◆アフロヘアーの筋肉隆なタフガイが拳銃にヌンチャクで大暴れ(80点)
カンフーで悪い奴らを一網打尽、自意識過剰な話しっぷり、そして狙った獲物(美女)は逃さない。その男の名はブラック・ダイナマイト。彼が主人公の映画のタイトルもそのまま『ブラック・ダイナマイト』。1970年代に栄えたブラックスプロイテーション映画にオマージュを捧げたパロディ映画の本作はシュールで賢い笑いを散りばめた隠れた傑作。そして抱腹絶倒間違い無しの素敵な1作なのだ。
ブラックスプロイテーション映画というと、黒人の俳優達が主演で、スタッフにも多く黒人を起用した映画の事を指す。非常にエンターテイメント性の高い作品で、サウンドトラックにはファンクミュージック等を使用している。また、エクスプロイテーション系映画で、基本的には黒人の客を対象としているため、白人は悪者である事が多い(そして決まって一番悪いのは白人)。ブラックスプロイテーションで思い出されるのは、ハリウッドでそのジャンルを確立したゴードン・パークスの『黒いジャガー』や『スーパーフライ』等だが、本作では『THREE THE HARD WAY』に多くの影響を受けていると言い、内容的には『野獣戦争』等に通ずるものがある。
時は1972年、元CIAのブラック・ダイナマイトは、ある日実の弟がマフィアに殺害されてしまった事を知る。それにより、彼は再びCIAに呼び戻され、悪の蔓延る街で1人で弟の死に追いやった犯人を追跡する中で、その犯人が孤児院にヘロインを、ゲットーに不可思議なアルコールを流している事を突き止める。
オープニングには"アナコンダ"というモルトリカーのコマーシャルが流れる。それは自信過剰な黒人男と彼に服従的な女が登場するというもの。この妙なアルコール商品は度々物語りの中に登場するのだが、この商品にはあっと驚く真実が隠されており、監督のスコット・サンダースはそのアナコンダを始め、白人が黒人に対して抱く普遍的なコンプレックスを逆手に取ったジョーク等を散りばめ、物語をユーモアたっぷりに描く。
本作はパロディであるため、基本的に全てがポップなアニメの様。また同じオマージュ系でも、クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスの『グラインドハウス』というよりはジャスティン・リンの『FINISHING THE GAME』に近い印象を受ける。本作はどこを取っても笑えてしまうのだが、ブラック・ダイナマイトが女を手込めにするアフロヘアーの筋肉隆々なタフガイで、拳銃にヌンチャクを持って戦うという設定自体、既に可笑しい。しかも、人々は彼の事を必ず「ブラック・ダイナマイト」と呼び、誰も名前を略す者はいない。ヒーローの名前は略してはいけないのだ。
『ブラック・ダイナマイト』は、ブラックスプロイテーションのお決まりのスタイルを継承し、またその時代に作られたアクション映画に欠かせない要素(車が崖から落ちる時に、落ちる前になぜか爆発するとか)も取り入れた、その手の作品が好きな人にはハマってしまうちょっと特別な映画。また、舞台はゲットーからホワイトハウスにまで及び、予想外の凄い展開が待っている。これもまたクエンティン・タランティーノが新作『イングロリアス・バスターズ』で歴史的事実と関係なくとんでもないエンディングを用意した様に、本作でも映画愛に満ちた、映画だからこそのエンディングが用意されている。こんな素敵な映画は見逃すわけにはいかない。
(岡本太陽)