BUG/バグ - 岡本太陽

虫が体の中で血液を餌に増殖しているという妄想が狂気を呼ぶ衝撃的作品(75点)

BUG/バグ

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 舞台『Killer Joe』のヒット等で知られるトレイシー・レッツ。彼の演劇では登場人物が必ず死ぬか裸になる事で有名だ。2004年2月にオフ・ブロードウェイの舞台としてオープンした『BUG』も彼による作品で、この舞台は観客に衝撃を与えた。そのトレイシー・レッツの舞台が映画になって2007年にアメリカで公開された。映画版『BUG/バグ(原題:BUG)』にはアシュレイ・ジャッド、ハリー・コニック・Jr.、マイケル・シャノン等の俳優達が集った。

 オクラホマ州のとあるモーテルに1人で住むアグネスは無言電話に悩まされていた。彼女はそれは刑務所から出所したばかりの元夫ジェリー・ゴスによるものだと推測するが、確信はなかった、なぜなら電話の向こうの相手は言葉を発しないからだ。その後アグネスはウェイトレスとして働いているレズビアンバーに行き、そこで同僚のR.C.にある男性を紹介される。ピーター・エヴァンスと名乗るその男とアグネスは奇妙な関連性を感じ、2人はベッドを共にする。彼らが寝ている時、ピーターは虫に噛まれたと言って起き上がる。これが悲劇のはじまりだった…。

 映画版『BUG/バグ』を監督したのはウィリアム・フリードキン。『フレンチコネクション』や『エクソシスト』等数々の傑作を生み出している彼は、今回トレイシー・レッツの舞台に惚れ込み映画化を熱望。映画は世にも恐ろしく、そして可笑しい衝撃的な作品に仕上がっている。

 虫が体の中で血液を餌に増殖しているという妄想が狂気を呼ぶこの作品は昨年夏にアメリカで公開され、カルト的人気を誇った。漫画的な要素を大いに含んでいるこの作品は日本のマニア達にも受ける事は間違いない。アグネスとピーターがはじめてセックスをするまではわりとスローなペースで物語は展開するのだが、その後の展開は強烈で絶句してしまう。この映画は『ソウ』や『ホステル』のライオンズゲート配給なのだが、多少気味の悪いシーンはあるものの、アグネスとピーターのやりとりに笑ってしまうのが前の2つの作品と大きく違う点で、それがこの映画の魅力で賢い点だ。

 人間の現実的な心理の喪失を見事に表現したアシュレイ・ジャッドとマイケル・シャノンの演技は目を見張るものがある。彼らが会話をしている時でも虫をはたく動作を忘れないのが印象的だ。アシュレイ・ジャッドは日本でもお馴染みだが、マイケル・シャノンはまだあまり知られてないだろう。近年では『ワールド・トレード・センター』等に出演している俳優で、彼はオリジナルの舞台版『BUG』でも同じ役で出演していた。彼の演技には彼が本当に狂ってしまったのではないかと思わされる。

 『BUG/バグ』では現実の向こう側を描いているわけだが、この映画を観ていると一体現実とは何なのかと考えさせられる。この映画でアグネスははじめピーターには見えている虫が見えない。しかしだんだんと彼女にも虫が見え始める。それは虫が実際にそこにいるからか、それとも彼女自身が見たいからか?時に、なんとなく蚊が飛んでいる様な音が聞こえたりする人もいると思う。探しても見つからない蚊。その音は現実なのか?トレイシー・レッツ脚本による『BUG/バグ』はかなり非現実的に物語を描いているものの、同時に誰しもピーターやアグネスの様になる要素は持ち合わせているとわたしたちに伝える。

 トレイシー・レッツの物語に登場する人物は必ず死ぬか裸になるのだが、このウィリアム・フリードキン監督の『BUG/バグ』でもマイケル・シャノンが全裸で演技をしている。アシュレイ・ジャドは裸にはならないものの、最後にどうしてピーターの体の中に虫が入り込んでしまったのかを語る時には彼女は心の底から丸裸になってしまい、こう叫ぶ、「アイ アム ザ スーパー マザーバグ!!」。ここでは爆笑してしまうが、彼女がそう叫ぶ時、観ている側も拳を突き上げたくなるだろう。

岡本太陽

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