◆ティーン・エイジャーが、音楽を通して自分の秘めたポテンシャルを自覚していく姿は、青春映画ド真ん中の展開で、ストレートに感動できる(50点)
打ち込むものをみつけた喜びとかけがえのない仲間との友情が熱く伝わってくるバンド系青春音楽映画だが、サウンドの演出には疑問が残る。平凡な毎日をおくる内気な高校生コユキは、ある日、NY帰りの天才ギタリストの竜介と出会い、バンドに誘われる。千葉、平、コユキの親友のサクも加わってバンド BECKが結成された。コユキは懸命にギターを練習し、内に秘めたヴォーカルの才能を発揮、バンドも少しずつ成功を重ねていった。そんな時、竜介のNY時代のトラブルと、ライバルバンドの敏腕音楽プロデューサーの陰謀に巻き込まれたBECKは、大きな試練に見舞われる…。
いつも何かに飢えているのに、すべてをあきらめたかのような毎日を送るティーン・エイジャーが、音楽を通して、自分の秘めたポテンシャルを自覚していく姿は、青春映画ド真ん中の展開で、ストレートに感動できる。オープニングとエンディングの楽曲も、レッチリとオアシスという豪華なものだ。だがしかし。おそらく考え抜かれたであろう、この作品の音の演出には首をかしげたくなる。原作マンガは音楽に対する独特の描写で知られ、それゆえに強く支持されている。その原作をリスペクトした演出なのだが、映像と音の総合芸術が映画とするならば、これでは“逃げ”に等しい。配給会社から緘口令が出ているので触れることは出来ないが、原作ファンはいざしらず、映画ファンはこれでは納得しないだろう。ただしキャスティングは上出来。佐藤健や水嶋ヒロらBECKメンバーのバランスがよく、何度か登場するライブシーンもなかなか見栄えが良い。何より「バンドのメンバーは誰でもいいわけではなく、奇跡のような出会いによって生まれるものだ」との竜介のセリフが良かった。音楽の絆で結ばれた大切な仲間の存在を高らかに肯定する言葉で、多くのバンド系音楽映画に共通するメッセージだ。BECKとは、劇中に登場し、コユキと竜介が出会うきっかけとなるブルテリア犬の名前。とぼけた顔つきがユーモラスだが、ブルドッグの闘争心とテリアの俊敏性を併せ持つ優秀な犬だ。偶然からバンドの名前になるが、コユキやバンドの未来の可能性とダブってみえる。
(渡まち子)