◆2人の友情が惰性的で危ういものであることは誰の目にも明らかなのだが、マーサがこの偽りの“親友”に依存し執着しているという現実がリアルで怖い(60点)
個性派監督ソダーバーグの原点を見るような低予算のインディペンデント映画で、孤独な人間に潜む狂気が冷徹な視点で描かれる。オハイオ州の小さな人形工場に務めるマーサとカイルは何となく友情で結ばれていた。カイルは、工場に新しく入ったシングルマザーのローズと親密になるが、それを知ったマーサは動揺する。ゆるく恒常的だった関係が壊れ始めた中、殺人事件が起こり、彼らの日常は崩壊していくのだが…。
名もない田舎町のシケた風景。単調な仕事と生活。何の取り柄もないような登場人物。そんな匿名性が根底にあるからこそ、終盤に起こる殺人事件と空虚な日常がくっきりと対比する。中年女性のマーサは病気の父の看病と工場の仕事だけが日常。若い青年であるカイルはと言えば、生きる目標もなく母親と同居して暮らしている。この2人の友情が惰性的で危ういものであることは誰の目にも明らかなのだが、マーサがこの偽りの“親友”に依存し執着しているという現実がリアルで怖い。2人の間に割って入る形のローズのキャラも一筋縄ではいかず、盗癖があったり、他人を利用したり、元恋人とモメていたりと、不審なことだらけだ。そんな3人に降りかかる殺人事件は、人間の心の底に巣食う孤独を浮き彫りにする形で解決を見る。一方で、殺人という悲劇をさらりと通過して、またしても淡々とした日常が続く郊外の町独特の起伏のない生活に、冷やりとした空気を感じた。スティーヴン・ソダーバーグが監督、撮影、編集まで担当。プロの俳優を使わず、撮影はキャストの自宅という徹底した実験的手法で作られている。インディーズ精神に貫かれたスタイルが緊張感を生む結果となった。
(渡まち子)