◆半端な意思や能力はすぐに淘汰され、特別な才能を持った者だけが生き残る現実。見果てぬ夢を追う若者たちの姿を、音楽業界に飛び込んだ素人の女の子の目を通して、切ないメロディを奏でるかのようなしっとりとした映像で描く。(60点)
主人公が好きな女の子ためにギターを爪弾きながら口ずさんだ恋人を励ますための歌が、「大人の判断」で大衆を元気付ける歌謡曲に脱皮する。ごく個人的な歌が、まさにジャニーズのアイドルグループの歌のようにアレンジされ売り出される過程は、音楽業界のシステムをリアルに再現する。半端な意思や能力はすぐに淘汰され、特別な才能と向上心を持った者だけがプロとして生き残る現実。見果てぬ夢を追い、自分の目指す音楽こそ最高と信じて疑わない若者たちを、この業界に飛び込んだ素人の女の子の目を通して、切ないメロディを奏でるかのごとくしっとりとした映像で描く。
ロックバンド・ランズのライブを見た帰りにボーカルのナツと知り合ったアサコは、高校卒業後ランズの見習いマネージャーになる。ユキヤの歌で徐々に有名になったランズはナツの歌でメジャーデビューするが、それはロックとは程遠いポップス、やがて人気にも陰りが出始める。
孤独と絶望がにじみ出るユキヤの悲しいメロディに対し、ナツの歌はあくまでも「元気」「勇気」と前向きだ。アサコは特定のメンバーと付き合うとバンドの結束が乱れることが分かっているのでナツとは明確に一線を引いているのだが、ナツは本気とも冗談とも取れない態度でアサコに接している。彼らの浮ついた行動が気に食わないユキヤがアサコを敵視するなど、甘ったるい青春や友情ではなく、嫉妬や確執といった複雑な人間関係にまでキチンと言及しているところが、内幕をのぞき見したい好奇心を刺激する。
物語はアサコを語り部にしているので、音楽業界になじみのない者にもすんなりこの世界に入り込める。マネージャーが味わう、音楽の理解者でありながら創作には手を貸せないもどかしさ。それを乗り越えて商売にするための戦略を練る姿。ミュージシャンの成功と挫折という手あかのついたエピソードだけでなく、そういった彼女の人間的進歩をきちんと盛り込んでバランスを取り、映画はいい意味で普遍的になっていた。アサコがランズとともに苦悩しつつ成長していく時間は、彼女が人生を見つける旅でもあるのだ。
(福本次郎)