ウディ・アレンの夢と犯罪 - 岡本太陽

◆ウディ・アレン監督によるロンドンが舞台のスリラー作品(55点)

 60年代に映画監督デビューして以来、コンスタントに映画を撮り続けているアメリカ人映画監督ウディ・アレン。彼は俳優としても活躍しており、自身が監督する作品にはしばしば出演している。ウディ・アレンが最も彼らしさを発揮するのは『アニー・ホール』『マンハッタン』に代表される様なニューヨークを舞台にしたコメディ。ところが2005年の『マッチポイント』と2006年の『タロットカード殺人事件』はロンドンを舞台とし異彩を放った。そして2008年、彼は再びロンドンを舞台にした作品を監督した。『ウディ・アレンの夢と犯罪(原題:CASSANDRA’S DREAM)』というサスペンス映画である。

 現代のロンドン、そこにはある2人の仲の良い兄弟がいた。実際にはとても兄弟には見えないユアン・マクレガーとコリン・ファレルがそれぞれ扮するイアンとテリーは性格も将来の夢も全く違う兄弟。父の経営するレストランを手伝うイアンはカリフォルニアでホテルビジネスを成功させたい野心家で、それとは反対に自動車修理工のテリーは酒とギャンブルを愛し、恋人ケイト(サリー・ホーキンス)と過ごす日々にささやかな幸せを感じていた。そんな彼らが格安で売りに出されていた"カサンドラ・ドリーム"というボートを共同購入したことから、2人は運命の航海へ導かれる。

 イアンはある日、若く美しい女優アンジェラ(ヘイリー・アトウェル)と偶然出会い、彼女に心を奪われ、彼女とカリフォルニアで優雅に暮らす事を夢見る。しかしイアンの未来に明るい光が差し込み始めたその時、弟のテリーはギャンブルによって多大な借金を背負ってしまう。各々の理由で金が必要な兄弟は、絶好のタイミングでアメリカに住む金持ちの伯父ハワード(トム・ウィルキンソン)がロンドンを訪れた際に金の相談を持ち掛ける。ハワードはすんなり甥達の頼みを承諾するが、金を工面する代わりに、ある条件を言い渡す。それはある男を殺害するというもの。そしてこの事がイアンとテリーの人生の航路を大きく荒らしてゆく…。

 本作でも取り上げられている「犯罪」は以前から度々アレン氏の作品に登場するテーマ。また、タイトルが悲劇の予言者カサンドラである事からも分かる通り、今回彼はギリシャ神話からもいくつかのアイデアを取り入れ、物語を普遍的な悲劇として昇華させた。作曲家フィリップ・グラス(『めぐりあう時間たち』など)のまるで物語を紡ぎ出していく様なドラマチックなサウンドトラックが一瞬、この映画がウディ・アレン作である事を忘れさせてしまうが、台詞だけを見た場合、やはりこれもいつもの彼の作品。伯父に諭され、兄弟が転落の一途を辿る様は滑稽にすら映り、また特に恋人同士が会話する際の台詞回しはやはりアレン氏独特のリズム感を持っている。

 アレン氏が今回描くのは犯罪という場面においての2種類の人間の存在。例えば、ある者は犯罪を犯した後に罪の意識に囚われるが、ある者は平然としていられる。その人間の切なさをアレン氏はイアン&テリー兄弟を通してあぶり出してゆく。物語のキーパーソンであるトム・ウィルキンソン扮するハワードはダメダメな兄弟を利用して彼らに汚い仕事をさせようとする道徳心の欠如した者。彼は兄弟に殺しの説得をする際にこう言う、「family is family, blood is blood.(家族は家族、血筋は血筋だ。)」。罪の意識に囚われようとも、そうでなくとも、彼らは同じ血を分けた兄弟。腐敗した伯父に破滅へと誘導される兄弟は、彼らの選択に相応しい結果を被る。

岡本太陽

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