - 小梶勝男

◆ベルギーで大ヒットしたサスペンス。よく練られた脚本に巧みな語り口で十分に楽しめるエンタティンメント(72点)

 珍しいベルギー映画。ベルギーでは国民の10人に1人が見たというほど大ヒットしたらしい。それも納得出来る。確かに面白かった。

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ワイルド・スピード MAX - 佐々木貴之

◆シリーズのファンなら絶対必見だ(75点)

 人気カー・アクション『ワイルド・スピード』のシリーズ第四弾。今回はヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースターといった第一弾のメンバーが再集結した。これはシリーズのファンにとってはたまらなく嬉しいことだろう。この四人に加えて第三弾に出演した中国系俳優サン・カンが前作と同じ役名で出演。監督は第三弾を手懸けたジャスティン・リン。

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私の中のあなた - 町田敦夫

◆見る者の死生観を揺さぶる良作(70点)

 お見舞いに行ったときなどに、私たちは何の気なしに「病気に負けるな」なんてことを口にする。さしたるためらいも疑問もなくそれが言えるのは、病気と戦うことが絶対的な善であり、戦えば必ず勝てると信じているからだ。だが、肉親の健康を犠牲にしなければ、病気と戦えないのだとしたら? そうまでして戦ってもなお、病気に打ち勝てないのだとしたら?

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インフォーマント! - 岡本太陽

◆マット・デイモンが13.5キロ増量して挑んだ嘘つきおじさん(75点)

 『トラフィック』『オーシャンズ11』のスティーヴン・ソダーバーグ監督最新作『インフォーマント!(原題:THE INFORMANT!)』。タイトルの”インフォーマント”とは内部告発者や密告者を意味し、それにエクスクラメーションマーク(俗に言うビックリマーク)が付いている。それゆえに、楽しいコメディ映画を想像してしまうだろう。確かに、これはブラックコメディ映画。しかし、タイトルの”!”は実は「こんなとんでもない可笑しな奴が実際に世の中にいたぞ!」というニュアンスを含むものなのだ。

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空気人形 - 山口拓朗

◆単純化できない愛の本質に迫ろうとしているかのようだ(85点)

 「歩いても 歩いても」(2008年)で人間のリアルな心情を描いた是枝監督が、まったく異なるアプローチで再び傑作を作り上げた。

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ハイキック・ガール! - 小梶勝男

◆日本の伝統空手をそのままアクションに取り入れて、娯楽作に仕上げた本当の意味での「空手映画」。主演の武田梨奈は日本の女子アクションを担う存在になっていくと期待出来る(83点)

 ブルース・リーの「燃えよドラゴン」が日本公開され、ブームになった1970年代、香港から続々と上陸したクンフー映画は「空手映画」と呼ばれていた。だが、当然ながらアクションに使われていたのは日本の伝統空手ではなく、中国拳法、功夫だった。例外として、山下タダシの「ザ・カラテ」シリーズなどもあったが、伝統空手がベースとはいえ、動きはかなり誇張されていたように記憶している。

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