◆人間の営みを見守ってきた大きなクヌギの木。世の中は変わっても、人の思いを静かに受け止め後世に語り継いでゆく。映画は戦国時代の武将と姫の恋を通じて、勇ましく死ぬより、信義を守りつつ生き抜くことの大切さを訴える。(50点)
四百数十年の間、人間の営みを見守ってきた大きなクヌギの木。世の中は変わり、文明は進歩しても、人の思いを静かに受け止め後世に語り継いでゆく。映画は戦国時代の武将と小大名の姫の恋を通じて、勇ましく死ぬより、信義を守りつつ生き抜くことの大切さを訴える。戦に明け暮れた若者たちに現代の視点から焦点を当てて細かい矛盾を帳消しにし、むしろ少年とその両親が過去にタイムスリップするなどという安っぽい設定が、心のままに生きられなかった当時の人々の心情を浮き彫りにする。
根性無しの小学生・真一は自宅近くのクヌギの木の根元で古い手紙を発見すると、天正2年にいた。偶然、又兵衛という武将を救ったことから春日城に招待される。又兵衛は城主の娘・廉姫を相愛の仲だったが、お互い言いだせずいる。そこに近隣の大名・高虎が廉姫に縁談を申し込む。
CGで見事に再現された春日城が、立派な天守閣を持った城郭ではなく、大きめの砦という佇まいなのがよい。ふもとを土塁で囲っただけの小高い丘の上に建つ望楼つきの館に武将たちが詰め、頂上に至る道すがら城内に勤務する武士たちが家族とともに住んでいる。乱世といえども確かな日常があり、彼らはみな本音のところでは家族そろっての平和な暮らしを願っている。そこに現れた真一一家は彼らにすんなりと溶け込むなど、物語に形式ばったところはない。時代劇のリアリティなど古文書や遺跡から類推するしかないわけで、こういう展開にも違和感はなかった。
やがて廉姫が縁談を断わり、高虎が大軍を率いて攻め作る。その際の合戦も、ゲリラ戦や攻城戦など従来とは違う発想で見せ場を作る。まあ、現代に残った石碑から、真一の父が四駆で突撃して敵を蹴散らすというのは予想できたが…。結局、又兵衛は狙撃され、廉姫とは結ばれない。それでも1人の男として愛する者のために命をかけるとはどういうことであるかを学んだ。そして現代に戻った真一が、又兵衛からもらった勇気で、問題に立ち向かう姿がたくましく輝いていた。
(福本次郎)