BIG FAN - 岡本太陽

◆憧れのスターにボコボコにされてしまったら、さてどうする!?(70点)

 映画『BIG FAN』、そのタイトルが映画の中にどんな人物が出て来るのか指し示す。野球ファン、ポップスターのファン、ハリー・ポッターファンと様々なファンが世の中にはいるが、本作の主人公ポール・アルフィエロ(パットン・オズワルト)はアメフト(NFL)のファン。また大阪に阪神タイガースファンがいる様に、ニューヨークに住むこの主人公は地元ニューヨーク・ジャイアンツに熱狂している。しかも、彼はアメフトのために毎日生きている様なもので、本作のタイトルが『オタク』でもかまわない程チームを崇拝している。

 35歳のポール・アルフィエロはニューヨークのスタテンアイランドに母親(マーシャ・ジーン・カーツ)と一緒に住んでいる駐車場整理員。彼は自称"世界一のニューヨーク・ジャイアンツ・ファン"で、夜中に放送される地元のスポーツ系ラジオ番組でもチームをサポートし、番組内でライバルであるフィラデルフィア・イーグルスファンのフィル(マイケル・ラパポート)と対立している。ポールはアメフトには熱心だが、無駄に人生を過ごしている、と家族からは理解されていない。

 そんな彼はある晩、同じくチームサポーターの友人サル(ケヴィン・コリガン)との食事中にジャイアンツのスター選手ビショップ(ジョナサン・ハム)を目撃してしまう。スタテンアイランドで彼は一体何をしているのか。気になる2人は心臓の高鳴りを抑えながら、車でビショップを追跡する。彼らがたどり着いたのはマンハッタンのとあるストリップクラブ。そこで思い切って憧れのビショップに話しかける2人だが、ファンどころかストーカー呼ばわりされ、ポールはビショップに大怪我を負わされてしまう。話をしたかっただけなのに、彼のそのチーム崇拝の熱心さが裏目に出てしまった。

 本作で監督を務めるのは、今年の映画各賞で話題になった『レスラー』の脚本家ロバート・シーゲル。彼は本作で監督デビューを果たした。彼は本作の脚本も手掛けており、『レスラー』同様、飾り気のない語り口が特徴だ。今回はミッキー・ロークが扮した落ち目のレスラーとは違い、探せばどこにでもいそうなキャラクターが主人公で、彼の日常が淡々と綴られてゆく形で物語が展開してゆく。途中大好きな選手に痛い目に遭わされるというハプニングはあるものの、そんな大惨事ですら物語上で簡単に済ませられるため、そこが本作のポイントではない事が伺える。『レスラー』よりも、より身近な世界で起こる小さな話なのだ。

 ポールは真っ暗な駐車場で夜勤をする時は、小さな管理室でラジオで話すネタをメモに書き連ねながら時間を潰している。また、好きな選手のポスターの張られた部屋で1人寂しく自慰行為に耽る姿には、ちょっと気味の悪さすら感じてしまうだろう。彼が持つのは執着心。執着は何かがきっかけで一瞬にして解ける事がある。しかし、ポールには執着を超える何かがある。それを知るのが本作の見どころ。彼が何なのか、この物語の主人公の本質が明らかになるのだ。

 パットン・オズワルトは『レミーのおいしいレストラン』のレミーの声を担当した事で知られており、俳優としてはコメディ映画を中心に活躍しているコメディアン。今回のポール役は今まで彼が演じてきた役とは随分違う印象を受ける。なぜなら、いつか何かとんでもない事を仕出かしそうな危険な雰囲気が漂っているからだ。アイドルやスターはファンを裏切る不祥事を起こす事がある。しかし、一途なファンは崇拝する対象を裏切ったりしない。ポールは稼ぎが少ないため、試合はサルとスタジアムの外の駐車場にテレビを持っていって観戦する。それはきっとポールにとっては最高に贅沢な時間。それを提供してくれるチームは何があっても守りたい。ポールは暴行事件により、複雑な状況に追い込まれるが、彼のチームに対する一途な想いは、まるで彼がもはやチームサポーターではなく、ディフェンダーであると言っている様だ。

岡本太陽

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