BUG/バグ - 前田有一

虫が体内に入る妄想にとりつかれた男の崩壊過程(60点)

BUG/バグ

© MMVII Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

 妄想と現実の境目はどこにあるのか。マトリックスの仮想現実を人々は本物と信じ過ごしたように、信じるものにはたとえ幻でも主観的には現実との差異はない。三枚目の男性でも、恋人の目にはハンサムな王子様に映るのだ。その様子は幻(現実?)の外側の人間にとっては、どこか滑稽だったりする。

 オクラホマ州のレストランでウェイトレスをするアグネス(アシュレイ・ジャッド)は、同僚の友人から最近知り合ったピーター(マイケル・シャノン)という男を紹介される。元夫からDV被害にあっていたアグネスは、どこか陰のあるピーターとうまがあった。ピーターが語るには、自分は人に見えないほど小さい"虫"に長年悩まされているという。

 ヒロインが住むモーテルにもその虫はやってきた。アグネスには虫じたいは見えないが、ピーターの体には刺された無数の痕があり、その数は日々増えていく。アグネスはピーターの語る"真実"の世界に取り込まれ、外界から徐々に孤立。体内に侵入する虫との闘いにあけくれる二人の姿は、やがて狂気そのものの様相を呈していく。

 虫の存在を妄想と決め付け映画を見る観客の目には、二人の人間の崩壊過程はときにマヌケで笑いたくなるほど。だがそれは本当に妄想と断じてよいものなのか。少なくとも二人にとって虫は深刻な現実問題で、それに対する恐怖も本物だ。映画は二人だけの現実と、外部から見たそれを鮮やかに対比させた居心地の悪い映像世界を提供する。

 クライマックスに向け、徐々に狂いゆく主人公たちを二人の役者が好演。マイケル・シャノンは元となった舞台劇でも同じ役柄を演じており、その役作りには死角なし。自称・湾岸戦争帰りのピーターが、軍の陰謀だと真剣にアグネスに語る場面は本当に怖い。えらい長台詞をまくしたてるので、よけいに圧倒される。その目はもう、どこから見ても真性である。

 妄想に取り付かれた人間に興味がある人など、そう多くいるものではないと思うが、そうした人には一見の価値がある異様な映画。逆に、普通のサスペンスを見たい人にはまったくすすめられない。なおエンドロールの最中に挿入されるイメージが、不気味な余韻を残す。最後までご鑑賞のほど。

前田有一

【おすすめサイト】