ボローニャの夕暮れ - 渡まち子

◆哀しみを共有しながらしっかりと生き抜く、したたかな庶民のハッピーエンド(70点)

 ファシズムの時代を背景に、ある家族に起こった悲劇からそれぞれの愛情の形を描く人間ドラマだ。名もない家族が主人公の、ささやかな物語だが、イタリア映画の底力を感じさせる秀作である。1938年、イタリア・ボローニャで慎ましく暮らすカサーリ家は、美術教師の父ミケーレ、美しい母デリア、地味な外見と内気な性格の17歳の娘ジョヴァンナの3人家族。ミケーレは娘を溺愛するあまり、学校で人気の男子生徒ダマストリに娘に好意を示すようにやんわりと強要する。そうとは知らず喜ぶジョヴァンナの姿を見て冷静な母はミケーレを非難する。やがて学校で女子生徒の殺害事件が。それはジョヴァンナの犯行によるものだった…。

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さんかく - 渡まち子

◆ビミョーな三角関係には、おしゃれなかけひきや真剣な修羅場もなく、ひたすらドンくさい(55点)

 「あぁ、なんてダメな人たちなんだろう」。見ている間に感じるこの軽い嫌悪感が、見終わった後に自らをふりかえる反省材料へと変貌する。この小さな作品が持つ意外なほどの力に驚いてしまう。30歳の百瀬は自信過剰なダメ男で、同棲中の佳代とは倦怠期。二人の住む部屋に佳代の妹で15歳の桃が、夏休みを利用して遊びにくる。天然なのか早熟なのか、奔放な桃に翻弄される百瀬は、すっかり彼女に夢中になるのだが…。

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ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション - 渡まち子

◆久々の新作だが、第2作の「ザ・リターン」の続きというより、第一作の物語の続編という位置付けだ(50点)

 90年代を代表するSFアクション「ユニバーサル・ソルジャー」の18年ぶりの新作は、オヤジパワーを炸裂させながら、スタントなしで挑む格闘シーンを満喫したい。物語の発端は、チェチェン民族主義のテロリストが、ロシア首相の子息を拉致・誘拐し、原子力発電所を占拠したこと。犯人は、人質の解放と引き換えに独立を要求する。テログループには、寝返った科学者が作り出した最先端の兵士再生プログラム“NGU”によって誕生した最強の兵士がいた。一方、このテロに対抗できる戦力として、社会に戻るためリハビリ中だった初代のユニソルのリュックを、再び兵士として送り込むことに。NGUの最強ソルジャーVS初期兵士再生プログラム“ユニソル”のリュックが対峙する。さらに、冷凍冬眠から覚めた旧敵スコットが現われるが…。

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ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション - 福本次郎

◆立ち技打撃系だけでなく、関節技・寝技・締め技などの本格的なファイトシーンが圧倒的な重量感をともなってスクリーンに炸裂。感情を奪われた不死身の兵士たちがたどる運命を、彩度を落としたクールで無機質な映像に再現する。(50点)

 筋肉の鎧を身に付けた男たちが拳をぶつけ合い、脚を相手にたたき込む。立ち技打撃系だけでなく、関節技・寝技・締め技・マウントポジションからのパンチなど、ここ10数年のうちにテレビ中継されるようになった総合格闘技によって確実に目が肥えた観客も納得できるくらいに本格的なファイトシーンが、圧倒的な重量感をともなってスクリーンに炸裂する。映画は、感情を消した上で極限まで鍛え上げ、薬物で強化された不死身の兵士たちが、兵器として消耗された揚句にたどる運命を、彩度を落としたフィルムにクールかつ無機質に再現する。

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エルム街の悪夢 - 福本次郎

エルム街の悪夢

© MMX NEW LINE PRODUCTIONS, INC.

◆夢であることが分かっていても、そこから逃れるには誰かに起こしてもらうしかない。映画は夢を見ている本人をその夢の中で追い詰めて刃をふるう殺人鬼を通じて、人間の潜在意識に巣食う悔恨の念に取りついた悪霊の執念を描く。(40点)

 耐えがたいほどの睡魔に襲われ、目を開けているつもりでもつい意識が飛んでしまう。睡眠と覚醒のグレイゾーンで何とか正気を保とうとする若者たちは、いつの間にか夢の中に引きずり込まれている。そして、夢の中では夢であることが分かっていても、そこから逃れるためには誰かに起こしてもらうしかない。映画は夢を見ている本人をその夢の中で追い詰めて刃をふるう殺人鬼を通じて、人間の潜在意識に巣食う悔恨の念に取りついた悪霊の執念を描く。

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イエロー・ハンカチーフ - 町田敦夫

◆寄る辺なき魂が、孤独という共通項で響き合う(65点)

 ご存じ、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(77)のリメイク作。オリジナル版で高倉健が演じた前科者にはウィリアム・ハートが、また武田鉄矢と桃井かおりが演じた若いカップルにはエディ・レッドメインとクリステン・スチュワートが扮している。桃井かおりは小さな(しかし濃い)役で友情出演。監督はインド出身のウダヤン・プラサッドが務めた。2008年作品が今になって公開される事情は定かではないが、もしかするとスチュワート主演の『トワイライト』シリーズが大ヒットした恩恵かもしれない。

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SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム - 佐々木貴之

◆入江悠のアイデア抜群の脚本、見せ場作りの巧さは今作でも健在であり、その出来栄えは明らかに前作を超越している(75点)

 日本インディーズ映画史上最強の伝説を築き上げた青春音楽ドラマ『SR サイタマノラッパー』の続編。監督、脚本は前作同様に入江悠。

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イエロー・ハンカチーフ - 福本次郎

◆もしかしたらという期待と、やっぱり駄目だろうなというあきらめ。服役を終えたばかりの男は、一通の手紙に願いを託す。将来に甘い夢などすでになく、わずかに残った希望だけを頼りに旅を続ける主人公の後ろ姿が印象的だ。(60点)

 もしかしたらという期待と、やっぱり駄目だろうなというあきらめ。服役を終えたばかりの男は、一通の手紙に願いを託す。誤解と短慮から妻と気まずい別れ方をしたまま長い歳月が経ち、残っているのは後悔だけ。彼女が今も待っているかどうかひとりで確認する勇気を持てず、若いカップルに後押しされる。将来に甘い夢などすでになく、わずかに残った希望だけを頼りに旅を続ける主人公の後ろ姿が印象的だ。過去という十字架を背負ったウィリアム・ハートの寡黙な背中は圧倒的な哀しみをたたえていた。

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モダン・ライフ - 福本次郎

◆山奥のやせ細った土地の農家が直面する厳しい実態を、ひたすら農民たちへの聞き取りという構成で明らかにしていく。エコロジーやスローライフなどの耳に心地よい言葉は一切なく、農村への憧れなど所詮は幻想であると喝破する。(50点)

 山奥のやせ細った土地にしがみつくように農家の人々は暮らしている。耕作地も牧草地も少ないためにスケールの小さな農業しか展開できず、事業としては先細りするばかり。家族の結びつきを大切にし地元を守ろうとしているにもかかわらず、未来に明るい展望を抱けず後継者不足も深刻。そんな農業従事者が直面する厳しい実態を、ひたすら農民たちへの聞き取りという構成だけで明らかにしていく。エコロジーやロハス、オーガニックやスローライフなどの耳に心地よい言葉はここでは一切口にのぼることはなく、農村への憧れなど所詮は広告会社が作り出した幻想であると喝破する。

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イエロー・ハンカチーフ - 前田有一

◆山田監督の偉大さ再確認(55点)

 山田洋次監督が手がけた多くは大衆に愛される映画作品だが、その最高峰に「幸福の黄色いハンカチ」(77年)を独断で挙げたとしても、反論の声はそう多くあるまい。国産ロードムービーの大成功例にして、あまりにも有名な号泣エンディング。日本人の琴線に触れる一途な愛の物語の、しかし原作はベトナム帰還兵のエピソードを綴ったアメリカ人ピート・ハミルによるコラムである。そんな縁もあってか、このたびアメリカで「幸福の黄色いハンカチ」がリメイクされることになった。

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アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち - 渡まち子

◆歌手で女優でもあるビルヒニア・ルーケの貫録の美しさにも見惚れてしまう(60点)

 タンゴを愛する人たちにとって至福の音楽ドキュメンタリーだろう。高齢だが音楽への情熱がほとばしる巨匠たちの演奏に感動必至だ。2006年、40年代から50年代にかけて活躍し、アルゼンチンタンゴの黄金期を築いた世界的音楽家たちが、ブエノスアイレスに集まる。アルバム「CAFE DE LOS MAESTROS」に収める曲を演奏するためだ。タンゴに一生を捧げた彼らは、タンゴの魅力と共に自らの激動の人生を語り始める…。

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エルム街の悪夢 - 前田有一

エルム街の悪夢

© MMX NEW LINE PRODUCTIONS, INC.

◆マニア受けが悪そうな分、一般人には普通に楽しい(70点)

 多くのホラーヒーローが活躍した80年代。ここ数年はあたかもブームのように、「ハロウィン」のブギーマンや「13日の金曜日」のジェイソンが、リメイクによりカムバックを果たした。そしていよいよ『エルム街の悪夢』のフレディが、満を持して登場する。

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ザ・ロード - 前田有一

◆胃が痛くなるほどの絶望感(75点)

 この前週公開となった「ザ・ウォーカー」と本作は、世界設定もプロットもほとんど同じである。文明が崩壊し、靴やら石鹸が一番の貴重品。大事なものを抱えた主人公は、ひたすら目的地へ孤独な旅を続ける。

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イエロー・ハンカチーフ - 渡まち子

◆オリジナルや原作を知る観客にとっては、結果は分かっているのだが、それでも何ともいえない幸福感がじんわりと胸に広がる(60点)

 日本映画「幸福の黄色いハンカチ」のハリウッド・リメイクだが、欧米で“黄色の布”と言えば、それは「Tie a Yellow Ribbon」の歌を連想し、兵士の無事と帰還を祈るというもの。その意味で黄色の布のモチーフは、日本とアメリカでは少し受け取り方が違うのかもしれない。6年の刑期を終えて出所した中年の男ブレッド。出迎えもなく一人で街の食堂でビールを飲む。偶然出会った若い娘マーティーンと、変わり者の青年ゴーディと共に、元妻メイが暮らすニューオリンズを目指す旅に出ることに。やがてブレッドは自分とメイとの間に起こった不幸な出来事と、ある約束を話し始めた…。

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SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム - 福本次郎

◆平凡な日常から脱却しようともがく、もはや青春を卒業した女たちの魂の叫びを短く刻んだリズムで解き放つ。セリフにすればクサすぎる思いもラップだとストレートに口にできる、その素直なエネルギーがスクリーンに爆発する。(90点)

 カッコつけるのではなく、いちばん弱いところダメなところカッコ悪いところを脚韻を踏んだ言葉でさらけ出す。冷静に己を見つめ、客観的に対峙し、「ダサくても一生懸命に生きているんだ」と主張する。思い通りにならないもどかしさと周囲に理解されない不満、そんな日常から脱却しようともがくもはや青春を卒業した女たちの冒険と挫折。映画は彼女たちの魂の叫びを短く刻んだリズムに乗せて解き放つ。セリフにすればクサすぎる思いもラップだとストレートに口にできる、その素直なエネルギーがスクリーンに爆発する。

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